メタル・ゴッドでなければ何の問題もなかった 『Turbo』 JUDAS PRIEST
ジューダス・プリーストが16作目のリリースを2024年3月に控えています。ファンからは“メタル・ゴッド”と称され、まさしくヘヴィ・メタルを象徴するバンドの新譜を楽しみにしている方もたくさんいらっしゃるでしょう。
ジューダス・プリーストの代表作と言えば、『British Steel』(1980年)や『Screaming For Vengeance(復讐の叫び)』(1982年)、50歳前後だと『Painkiller』(1990年)を挙げる人が多いかもしれません。
私が一枚選ぶとすれば『Defenders Of The Faith(背徳の掟)』(1984年)になりますが、ここ数年のお気に入りはリリース当時に賛否両論だったとされる『Turbo』(1986年)です。
当時の状況を考えてみると、ヘヴィ・メタル史に燦然と輝く金字塔となる『復讐の叫び』が大ヒット、続いてリリースされた『背徳の掟』も前作に劣らぬ傑作とされ、まさしくメタル・ゴッドの名に恥じない存在となっていたところにリリースされ、物議を醸したのが『Turbo』ということになります。
本作における大胆なギター・シンセの導入とそれに伴って大幅にキャッチーな曲が増えたことは、時代を考えれば自然な流れだったと思いますが、メタル・ゴッドと呼ばれるバンドのアルバムとして受け入れることができないファンがいたことは想像に難くありません。
私のリアルタイムは『Ram It Down』(1988年)からになりますが、その時でも「いやいや、『Turbo』なんか聴いてどうする?」みたいな感じはあったように記憶しています。
実際、ギター・シンセは多用されていて、当時のファンは面食らったことだろうと思います。声は間違いなくロブなのに、「ほんとにジューダス・プリースト?」と思った人もいたでしょう。
『復讐の叫び』と『背徳の掟』を通過した後ですから、特に本作の ⑶ Private Property から⑸ Rock You All Around the World までの流れには拒否反応を示したんじゃないでしょうか?「ジューダス・プリーストにこんなのやって欲しくない」と思っても不思議じゃありません。いまの私も聴きながら「RATT(ラット)じゃねーか」と毎回ツッコんでいます。
ただ、それはあくまでもメタル・ファンにとってはそうだったというだけで、普通の音楽ファンにとってはそれまでよりも聴きやすい楽曲がたくさん収録された良盤だったはずです。メタル・ゴッドでさえなければ何ら問題はなかったでしょう。ゴキゲンなHR/ HMの名盤なのです。
現在ではポップな要素がありつつもしっかりとジューダス・プリーストらしさもあるアルバムと再評価されているようです。そもそもバンドのディスコグラフィーを振り返れば、それまでもキャッチーな曲(“Living After Midnight” や “You’ve Got Another Thing Comin’” は間違いなくキャッチーだと思います)は配置されていましたから、これもバンドの持ち味なはずなんですが、前2作からの変化が大きすぎたのかもしれません。
当初予定されていたとされる『Ram It Dawn』の楽曲と合わせての2枚組となっていたら、硬軟織り交ぜた大作と言われていたかもしれませんね。
私も若い頃はメタル然としたアルバムを聴いていましたし、『Painkiller』はヘヴィ・メタルの聖典と化してますが、さすがに疲れるようになりました。
ここ数年はキャッチーでゴキゲンな『Turbo』が大好きです。 ⑷ Parental Guidance や ⑸ Rock You All Around the World は最高!他の収録曲もギターソロはしっかりとジューダス・プリースト的ですし、ちゃんとヘヴィ・メタルです。