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剽窃楽曲を収録してしまったコンピレーションアルバムの公開を停止した話

はじめまして。HOUJIROUと申します。
「Shinkai waveS Records」というクラブサウンドを主とする同人音楽サークルを運営しております。

先日、2023/4/30に開催された音系・メディアミックス即売会 M3-2023春で公開したHardstyle EP 「WHALE SPOUTS」のデジタル配信及びCD委託販売の取り扱いを停止しました。

理由はタイトルにもある通り、剽窃を疑われる楽曲を収録してしまったためです。

今回のこの一件、私は同人音楽サークルを立ち上げてから5年以上経つのですが、今まででいちばん落胆し心身ともにダメージを受けた出来事でした。

かなり悪質な手法を取られたと思いますので、私と同じように同人音楽サークルを運営するアマチュアの音楽プロデューサーの方々に注意喚起をしたいと考え、事の顛末を纏めてドキュメントとして残すことを決めました。

実際に起きたことを時系列で記載していきます。
(結構長いです。)

ひょうせつ

【剽窃】《名・ス他》
他人の文章・語句・説などをぬすんで使うこと。

Oxford Languages

1. 海外アーティストAとの出会い

海外アーティストAは、剽窃楽曲を送りこんできた張本人です。
ある日、サークルの投稿フォームを通じてAからHardstyleの楽曲デモが送られてきました。

送られたデモを聴いたところ、良くできたカッコイイHardstyleでした。
そもそも、Aは私が大好きで尊敬しているHardDance系の同人音楽サークルから過去に楽曲をリリースしていたので名前は知っていました。

当時私と友人でHardDance系のEPを作ろうと企画をしているところでもあり、テーマとしても合致しているし起用してもよいかな?と考え、相談したうえでAを起用することにしました。

この作品でのリリースでは特に問題はありませんでした。
この数か月後に作る「WHALE SPOUTS」で事件が起こります。


2. 「WHALE SPOUTS」の企画

2023春M3に向けてHardstyleに焦点をおいたEP「WHALE SPOUTS」の制作を企画しました。
前作で協力頂いた事もありジャンルも合っているので、この作品に関してAに声をかけました。

DM内容を公開するのはとても気が引けるのですが、状況説明のため一部公開します。

翻訳機を使用した稚拙な英語で恥ずかしいですが、定額の楽曲制作依頼料でテーマに沿ったオリジナル楽曲を1曲作って欲しいことをお願いしました。

(今思うと、make one song だけではオリジナル楽曲っていう条件は伝わらないかもしれないですね…)

相手の言語は英語ではありませんが、意図せず日本語独特の言い回しを翻訳して意味が伝わらないということを極力避けるために、英語翻訳でコンタクトを取りました。

しばらく関係のないやり取りが続いたのですが、ある日突然WHALE SPOUTS向けの楽曲が完成したという連絡が来ます。
その後、完成版音源が送付されてきました。

マスタリング前の音源にしては、結構音圧がデカいな~と思っていたのですが、Hardstyleというジャンルの性質上マスタートラックにエフェクトをかけて音質調整するアーティストさんも多いので、OKとしました。
(これが最大の過ち)



3. 異変

2023春M3でのCD頒布が終わり、各同人CD委託業者様への手続きとデジタル配信の手続きを済ませ、2か月が経った頃ある異変が起きます。

Aの楽曲の再生数が異常に伸びている…

同人作品のデジタル配信ですが、私のサークルの規模ですと正直なところそこまで大きな影響力と発信力はありません。

しかし今回の場合、Aの楽曲だけが他のアーティストの楽曲の数百倍近くの再生数が付いていました。

明かにおかしいと思ったので、彼の提出した楽曲のタイトルで検索をしてみたところ、Aのオリジナル楽曲ではなく原曲が存在することがわかりました。

YouTubeの再生数を見ると、ヨーロッパ圏内で大ヒットしている楽曲のようでした。
(2024/2/10更新 トラブル防止のため一部情報を伏せました。)

