最新の成立法律や法改正の情報をお届け!『法律の動向』Vol.17
『法律の動向』では、法律実務家向けの隔月刊誌「法律のひろば」や、自治体職員向けの月刊誌「地方財務」の掲載記事から、最新の成立法律や法改正に関する情報を厳選してお届けします!
※本記事は、「地方財務2024年5月号」の「最新法律ウォッチング」に掲載のものです。
最新法律ウオッチング―特定不法行為等に係る被害者の迅速かつ円滑な救済に資するための日本司法支援センターの業務の特例並びに宗教法人による財産の処分及び管理の特例に関する法律
2023年の臨時国会において、特定不法行為等被害者特例法が成立した。
23年10月、文部科学大臣は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)について、長期間にわたり継続的に財産的利得を目的として献金の獲得や物品販売に当たり、多数の者を不安や困惑に陥れ、相手方の自由な意思決定に制限を加えて、相手方の正常な判断が妨げられる状態で献金や物品の購入をさせて、多数の者に多額の財産的損害、精神的犠牲を余儀なくさせ、その親族を含む多数の者の生活の平穏を害する行為をしたことが宗教法人法に基づく解散命令の事由に該当するとして、東京地裁に対し、解散命令請求を行った。
これを受け、その被害者の迅速かつ円滑な救済が図られるようにする必要が特に高いとして、民事手続全般を通じた救済を後押しすべく、特定不法行為等被害者特例法案が衆議院の議員立法として国会に提出され、成立した。
特定不法行為等被害者特例法
●定義
「対象宗教法人」とは、法令に違反して著しく公共の利益を害すると明らかに認められる行為をしたことを理由として、宗教法人法に基づき、所轄庁等の公的機関により解散命令の裁判の手続が開始された宗教法人をいうこととした。
また、「特定不法行為等」とは、解散命令請求等の原因となった不法行為、契約申込み等の取消しの理由となる行為等その他の行為や、これらと同種の行為であって、対象宗教法人やその信者その他の関係者によるものをいうこととした。
●法テラスの業務の特例
日本司法支援センター(法テラス)は、特定被害者法律援助事業として、特定不法行為等の被害者について、その資力の状況にかかわらず、特定不法行為等に関する民事事件手続の準備や追行のために必要な費用の立替え、民事保全手続に附帯する担保の提供等の援助する業務を行うこととした。
また、法テラスが立て替えたり担保を提供した費用の償還については、被害者の迅速かつ円滑な救済に資するよう、民事事件手続の準備や追行がされている間猶予し、かつ、被害者が一定以上の資力を有する場合等を除き、免除できることとした。
●財産の処分・管理の特例
宗教法人の所轄庁(文部科学大臣か都道府県知事)は、被害者が相当多数存在することが見込まれ、財産の処分や管理の状況を把握する必要があると認める対象宗教法人を指定宗教法人として指定できることとした。
そして、指定宗教法人は、不動産を処分し、あるいは担保に供しようとするときは、その少なくとも1か月前に、所轄庁に対し、要旨を示してその旨を通知しなければならず、所轄庁は、この通知を受けたときは、速やかにその要旨を公告しなければならないこととした。指定宗教法人がこれに違反して不動産の処分や担保としての提供をしたときは、無効とすることとした。
また、指定宗教法人は、四半期ごとに財産目録、収支計算書、貸借対照表を作成し、これらの写しを所轄庁に提出しなければならないこととした。
さらに、所轄庁は、指定宗教法人の要件に該当し、財産の内容や額、財産の処分や管理の状況その他の事情を考慮して、財産の隠匿や散逸のおそれがあると認める対象宗教法人を特別指定宗教法人として指定できることとした。その上で、特定不法行為等の被害者は、所轄庁に対し、特別指定宗教法人から提出された財産目録等の写しの閲覧を求めることができることとした。
●施行期日等
この法律は、法テラスの業務の特例については公布の日(2023年12月20日)から3か月以内の政令で定める日(24年3月19日)から、その他については公布の日から10日を経過した日から施行された。
なお、この法律は、施行の日から3年で効力を失うこととされた。
国会論議
国会には、この法案のほか、被害者による個別の民事手続による対応は困難であるとして、裁判所が、所轄庁等の請求等により、解散命令請求等がされた宗教法人の財産に関し、管理人による管理を命ずる処分その他の必要な保全処分を命ずることができることとする法案も衆議院の議員立法として提出され、衆議院では、両案について審議が行われた。
後者の法案については、民事保全手続があり、包括的な財産保全の仕組みを設けることは、信教の自由の過大な制約になりかねないとの指摘がされ、成立には至らなかった。なお、成立した法律については、衆議院における修正により、附則に設けられた法施行後3年を目途とした検討条項において、財産保全の在り方を含めて検討を加えるものとされた。
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