らしさ満点ではなかったかもしれないけど完成度は高い 『Persistance Of Time』 ANTHRAX
アンスラックスならおそらく、『Among The Living』か『Spreading The Disease』が代表作となっていると思います。もちろん私も大好きですし、これらに『State Of Euphoria』を加えてよく聴いたものです。中でも『Among The Living』が持つ威力はすごくて、高校の学祭で友人のバンドが “Indians”を演った時にはそれはそれは盛り上がりました。良い思い出です。
この辺りのアルバム群が最もアンスラックスらしさが発揮された頃になると思いますが、個人的にアルバムとして素晴らしいと思っているのが1990年にリリースされた『Persistance Of Time』です。
それまでのアンスラックスにあったユーモアやコミカルな要素(良くも悪くもI'm The Manの印象が強かったんですよね)が後退し、暗さ、シリアスさが押し出された本作は、いま思うと90年代に入って移り変わっていく音楽シーンを反映していたのかもしれません。
この作風は賛否が分かれたところだったと記憶していますが、当時の私はバンドがそれまで以上にきっちりとスラッシュ・メタルをやってきてくれたように感じていて、「やってくれたぜ!」と喜び、通学中によく聴くカセットテープとなりました。
確か、バンドは本作レコーディング中にスタジオが火災に遭い、多くの機材を失ってしまったはずです。その困難や、否応なくあったであろう機材の変更が音に反映したのかもしれませんが、より硬質な音がとてつもなくカッコ良かったですし、同年にはパンテラが『Cowboys from Hell』をリリースしていますから、そういう変化の時期だったのかもしれません。
⑴ Time からしてかなりシリアスな雰囲気を感じとれますが、⑶ Keep It In The Family でがっちり心を掴まれました。冒頭のギターリフ音からして痺れる!スコット・イアンのカッコよさよ!ゆっくりしたテンポで重たく進んでいきながら、テンポチェンジしていく展開が何とも気持ちよく、ベラドナの歌うメロディも素晴らしいです。
もう1つのお気に入りは序曲的 ⑹ Intro To Reality からの ⑺ Belly Of The Beastです。合わせて8分超えの大作ですが、まさしくドラマチック!私の好きなスラッシュメタルはこういった展開を持ち合わせている曲でした。
本作で最も多くの人に聴かれたのはおそらくジョー・ジャクソンのカバーとなる ⑻ Got The Time だろうと思います。シリアスなトーンの本作の中で唯一と言っていいアンスラックス的な陽気さを備えたこの曲は、軽快に進んでいきながらも徹頭徹尾アンスラックス・サウンドというミスマッチが心地良い仕上がりになっています。
スピードを求める当時のキッズ達の期待に応えるべく、スラッシュメタル的スピード感に溢れる ⑾ Discharge で満足してアルバムは終わります。
アンスラックスにメタリカ、メガデス、スレイヤーを加えてビッグ4とか呼んだりしますが、アンスラックスにジョーイ・ベラドナがいたことは大きな違いでした。本作に限らず、ベラドナの歌唱のおかげで聴きやすく感じる曲はたくさんあります。
言いつつ、私はヴォーカルがジョン・ブッシュに代わってからのバンドも好きですが、今回改めて本作を聴いてみて思ったのは、リードギタリストのダン・スピッツ(現在は時計職人)はやっぱり居たほうが良かったですね。ソロ・パートはどれも曲にあった展開を持った自然と覚えてしまうようなソロが多く、特徴のひとつだったと思います。
そして、ベースの音が効いているのも本作の好きなところです。1988年にリリースされたベースが聴こえない『...And Justice For All』(メタリカ)の後であり、まだブラック・アルバムがリリースされる前のタイミングでしたから、「やっぱりこうじゃないとな!」と余計に私を喜ばせました。
本作にはとても満足していた私でしたし、セールス的にも全米24位と好成績だったのですが、この翌年にコンピレーションアルバム『Attack of the Killer B’s』がリリースされたことで、なんとなく本作の印象が薄れてしまったかもしれません。ここにはかなり話題になったパブリック・エネミーとの “Bring The Noise” が収録されていたのです。
さすがにエアロスミスとRun DMCよりは後になりますが、ミクスチャー(もしくはラップメタル)の先駆けとも言える“I’m The Man” (1987年)があったわけですから、パブリック・エネミーとのコラボレーションに違和感はなかったのですが、なんだかちょっと勿体無い感じはありました。
『Persistance Of Time』は決してアンスラックスらしくはないのかもしれませんが、しっかりとスラッシュメタルと呼べる音でありながら、普通の音楽ファンも通して聴ける完成度があると思います。
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