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恥ずかしいけどやっぱり青春の1枚と言っていい 『Lean Into It』 MR. BIG

私が高校生の頃、Mr. Big、Badlands、Blue Murderという3つのバンドが同じ年にデビューして、かなり話題になりました。

限られた小遣いから、その中の1枚だけをCDで買うことにして、悩みに悩んだ末に選んだのがMr. Bigでした。“Addicted To That Rush” のイントロから吹っ飛ばされた1stアルバムには本当に衝撃を受けましたし、高校生活を共に乗り切った大切な1枚でした。

そんな大好きだったバンドの2ndとなる本作がリリースされたのは1991年4月10日、ちょうど進学してひとり暮らしが始まったばかりの頃でした。

まだ慣れていない大学内で生協を見つけ、入ってみるとどういうわけかCDコーナーがあり、そこに並んでいたのを見つけたのです。

確か発売日前日のことだったと思いますが、待ち望んでいたアルバムを思いがけないところで入手でき、まだ学校の誰とも会話もできておらずそのあとの予定もなかった私は、住み始めたばかりのワンルームアパートに急いで帰った記憶があります。

帰宅してすぐにCDプレーヤーにセットし、まだ慣れない部屋のスピーカーから “Daddy, Brother, Lover, Little Boy” が流れ始めたその瞬間に、私のひとり暮らしは始まったと言っても過言ではありません。まさしくオープニングトラックとなりました。いや痺れたのなんのって。

よりバンド感が増した本作は、バラエティに富んだ楽曲を途轍もない技術を持つミュージシャンが適度に技を織り交ぜながら、エリックのヴォーカルを盛り立てていく素晴らしいアルバムでした。

全米No.1ヒットの ⑾  To Be With You 、シングルになった曲やライブでも定番となっている曲はもちろんですが、その間に収められている曲もとにかく素晴らしいのです。

特にバンドのグルーヴがエグい ⑹ Never Say Never や、どうしてこれがボーナストラックだったのか全く理解できない ⒄ Love Makes You Strong(当時は12曲目)は是非とも聴いてみてもらいたい曲です。

そして、いま聴くと ⑻ My Kinda Women や ⑼ A Little Too Loose が、当初にバッド・カンパニーやハンブル・パイなんかの名前をあげていたバンドのやりたい方向性だったのかなと理解できますし、渋さを感じることができます。

あの頃はギターとベースにばかり耳を奪われていましたが、改めて本作を頭から聴いて感じるのは、ハーモニーの美しさと全曲を通じて極めて効果的なパットのドラミングです。今は亡きパットがどれほどバンドに貢献していたかを、今更ながらに知ることになってしまいました。

少し話が逸れますが、当時、来日したバンドは仙台まで来ることはあっても、札幌までは来てくれないことがほとんどでした。

だからなのかはわかりませんが、札幌では(確か)WOWOWで放送されることになった『Bump Ahead』(1993年)リリースに伴う来日公演を大画面で観るというイベントが企画されました。

衛星放送はもちろんこと、WOWOWなんてそれほど多くの家が観れるものではなかった時代でしたし、一人暮らしの学生となれば尚更です。どこの会場だったかは忘れてしまいましたが、この機会を逃すまいと喜んで観に行きました。体育座りをして大画面を見つめながら「会場で観ることができる人達が羨ましい」と思ったことを覚えています。

そのライブでパットが披露していたのが “Yesterday” を歌いながらのドラムソロでした。初めて見るパットのドラミングに驚いていた矢先、ドラムソロ中に歌うというアイデアとそれを実行するサービス精神、その麗しい歌声にすっかりファンになってしまったものでした。

こんな歌声も持つパットがコーラスに加わり、のちの教則ビデオで話題になるテクニックの数々(トットコトットコ)を駆使していたのですから、彼を失ったのはあまりにも大きなことでした。雑誌などで知る人柄を思うと「良い人ほど…」と感じずにはいられません。64歳は早過ぎました。

1991年は雑誌で特集が組まれるほどに名盤が多く、そういう意味では本当に恵まれた入学初年度だったのですが、その最初の1枚が『Lean Into It』になります。

本作を聴くと今でも、もう取り壊されて無くなってしまったワンルームの部屋と、そこで始まったひとり暮らしの心細さを吹き飛ばしてくれた最初の再生を思い出します。地味な青春でしたけど。

日本での独特な売れっぷりから、コアなHR/HMファンにはちょっとあれかもしれないMr. Bigですが、『Lean Into It』はこんな思い出も加わって大切なアルバムになっています。


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