種の知らない世界
前回、種苗法と種について話を書きしたためた。まだそちらをご覧になってない方は良かったら前回の記事に目を通していただけると、話に一貫性が出るかと思う。
今回は種について話をしていきたいと思う。
いきなり話は脱線するが、私は元種苗メーカーの商品開発課に籍を置いていたことがある。おかげで種の基礎知識や、種を取り巻く大人の事情、育種現場の苦労など良い経験ができた。なので種の話になるとややムキになるのだが、容赦いただきたい。
本題に戻る。
種には大きく分けて2種類ある。固定種とF1品種である。固定種とは遺伝子の固定がなされており、自家採種によって姿かたちや形質が大きく変わらないものを指す。大昔から繰り返し採取、播種(種を蒔くことを指す言葉。"はしゅ"と読む)をされてきたものはこれだ。
対してF1品種とは、ざっくり言えば2つの固定種を掛け合わせて出来た品種である。厳密に言うと違うのだが、詳しく話すと長くなるのでこれで理解してほしい。
F1品種の利点は、同じ時に播種すれば芽の出方も収穫時期も均一に揃うという点と、自家採種による次の世代が全くバラバラの姿かたちになるという点だ。
前者は農家にとっての利点であり、後者は種苗メーカーにとっての利点だ。決まったタイミングで決まった量を出す必要に迫られている現代農家はこのF1品種の利点を生かす代わりに、種苗メーカーへ種代を支払う。種苗メーカーは種を買ってもらえるので、こぞって産地に受け入れられるような良品種を作ることに集中できる。細かい不満はあれど、ウィンウィンの関係だ。
よく勘違いされる言葉に在来種というものがある。これはその土地に根付いている品種という意味で、固定種のものもあればF1品種のものもある。京都の京野菜などはほとんどがF1品種になってしまっている。少し寂しいが、それが我々現代人が目指した合理主義の結果である。
といった具合に種を取り巻く世界は様々な要因と要素に満ちている。個人的にはF1品種が悪いとは思わないし、固定種が良いとも思わない。それぞれの利点と欠点を理解した上で、ケースバイケースで使うものを選ぶだけのことだ。
現代人は何かと白黒つけたがる。善悪など立場や価値観で大きく変わるにもかかわらずだ。種の世界ひとつをとっても正しい目で、自分自身にとって必要なものを冷静に判断できない人が沢山いる。あなたにとって最良とは何か。選択してみてほしい。私はそのために必要な情報を流すように心がけようと思う。
もし、種のことに興味がわいた方は日本経済新聞出版の
「タネが危ない」 著 野口修勲
を読んでみることをお勧めする。種の世界について分かりやすく書かれている。しかし、あまりにも固定種に偏った思想が書かれているのでそこについては注意が必要だ。
冷静に、そして客観的に正しい種の世界を学んでいただけたら嬉しい。