法務ニュース・ちょっと解説|公益通報と知事のニュースで理解しにくい部分
法務ニュース・ちょっと解説。
兵庫県知事のニュースに絡んで、公益通報者保護法(以下「公通法」)について目にすることが多くなったような気がします。
ニュースを見ているだけだと、若干腹落ちしにくいのではなかろうか?と思われる部分について(筆者の個人的感覚)、いくつかプチ解説してみたいと思います。
地方公務員はどういう扱いになっている?
前提として、地方公務員はどういう扱いになっているのかという点ですが、結論からいうと、公務員も労働者なので、民間の従業員等と同じような保護が及びます。公通法9条に規定があります。
以下のように、地方公務員も「一般職の国家公務員等」という言葉の中に入っています。
これは、一般職の国家公務員等に対する免職等の不利益取扱いは、それぞれ個別の法律(ex. 地方公務員の場合は地方公務員法)に従って行われることになりますが、その場合も、公通法と同様の規律に従って個別の法律を適用しなければならない、ということを書いています。
通報者の探索は禁止されている?
”通報者の探索は禁止されている”といった表現も見かけますが、厳密にいうと、通報者の探索を直接禁止している規定は、実はありません。
従業員数が300人を超える事業者には、内部通報に対応するための体制整備義務(公通法11条2項)がありますが、そのような体制の整備の仕方として、”通報者の探索を防ぐような措置をとらなくてはならない”、という定め方になっています。
ちなみに上記の法定指針というのは、体制整備義務の内容などを具体化するために定められている指針のことです。正式には「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)」といいます。
ということで、肩すかしを食らっているような感じもしますが、ルールとしては、”通報者の探索を禁止している”のではなく、”通報者の探索を防ぐような体制を整備しなければならない”、という建付けになっています。
Q&A集(消費者庁HP)では、内部公益通報対応体制の整備に関するQ&A24~27に、通報者の探索に関するものがあります。
なお、令和6年中をめどにした次の法改正に向けた議論の中では、改めて、通報者の探索自体の禁止も議論されているようです(「資料2 通報者の探索禁止について」第6回公益通報者保護制度検討会(2024年11月6日)より)。
公益通報にあたるとかあたらないとか何を言っているの?
公益通報にあたるとかあたらないと判断したとかの話がありますが、公益通報が、解雇等の不利益取扱いの禁止といった保護を受けるには、保護要件があります。
公益通報には、①内部通報、②権限のある行政機関への通報、③その他の事業者外部への通報の3類型がありますが、①→②→③にいくに従って、保護要件が厳しくなっています。
兵庫県知事と県庁職員に関するニュースは、③のケース(3号通報)になるかと思いますが、3号通報では、いわゆる真実相当性(通報の対象事実=刑罰等の法令違反事実につき相応の根拠を有していること)と特定事由(以下のイ~へのいずれか)が必要となっています。
報道を見る限り、知事は真実相当性がないという判断をしているので、その判断を是とした場合、そもそも保護要件を満たさないので、不利益取扱いをしても問題がないことになります(そもそも公益通報の保護というルートにのってこない)。
なので、結局、そこの判断(主に真実相当性)が是なのか非なのか決まらないと何ともいえないので、話が嚙み合わない感じになっているような感じがします(筆者の感覚)。
また、通報者の探索については、①~③のどれかの類型の公益通報にあたれば通報者にはなりますので、保護要件とは関係ないですが、前述のようにそもそも直接禁じている規定がないわけです。違反については、体制整備義務の違反とか、体制として策定した内部規程に違反するとかいった性質のものがあり得るにとどまります。
”公益通報者保護法に違反している”とか”していない”というのも、何に違反しているのかという話が伴ってないと、ニュースも単にセンセーショナルな記事になってしまうのかなと。
(不利益取扱いの話は保護要件を満たすかで結論が分かれる、通報者の探索の話は、実は直接禁じる規定はないので解釈あるいは言い方の問題)
通報先と保護要件について、詳しい解説はブログにまとめていますので、リンクからぜひご覧ください🔗
以上、法律ニュース・ちょっと解説でした。