弁護士の交渉学【遺産分割編①】
新刊書籍『弁護士の交渉学―事例にみる実践的交渉スキル―』の一部を抜粋してお届け!
第2弾は「第3章 遺産分割事件の交渉学」の「特別受益と寄与分にこだわる相続人との交渉」から、Scene1・2を特別公開します!
S c e n e 1 相手方と協議する
A 亡B様の遺産目録を作成してみましたので、皆さんにお渡しいたします。
Z 遺言書がないから、きょうだいで3等分することになりますか。
A 確かに法定相続分で分割協議をすることになりますが、Xさんは、Yさんには医学部の学費、Zさんには生活費の補助という特別受益があるといっています。
特別受益とは、いわば遺産の前取りということで、これを死亡時の遺産の中に持ち戻すことになります。
さらに、Xさんは、Bと同居して食事や身のまわりの世話をして食費等を浮かせたし、5年前に発症した認知症についての自宅介護をBが亡くなるまで行って、介護費用を浮かせ、その分遺産の減少を防いだから、寄与分があるといっています。
Y Xは、私の学費について何といっているんですか。
A 6年間の授業料のほかに、入学金、寄付金、下宿費や書籍代等も加えると、2000万円は下らないといっています。
Z 亡父Bが私に渡してくれた生活費の不足分については何といっているのですか。
A 亡父Bさんからは、実家に来るたびに10万前後の現金を渡していて、トータルで少なくとも500万円にはなっていると聞いたとのことです。
Z そんなに渡されていません。しかも、亡父Bが私にお金を渡したのは、孫の学費の足しにしろということで、孫にくれたのです。
Y Xの寄与分については何といっているのですか。
A 母親が死亡してからの5年間は、食費や身のまわり費用を負担したが、その額は1年あたり少なくとも200万円の5年分で1000万円、さらにその後の5年間の療養介護によって1年あたり300万円、5年で1500万円の介護料が浮いているので、これを勘案して、全遺産の20%が寄与分だといっています。
Z とんでもない話です。介護といったって、大したことはしていません。話になりません。
Y これでは話にならないので、帰らせてもらいます。
A 今後の話し合いはどうしますか。
Y 裁判でも何でもしてくださいよ。だいだい弁護士なんだから、公正な立場で話すと思っていたのに、Xの言いなりではないですか。
A 弁護士は、依頼者のために最善を尽くす職業で、決して中立の立場に立つわけではありません。今後のことは、Xさんと相談してご連絡するようにいたします。
▶Scene2は、こちらから
※本文中に登場する事例は筆者らの創作によるものです。実在する事例とは一切関係がありません。