いま振り返るとメンバーの豪華さが際立ちすぎる 『Blue Murder』 BLUE MURDER
ジョン・サイクスと言えばやはりWhitesnakeでの『Whitesnake(サーペンス・アルバス)』が代表的な仕事になると思います。このアルバムの全ての新曲(「Crying In The Rain」と「Here I Go Again」は再録)をデヴィッド・カヴァデールと共作しており、ギター・プレイはどのパートも驚異的です。
いつ、どこから聴いても「やはりカッコいい」とシビれる説明不要の名盤ですが、残念ながらジョンはツアーどころかMVにすら顔を見せることなく脱退となってしまいます。この後にジョンが自らバンドを結成してリリースしたのが『Blue Murder』(1989年)です。
当時はこのBlue MurderとMr. Big、Badlandsが同じ年に出るということで、高校生だった私はお小遣いの中からどれをCDで買い、どれをレンタルするのかを考えなければなりませんでした。今思うとなんて幸せな悩みだったんでしょう。
雑誌を読む中でCD購入を決めたのはMr. Bigで、Blue MurderとBadlandsはレンタルし、カセットテープに録音して聴いていたのを覚えています。のちにどちらもCDを購入するわけですが、この3枚は本当によく聴いたものでした。私の高校生活を象徴する3枚と言ってもいいほどです。
本作『Blue Murder』で驚かされたのはバンドよりもギターよりも、まずジョンの歌でした。「こんなに歌上手いの⁈ 反則じゃない!」と心底驚きながらも「こんなの弾きながら歌えるんかな?」と心配になったくらいでしたが、そんなものは杞憂中の杞憂。天才っていうのはなんでも出来るんですな。旭川に住む高校生はライブを観に行けるわけもありませんでしたが、雑誌のライブレポートでジョンのミュージシャンシップを知るのでした。
歌の上手さ(っていうか声もいいっていう…)は想定外でしたが、ギター・プレイはもちろん「サーペンス・アルバスでギターを弾いているその人」という感じで、リフもソロも素晴らしいとしかいいようのないものばかり、つまりは曲の完成度が恐ろしく高いものばかりになっています。
しかもこれらの曲を支えているのがカーマイン・アピスとトニー・フランクリンっていう…。もちろん当時もこの2人にどのくらい実績があるのかは読み知っていましたが、いま振り返ると「そんな豪華なバンドがあったんですな」と懐古主義を発動してしまうほどにすごい面子だったことがわかります。
カーマインのドラムはどんなテンポの曲でもド迫力で、そこかしこでカーマイン印のフィルインが聴けて、そこにトニーのフレットレスならではとしか言いようがない独特のベース音が絡み、それらがうるさくならずに曲をよりカッコよくしているという奇跡。とんでもないリズム隊です。
まさしく捨て曲なしの本作ですが、中でも超絶ドラマチックな ⑶ Valley Of The Kings やキャッチーなのもできますよ的な ⑷ Jelly Roll 、ドラムイントロから気絶させられる ⑸ Blue Murder 、ハードロック然とした ⑼ Black-Hearted Woman などは出色の出来だと思います。
ここにきっちりとスライドが決まりまくるリフがカッコ良すぎる ⑴ Riot と ⑵ Sex Child 、「この感じはわしらにしか出せんじゃろ」的なグルーヴがエグすぎる ⑺ Billy と ⑻ Ptolemy 、そして「そうです、Is This Love で弾いているのは私です」の ⑹ Out Of Love が加わる全9曲は、私にとって完璧です。
本作はのちに「衝撃プライス1100」として発売され、そこには「マスター: 2002年(国内製作)」の記載が! 重複覚悟で買ってみると確かに音質は良くなっていて(霞がかったように感じていた音像がよりクリアになっているように感じます)、いまだにCDを取り込んだiTunesで音楽を聴いている私にとっては他の音楽との音量差が小さくなったのはありがたかったです。
現時点での最新作はSykes名義の『Nuclear Cowboy』(2000年)になっていて、TOOLの13年を遥かに超えて待たされていることになります。数年前に「もう出るよ」みたいな雰囲気を出していたのですが、『SY-OPS』と呼ばれるらしい新作はいまだに出ていません。
そこに収録されるであろう曲は公開されているものもありますので期待は高まるばかりなんですが、ここまで来たら辛抱強く待つしかありません。
※カーマイン・アピスはその後も様々な活動をしているようで、2004年から2005年にかけてパット・トラヴァースとアルバムを出しています。そこでも変わらぬ迫力で叩いていて、何曲かではトニー・フランクリンも参加しています。録音が新しい分、パット・トラヴァースの歌やギターも新鮮に聴こえて、こちらもお気に入りです。