市場の仕組みに、買い叩かれる野菜たち
今年は暖冬のようで12月になったというのにまだ、日中は上着なしで外仕事ができるほど暖かい。少し異様な季節だが、人間にとっては過ごしやすい気候だ。それは野菜にとっても同様のようである。
私はテレビを見ないので世間の情報にやや疎いのだが、皆さんは今年の冬野菜がべらぼうに安くなっていることにお気づきだろうか。市場で出回っている主要14品目と呼ばれる一般的な野菜たちの平均価格は1キロで100円にまで下がっている。これは去年と比較すると26%ほど安い。品目によっては平年と比べて半額の値段で売買されている野菜もあるほどだ。なぜこんな状況になっているのだろうか?
元々、この社会には需要と供給のバランスというものがある。たくさんあるものは安く、希少なものは高いといった基本的な市場法則だ。金のように世界に一定数しかないものは資産としても価値があるくらいに一定の値段をキープするが、野菜や果物のように毎年の生産に動きのあるものはそう簡単にはいかない。
今年は台風の被害も少なく、暖冬傾向なうえに天候もよかったことで野菜がよく育った。農家としては嬉しいが、市場は必ずしもそうとも言えない。みなさんご存知の通り今年はコロナによって外食の機会も減っている中、社会全体の食の需要が低いのだ。しかし、野菜はとれる。だから野菜の値が急落しているのだ。農業人界隈でよく言われる ”豊作貧乏” というやつだ。
こういった場合どうするのか。まず、保存のきくものはなるべく出荷を先送りにしたり、冷蔵庫内で保存する。供給量を調整することで値段の暴落を抑えるのが目的だ。しかし、それでも出荷時期を迎えてしまうものもある。それは畑にそのまますき込むことになってしまう。昔テレビでよく見た光景だ。とにかく市場経済を守るため、目の前の野菜を土に戻すのである。もったいないが、仕方がない。これが現実だ。おそらく今年の冬もこのようなことが、全国各地で行われるだろう。
野菜が安く消費者の手元に届くのは喜ばしいことだ。食料の生産力があるということは、国や社会の安定にむけた必須条件である。しかし、今のような大量生産、大量消費を前提とした生産体制では農家の収入は安定しない。大きく広げすぎた経済範囲に対して、あまりにも多様なリスクを農家が負う仕組みになってしまう。
国際的にもグローバル社会から各国の経済圏を守る方向へシフトしているように、農業を取り巻く仕組みもまた小規模にシフトする方が安定していく未来が見えはしないだろうか? 例えば1軒の農家が100軒の家庭の食を守れば自然と収益も立つし、消費者も農や食をより身近に感じられる。100軒に野菜を売ればいいので、農家も野菜が取れすぎたところで沢山の野菜を消費者に送ればよい。市場に価格を任せるリスクは少なくなるはずだ。私はそのような農業のスタイルを理想と考えている。
今、農家と消費者が直接つながれる仕組みはたくさん見つけられる時代になってきた。SNSや通販サイトなどで気軽にコンタクトをとれ、気に入った農家から毎週野菜を買うことは難しいことではない。これからの未来、大規模大量生産の農家も必要だが、上記したような小規模直接販売型の農家も需要が増えていくだろう。私も素晴らしい農家と消費者をつなげていけるような仕組みや、協力をしてはいけないか考えてみることにしよう。