私はリミックスである認識はなかったので、リミックスだとしたら版権元に許諾は得ているのか?と確認を送ります。

翻訳文までは載せませんが、とりあえず許諾は得ていると言い張ります。

本当かどうか確証は取れなかったのですが、Aの言い分では原曲はフランスのパブリックドメインに該当し、SACEM(フランスの著作権管理団体)にも権利がない。

2022年10月にフランスで起きた事件をテーマとして歌っているある種のチャリティーソング的な扱いらしい。(本当か?)
この楽曲で集めたお金は事件の被害者家族に寄付するとのこと。

EPのテーマに全然合わないし、そんな事情があるならなぜ送る前に説明しないのか…

と思ったのですが、まぁこちら側からしたら著作権をクリアしているなら問題ないので、一旦これは承知して様子を見ることにしました。

そんなことがあった更に2か月後、いきなりこのようなメッセージが私に届きます。

なんと急にストリーミングやCD頒布で得た利益を4半期ごとに40%よこせと言ってきました。

勿論、初回提示した条件にそんなことは書いていないので突っぱねます。
言語の壁もありこの際のやり取りがマジで地獄でした。 本当に。

Aはこう意見します。(翻訳+要点のみ抜粋)
「本来、楽曲提供であれば1タイトルごとに最低1000から5000ユーロ(約15万~80万円)を支払うべきだ。普通なら我々は2500~3000ユーロで制作するが、安くしてやっているんだ。」と。

確かに日本でもプロに楽曲制作依頼をするとなるとそのレベルの金額は考えられますが、こちとら個人でやっている同人活動ですのでそのような金額では企画は立てられません。

ここで日本の同人音楽界隈についても説明します。
日本の同人カルチャーではプロでもシーンの盛り上がりを考慮して、かなりの低額で協力してくれるケースもあるという事も伝えました。

そもそも同人音楽かつ私のサークルの規模で黒字を上げること自体かなり稀です。自分の懐からの持ち出しで趣味の範囲で行っている活動であり、CD頒布の売り上げで潤沢な利益を上げることはないよ
と伝えたところこのようなメッセージが返ってきます。

色々言いたいことはありますが、とりあえずこのようなやり取りを続け、なんとか納得した様子で4半期ごとに40%の話は流れました。

しかしそれから数か月後

今度は4半期ごとにデジタル配信の該当楽曲で上げた利益の50%を要求してきます。

また前回同様に突っぱねますが、Aはこう言います。(翻訳+要点のみ抜粋)

「あなたのプロフィールはなんだ?レーベルの音楽プロデューサーなんだろう?レーベルならアーティストに利益分配するのは責任だ!
私は自国都市にある自分のレーベルのCEOだ。レーベルではないのにレーベルと名乗るのは誤解を招く。業界の恥だ!」

確かに日本の同人界隈では同人音楽"レーベル"と銘打ちながら、所謂本当のレーベル(レコード会社の組織の1つ)ではなく単なる活動用のサークルであることが多いと思います。

海外目線で見るとこれを見誤るのは致しかたないかなと思いました。
一理あるなと思ったので、このタイミングでプロフィールやサークルの説明文を少し見直しました。

ここでも日本の同人音楽界隈やレーベルと同人音楽サークルの違いについて説明したのですが、なかなか伝わらずにグローバルスタンダードをグイグイ押し付けてきます。
それにしても利益50%は取り過ぎだと思うんですけどね(笑)

正直なところ、この時の該当楽曲の再生数は予想以上であり、さすがに申し訳ないなという負い目を感じておりました。

身銭を切るわけでもないし、ここは素直に応じようと思いました。
配信開始から当時時点の該当楽曲の利益分から50%を支払い、Aの要望である

4半期ごとに再生数、利益を計算し50%支払う事を配信開始から3年間続ける

ということで了承しました。
(DMのやり取りのみで契約書にサイン等はしておりません)


4. 驚愕の事実

こんな出来事があってから数日後、同業の同人音楽サークルを運営する友人から連絡がありました。

該当の楽曲と全く同じ音源を別のアーティストがSoundcloud上に公開していると・・・

(2024/2/10更新 トラブル防止のため一部情報を伏せました。)

えーと、確認しましたところAから提出された音源と全く同じ音源でした。
公開日は2022年9月 私がAに依頼したのは2023年1月です。

もし仮にAが言う通りに原曲がパブリックドメインだとしても
他アーティストの公式か非公式かもわからないリミックス音源を自分の作品だとクレジット表記していいルールはないと思っています。

