ウィルソン姉妹だけじゃなくデニー・カーマッシにも惚れ直す 『Brigade』 HEART
Heartと言えばロック的には『Dreamboat Annie』(1976年)収録の「Crazy On You」か、『Little Queen』(1977年)収録の「Barracuda」なんだろうと思いますが、50歳前後の人からしてみれば80年代の煌びやかなイメージの方が大きいはずです。
洋楽を聴き始めて間もない頃に「Never」がヒットし、アルバム『Heart』(1985年)からはその後も続けてヒットが生まれました。
MTVによってMV(当時はビデオクリップと呼んでいたと思います)で曲を知るようになった頃で、誰もがウィルソン姉妹にポーっとなっただろうと思います。
バンドはこの後、『Bad Animals』(1987年)をリリースし、この2枚でHeartのファンになっていた私は当然のように『Brigade』(1990年)を入手し、本作とともに90年代を過ごしました。
10枚目となる『Brigade』におけるメンバーはアン・ウィルソン(ヴォーカル)とナンシー・ウィルソン(ギター / ヴォーカル)、ハワード・リース(ギター / 23年もバンドにいた功労者です)、マーク・アンデス(ベース)に、我らが(?)デニー・カーマッシ(ドラム)です。
実はこの5人、1983年の『Passionworks』から続いていますので、まさしく旅団(Brigade)。本作の翌年にリリースされたライブ盤『Rock the House Live!』におけるタイトな演奏や美しいコーラスは当然だったのかもしれません。
プロデューサーはリッチー・ズィトーで、この頃でいうとBad EnglishやWhite Lion、復活したCheap Trickなどのアルバムに関わっていて、音楽をハードなポップに仕上げるのが上手な人だったのだろうと思いますし、本作にもその手腕は活かされています。
なんといっても本作は ⑴ Wild Childの入りで決まります。ザクザクめのギターにバスドラムが加わってからのフィルインではやくも昇天。さすがは元モントローズのデニー・カーマッシ。
のちにはカヴァーデイル/ペイジやホワイトスネイク、もちろんサミー・ヘイガーのソロ作でも叩いていますし、歴を見るとランディ・マイスナーやジョー・ウォルシュのソロ作、38スペシャル(←これは持ってるのに知らんかった!)や忘れがちなシンデレラの2nd(どういうわけかコージー・パウエルとデニーが叩いた曲が収録されています)もあり、そのドラミングがカッコいいのは当たり前なのですが改めて惚れてしまいましたね。フィルイン後のギターリフもシビれますし、アンの歌唱はまさしくロック・スターです。
そして続くのが大ヒット曲 ⑵ All I Wanna Do Is Make Love To You 、この冒頭の2曲にクレジットされているのがご存知ジョン・“マット”・ラング、いやこの人ヤバすぎる!
美しいメロディや展開で、素晴らしい曲だと思うのですが、元々はドン・ヘンリーの為に書かれたらしいこの曲を、アンやバンドは好きではなかったようなのです。確かに歌の内容はいささかアレなのですが、それもアン姉さんクラスが歌うからサマになりますし、収録されたことに感謝したくなる出来栄えだと思います。
こんなにも長く聴いてきたこの曲ですが、もしこの時すでにマット・ラングがシャナイア・トゥエインと知り合っていたとしたら、この曲はそちらにまわっていたかもしれないと考えたりすると、何事にも巡り合わせやタイミングがあるもんだと感慨深くなります。
その後もタイトな演奏に支えられたフックのある曲が続くのですが、⑹ The Night でやっとクレジットにウィルソン姉妹の名前が出てきます。この曲にはサミー・ヘイガーとデニーの名前もあり、「そりゃカッコいいはずですよ」の曲です。ギターソロも素晴らしいのですが、デニーのドラムが最高すぎる!
⑺ Fallen From Grace もサミーとデニーがクレジットされている曲で、典型的なハード・ロックであり、おじさんとしてはこういう曲を聴きながらドライブしたいものです。
⑻ Under The Sky は長らく共作してきたスー・エニスとウィルソン姉妹の曲で、これこそがHeartらしい曲なのかもしれません。コーラスの展開、素晴らしい。
⑸ I Didn't Want To Need You やと ⑼ Cruel Nights は当時によく聴いた感じの、いかにもヒットしそうな曲なのですが、それもそのはずどちらもダイアン・ウォーレンによる曲なのです。
⑾ Call Of The Wild はバンド・メンバー全員+スー・エニスによる曲で、古くからのファンも納得するであろうハードロックになっています。くどいけどデニーに惚れる。ドラムの音の処理は時代ごとの流行の影響を最も受けたように思いますが、リアルタイムでこれを聴いていた私には気にならず、今聴いてもカッコいいのです。
ナンシーがメインヴォーカルなのは ⑽ Stranded と ⑿ I Want Your World To Turn の2曲で、アンとは違った繊細な声で美しい歌を聴かせてくれています。
⒀ I Love You まで、バラエティに富んだロックが並んだ聴きごたえのあるアルバムになっていると思いますし、私には『Heart』から本作までの3枚はいわゆる黄金期に見えますが、バンドにとっては必ずしもそうではない面もあったようです。
ウィルソン姉妹の美しさだけでなく、自分たちの曲と確かな演奏力で名を上げた70年代と比較すると、80年代初めの2作が失敗(『Passionworks』は悪くないと思うんですが)したこともあり、外部ライターによる曲が増えています。
外部ライターの力を借りながら復活するバンドが多い時代でもあったのですが、バンドにとってはきっと受け入れ難いことだったでしょう。
また、MVによるプロモーションが普通のことになり始めた時代でもあり、必要以上に飾りたてられたのも不本意だったかもしれません。
しかしながら私はこの5人によるHeartの時代が好きですし、Brigadeと名付けられたこのアルバムが大好きなのです。
バンドは本作以降、共作者の名前はありながらも再びウィルソン姉妹による曲が中心になっていきます。
11枚目の『Desire Walks On』(1993年)のほとんどに2人はクレジットされていて、聴きどころはたくさんあるアルバムなのですが、運悪くグランジ/オルタナ・ムーブメントの真っ只中となり、それまでのようなアルバムセールスとはいきませんでした。
アルバムからヒットした「Will You Be There」がまたしてもマット・ラングの曲だったのも歯痒かったでしょう。この後、様々な活動はありつつも12枚目『Jupiter`s Darling』の音を聴くには2004年まで待たなければなりませんでした。
ウィルソン姉妹は2012年に、レッド・ツェッペリンがケネディ・センター名誉賞を受賞した際の式典において、ロバート・プラント、ジミー・ペイジ、ジョン・ポール・ジョーンズを前にして(オバマ夫妻も!)、「Stairway To Heaven」を演奏するという、(私からすれば)身もすくむような栄誉に授かっています。
ドラムはジェイソン・ボーナムが務めており、そのパフォーマンスは本当に感動的で、レッド・ツェッペリンの3人も満足そうに観ているのが印象的です。
70年代から続けてきた2人の格を知ることができる映像になっています。