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全くキラキラしてないクリスマスだけど、そこが良い 『Christmas』 LOW

そろそろ街はクリスマスムードが高まり始めるのではないでしょうか? キリスト教徒ではない私ですが、それでも浮ついた気持ちになるのがクリスマス。この時期は多くのクリスマス・アルバムを楽しみます。

そもそもクリスマス・ソングには良い曲が多く、様々なアーティストが歌うそれらの曲(伝統的なものでも、オリジナルでも)を聴くと、やっぱり楽しい気持ちになります。クリスマスが持つ力ってすごいですね。

ただ、何かが輝きを増せばその影は濃くなるもの。喜びいっぱいの子どもがいる反面、辛かったり恥ずかしかったりする子どももいるでしょう。おじさんになってからは、スーパーに並ぶお菓子の入った赤いサンタブーツを見るたびに「これすらも手に入らない子どももいるかもな」と思うようになりました。

キラキラしている人たちの中にも、何かを忘れたくて無理にそうしている人がいるかもしれません。そんな風に考え出すと、もうおじさんになっていて本当によかったと思います。あの頃の自分が過ごすには、現代のクリスマスはあまりにも眩しく、厳しそうです。

これらは更年期のおじさんによる勝手な「要らぬお世話」的心情なのですが、そんな私のお気に入りクリスマス・アルバムが LOW(ロウ)の『Christmas』(1999年)です。


LOWは1993年から2020年までがトリオ編成で、その間に4人のベーシストが在籍していますが、基本的にはミミ・パーカー(ドラム/ヴォーカル)とアラン・スパーホーク(ギター/ヴォーカル)の夫婦二人による音楽と考えていいと思います。キャッチーさとは縁遠いその音はまさしくインディー・ロックと呼べそうです。

⑴ Just Like Christmas の音にはかろうじてクリスマス感がありますが、その歌詞にキラキラした感じはありません。

ストックホルムから向かう途中に雪が降り始め、同行者は「クリスマスみたい」と言いますが、“But You were wrong. It wasn’t like Christmas at all” と続きます。オスロに着く頃には雪は消えてしまいますし、道に迷いますし、小さなベッドで寝ることになったりするのです。

それでも、 “But We felt so young” と歌われます。クリスマスに求めたくなるものとは関係なく、そう感じられる二人が羨ましくなりますね。その感情こそを “It was just like Christmas”と繰り返し歌っているのではないかと思います。ミミ・パーカーの美しくもやさしい声で朴訥に歌われると、余計にグッときます。

⑷ If You Were Born Today では、「あなた(イエスを指していると思われます)が今日生まれていたら、8歳までに死んでしまうだろう」と歌い始められます。不穏な歌い出しですが、どうやら子どもたちを取り巻く現代社会の厳しさ(あるいは冷たさ)を強調しているようです。私の知るクリスマス・ソングに感じられる祝祭的な雰囲気とはかけ離れた歌なのですが、考えるきっかけを与えてくれます。

⑻ One Special Gift もまさしくその言葉の通りで、本当に大切な人への特別な贈り物を選ぶ行為の尊さを考えさせられます。

本作にはGAPのCMにも使われたという ⑶ The Little Drummer Boy (ボブ・シーガーが歌ってたやつです)や ⑹ Silent Night も収録されており、間違いなくクリスマス・アルバムなのですが、それらの曲にもキラキラした感じはありません。でも、そこが堪らなく良いのです。


LOWの音楽は、のちに電子的でノイジーな要素を取り入れたものに変化していきます。その音楽は決して聴きやすいものではなかったりするのですが、なぜか心に残る曲が多いです。今回は時期的なこともあって『Chrismas』について書いてみましたが、フル・アルバムなら2011年の『C’mon』がお気に入りです。

現実世界は本当に厳しくて、ミミ・パーカーは2022年に55歳で亡くなっています。私のような「にわかLOWファン」ですらこんなにも残念なのですから、夫でもあるアランの喪失感は計り知れません。

2023年にはデス・キャブ・フォー・キューティーがLOWの “The Plan” をカバーしていますが、本当に素晴らしいです。

あらためてミミ・パーカーの御冥福をお祈りします。

そして少し早いですが、皆さんどうぞ良いクリスマスを。

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