人の寿命と、野菜の寿命
人生百年時代と言われる現代社会で私たちは生活している。個人的には100年も生きたくないと思ってしまうのだが、医療の発展、栄養環境の安定化に伴い間違いなく寿命は高齢化、安定化している。これだけ寿命に変化がある生き物はなかなか例を見ないと思うのだが、自然界の動植物も環境によってはかなり長生きすることもあるようだ。
少し考え方が違う人もいるかと思うが、野菜にとっての寿命も同じように環境によって異なる。人と違い、野菜は種という形で遺伝子を残し繋いでいく。その種は案外長持ちしないのだが、ジーンバンクと呼ばれる取り組みではその種の寿命を限界まで伸ばして保存している。
さて、種はいったい何年もつのだろうか。有名な話で、古代ハスという話がある。千葉の遺跡で2千年前の地層から見つかったハスの種を蒔いてみたら、なんと普通に目が出て育った。という話だ。確か島根県の荒神谷遺跡に行けば実物が見れたように記憶している。話は逸れるが、島根はいいところである。歴史好きのロマンをくすぐる遺跡や遺産が沢山ある。興味があれば行ってみることをお勧めする。
つまり種によっては保存環境を整えれば2千年は持つのである。とはいえこれはあくまで珍しい例であって、もっと身近な野菜の種ではどうなるのか。農研機構がそのデータを公開している。彼らは1985年からジーンバンクとして遺伝資源を保存しており、約19万点を保存している。まずその数の多さに驚くが、さらに恐ろしいのがこの19万点を5年おきに発芽率の調査をして85%以上を維持しているという事だ。1年あたり約4万点の品種の発芽調査をしているのだ。1日換算100種類以上を播種し、チェックしていることになる。しかも、発芽率が落ちれば当然新規更新もしなければならないだろう。
いや、気が狂うわ…
と思う。毎日100種類の異なる種を播種し続け、発芽率を調べるのに苗を数え、記入していく。農研機構すごいな。素直に感心する。
ともかく、その凄い農研機構の導き出したデータから推測するに各野菜の種子が持っている寿命は以下のようになることが分かっている。
稲 17.2年
小麦 20年
ソバ 68年
トウモロコシ 21年
きゅうり 127年
トマト 31年
ナス 36年
おいおい。きゅうりどうした?
というのが私の素直な感想である。人の寿命より長いのである。もちろん品種や産地によって種子寿命は異なると注意書きがあったが、それにしても意外と持つものだ。
遺伝子の箱とも言える種。それは時に時代を超え私たちの目の前に姿を現すこともある。なかなかロマンに満ちていると思うのは私だけだろうか。そんな種子を保存するジーンバンクはまさしく遺伝子の箱舟だ。世の中にはそのような機関も存在している。興味がわいたという方はぜひ一度調べてみてほしい。知識欲が満たされること間違いなしである。