これはクレジット表記確認時のやり取りです。


そんなことがまかり通るなら、世の中はアーティスト表記違いの同じ楽曲が色々なところでリリースされ、あふれる事になってしまいます。

このリミックスをAが別名義で上げている可能性はなくもないですが、Aに対する不信感が増す中色々と調べてみたところ、Aと縁を切る決定打が出てしまいます。

前述で私が大好きで尊敬しているHardDance系の同人音楽サークルからAが楽曲をリリースしていたと書きましたが、そこでリリースしていた楽曲も全く同じ音源が存在していました。

リリース元サークルの明記は控えますが、上記が利用されてしまった元曲です。これを知った時、膝から崩れ落ちる感覚を覚えました。

Aについてアーティストとしてのリスペクトも何もなくなり、これら剽窃の件を踏まえて強制的に配信停止することを告げて各SNSでAをブロックしました。

そしてただちにデジタル配信停止手続きとCD委託販売の停止、在庫の破棄依頼を行いました。

音楽配信ディストリビューターはTuneCore Japan様を利用していました。
配信停止は基本的に受け付けておらず、更新時期に停止選択するのが一般的な方法ですが、問い合わせフォームより理由を伝えたところ、とても迅速な配信停止対応を行ってもらえました。

CDの委託販売をお願いしていた DIVERSE DIRECT 様、TANO*C STORE 様、メロンブックス 様 にもそれぞれメール等で理由を伝え、取り扱い停止を依頼しました。

そして今に至ります。

後ほど判明したことですが、Aは私のサークルだけではなく、他の同人音楽サークルや個人で楽曲リリースをしている同人音楽アーティストに対しても同様にデモを送り付けるという行為をしていたようです。

信じられませんが、送るデモは他者アーティストの既存楽曲であるケースがあったようです。

Aは曲名の詐称をしていないことから、よくありがちな

「有名になりたいけど、技術が足りなくて剽窃する」

ケースではなく、

「他者の楽曲をバレなさそうな所からリリースし、利益が上がればロイヤルティを受け取る」

というとても悪質なケースかと思います。
(曲名詐称すると再生されないので)

そう考えると、WHALE SPOUTSの前の作品も怪しいと思うのですが、
今のところ元曲は見つかっていません。
もし見つかったらすぐに対処します。


5. 反省点と今後の対策

海外国内関係なく、このようなことをする人は残念ながら存在します。
特に厳密な契約を結ばず、口約束で物事が進むことの多い日本の同人界隈は狙いやすかったのではないかなと考えています。

口約束レベルで済むことが悪いということではなく、これはフレキシブルに作品を制作し発表できる同人音楽の良いところであり落とし穴にもなるという事ですね。

契約なくとも約束事を大事にする日本の国民性あってこそ成り立つ界隈なんだなと改めて感じています。

今回の件では、Aが過去に別の同人音楽サークルから楽曲リリースをしているという点で私にも油断がありましたが、厳密に提出音源をチェックしていれば未然に防ぐことができたと思います。

・確認用に2mixのリバーブ等の特定のエフェクトを切った音源を提出してもらう

友人の受け売りですが、コンピレーションアルバムを制作するにあたって今後は上記確認を行っていこうと考えています。

パラアウトのデータ提出が確実かと思っていましたが、データが大容量になりアーティスト側への負担もありますし、提出する側からしたらデータを不正利用される懸念が生まれるかなとも思いますので、この手法が一番スマートな気がしました。

近年AIの発達に伴い楽曲のパートごとの切り出しが容易になってきているので、ますますチェックが難しくなりそうですね。


6. 最後に

(2024/2/10更新 本項に記載していた内容は慎重に検討する必要があると判断したため、伏せさせて頂きます。)



同人音楽サークルを運営するアマチュアの音楽プロデューサーの方々へ

私のように、このような面倒ごとに巻き込まれないように音源チェックはきちんと行いましょう。

少し手間をかけてチェックするだけで、情熱を込め、色々な人の協力を得て作った大切な作品を破棄するという屈辱的な思いをしなくてもよくなるかもしれません。

良き同人音楽ライフを!


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