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【舞台脚本小説】 Draw The Curtain (13)

※掲載させていただいている写真はイメージです
※この作品は続きもの、舞台脚本を小説化したものです。
これ以前の話や続き・この作品の詳しい説明はマガジンにまとめております。
是非ご覧ください。


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窓から見える雲行きは、曇り空からさらなる陰りを見せていた。
そして、二人を取り巻く空気感にも、変化が起きた。
殺伐とした空気から一変して、ハートウォーミングな暖かさを取り戻したと思ったが…今はまた、二人の関係にも陰りが見えてきた。

好きな人の事を知ろうとする行為は、共感できる。
しかし火野の行き過ぎた知るための行動は、名取を困惑させた。
一目惚れをして告白というから、出会ってすぐだと思っていたけど、どうやらそうではなかった。そして、ある言葉がふと頭に過ぎって口にした。

「それってストーカーっぽいですね?」

名取は真剣は表情で言うと、火野は目を丸くして反論する。
「一緒にするんじゃないよ。俺は後つけたりしてないし、無理やり名前を調べようともしてない。ちょっとは考えたけど...。」
「考えたんだ。」

火野は真剣な表情で続けた。

「20回ぐらい遠目で彼女を見た時に、気持ちが抑えられなくて、告白した。」

20回…これは多い。いや、多すぎる。
その間、ずっとその好きな人を追ってはないけど、見てたってことだろ?
おそらく相手も見られていることに気づいてるかも…いや、気づいている。
気づいてるからこそか。

「それで気持ち悪いって言われたんだ。」

名取は何故そう言われたか納得した様に、火野に声をかけた。
火野は改めて“気持ち悪い”というセリフを噛み締めた。そして窓際に目をやり、しばらく黙っていたが、ようやく口を開く。

「いや、その時は、好意を持ってくれるのは大変うれしい限りですが、やはり見ず知らずの人とはお付き合いできませんって言われて、丁寧にお断りされたよ。」

ん?その時はってなに?
というか、火野さんはその人に、二度告白してるってことか…。

名取は首をかしげながら聞いた。
「ん?...気持ち悪いって言われたのは、いつですか?」
「つい最近だよ。」
「ですよね。で、その女の人に初めて出会ったのは、いつですか?」
火野は少し恥ずかしそうに
「確か...半年前ぐらいかな。告白するのに、2か月調査したよ。」
顔をそらしながら笑顔で言った。

名取は困惑しつつも、自分で整理しようとしながら
「半年前に出会って、2ヶ月間遠目で見て告白して、そして4か月で気持ちの整理をつけて、また最近告白しに行ったってこと?」
と、火野に尋ねると「違うよ。その間もアタックしてたよ。」と、火野は名取に向き合い、即答した。

名取は目を見開きながら聞き返す。
「え?2回じゃないの?じゃあ、何回告白したんですか?」
「20回ぐらいかな?」
火野は、にやりと笑った。

20回遠目で見てただけじゃなくて、そのまま告白しに行ってるのか?
それは多いし、気持ち悪い。

名取は完全に呆れ顔でもう一度、「ストーカーじゃないですか。」と、口にすると、火野は顔を赤らめて
「ストーカーじゃないよ。彼女は見ず知らずじゃ付き合えないって言ったんだぞ。だったら何度も言って、知ってる人にならなきゃ駄目だろ?」
と、謎の論理を振り翳し、激しく反論し続けた。
「でも、そのうち会ったらすぐに逃げられるようになってな。俺はここ最近、いつも彼女の背中を追いかけてたよ。」
「追いかけたんですか?」
「逃げるからな。」

これは間違いない。
完全に黒だ。

「ストーカーじゃないですか。」
名取は、自信を持って断言した。
すると、火野はまた顔を赤らめて反論した。
「ストーカーじゃないよ!一度だって追いつくことはなかったんだから。彼女めちゃくちゃ足が速くて、すぐ撒かれたんだ。」

この人は何を言って…ん?
追いつくことはない?

火野は名取の困惑をよそに、話を続けた。
「一度追いかけてる時、差がどんどん開いてさ。それでも必死に追いかけてたら、彼女ちょっと追いつくの待ってくれてたんだよ。その時気づいたよ。彼女はこの追いかけっこを楽しんでるって。」と、説明しながら笑顔で答えた。

名取は火野の言葉に沈黙し、少し呆れたような顔をしていたが、火野の話に引き込まれていった。

「でもこの前追いかけていた時、彼女急に止まってさ。俺はやっと受け入れてくれるもんだとばっかりに思ってたのに、振り向きざまに言われたよ。『気持ち悪いのでもうやめてください』って。それを言った彼女は一目散に走って行ったよ。俺は彼女の衝撃的な一言で、走れなくなったよ。これで、楽しかった追いかけっこも終了さ。」

名取は少し黙り込んでから「そうですか...。」と、呟いた。
そして、名取の火野へ向ける眼光は、好意的なものではなくなっていた。

火野はしばらく黙っていたが、名取を見て言った。
「俺、喋りながらふと思った事があるんだけど、言っていい?」
「どうぞ。」
「お前、彼女の写真とかない?」
「ありますけど...。」名取は淡々と答えた。
火野は真剣な顔で、見せるように催促すると、名取は躊躇うことなくスマホを取り出し、「見ます?」と、火野に確認を取ると、火野は頷きながら「見る。一応、確認してた方がいいだろ?」と、答えた。
名取も頷きながら、スマホの画面を火野に見せた。
「僕の彼女です。」
火野は写真を見て、しばらく黙り、そして名前を聞いた。
名取は、軽蔑の眼差しを火野に向けながら
「紗江子って言います。」と、彼女の名前を言った。

火野は少しも表情を変えずに「彼女、紗江子って名前だったんだ。」と、呟いた。
名取は、一度深く目を閉じ、そして
「確定ですか?」と、改めて火野を鋭く睨んだ。
火野は、にやりと笑いながら「一つ相談があるんだけど。」と、名取の肩に手を置いた。
名取は、その手を振り解くことなく聞いた。
「何ですか?」
火野は真剣な眼差しで
「俺、先輩じゃん。お前、後輩じゃん。ここは先輩の威厳って事で、この子を譲ってもらえませんか?」と、提案した。

「いや、上も下も関係ねぇだろ?」
名取は、火野の手を振り払い激高した。

すると、名取の感情を表すかのように、また絵が落ちた。


つづく


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