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ヒラヒラは希望の印
ヤツとの出会いは突然だった。
ヤツ?いや、彼女になるのか?
兎に角、衝撃的な出会いだったことは間違いない。
中森明菜の【出会いはスローモーション】は
間違いじゃなかった。
確かに、スローモーションのように見えたから…
その彼女との出会いを少し語らせてください
その日の私は、仕事帰りの満員電車に揺られていた。
いつもなら自転車での通勤なのだが、今日はあいにくの雨。
今日は、いつも見慣れた風景を変えざるを得なかった。
私の目の前の車窓には、優先座席を示す案内が貼られ、
そして滴る雨粒が不規則に線を描く。
雨粒は目に映る街の景色を曖昧にし、より一層揺らめくように流し、まるで時空を歪めてタイムスリップしているような気分にさせてくれていた。
そんな錯覚を楽しんでいる刹那、停車によって引き起こされる人の乗り降りの波の不快感で、私は現実に戻された。
と、同時に私の目の前の席が空いた。
そう、優先座席が。
私は基本、電車で席が空いていると座る。
おそらく多くの人がそうしていると思うが、私の場合は主に“優先座席”に座る。
だから基本、率先して優先座席前に立っているのだ。
その辺のお話をYouTubeでさせていただいてます。
もし良かったら見てください。
まぁ、これを見聞きすると
何してんだ?と不快に思う方が多いと思う。
兎に角、自分本位な屁理屈というか、言い訳を語っています。
で、本題に戻ります。
彼女との出会いは、そんな優先座席に座れた時に出会った。
いつものように、座ったら周りまず
お年寄り、そしてマタニティーマーク・ヘルプマークをつけている方がいる確認
そして居ないと確認してから気持ちを落ち着かせる。
そして電車が止まる。
人の出入りが激しくなる瞬間が一番、神経が過敏になる。
そうそれは、まるでスパイ活動しているかのように。
そうそれは、まるで警察に追われている犯罪者のように周りを見渡す。
ある程度、人の流れが止まり電車が動き出した。
対象者ゼロ♪
ケツから伝わる座席の熱を感じながら目線を膝下へと落とそうとした瞬間、
彼女と出会ったのだ。
その彼女は見たことあるような【何か】だった。
そんな【何か】が、ゆっくり私の目の前を横切った。
その【何か】を追うように目線をあげる。
そして目を凝らすように先ほど目に飛び込んできた何かを探す。
反対側の優先座席側の前に立っている女性。
その女性が背負っているリュックについているキーホルダー的なのが
おそらく見えた【何か】だろう。
その【何か】とは、マタニティーマーク。
目に飛び込んできたのは、マタニティーマークだったような気がするのだが…
今、見えているのは…ありゃなんだ?
私の知っているマタニティーマークは、両面にマークが施されている。
でも、今見えてる部分は…真っ白の無地で何も書かれていない。
私の知っているマタニティーマークは、ただのプワプワした柔らかい形状のただの丸。
でも、今確認できているのは…プワプワしてそうだが、ただの丸ではなくその周りにヒラヒラのレースっぽいのがついている。
今見えているのは、真っ白な丸い形をした物に
ヒラヒラがついている…【何か】だ
これは困った…
確認しようにも勝手にそのヒラヒラを触って、ひっくり返す訳にもいかないし…
一か八か声かけて違ってたら、超恥ずい…
が、こちとら正義感振りかざして席に座って
いつでも譲るぜと息巻いてはいるだけに…見過ごせない。
緊張する…
というか、毎回誰かに席を譲るための声がけは、物凄く緊張する…
スマートにスッと声がけ出来た試しがない。
毎回毎回、見かけるたびに
「あっ、席譲らなきゃ。いつ声かける?今か?よし行くぞ!」と
声がけまでに何段階か、踏みとどまってる自分がいる
で、今回お声がけする対象は…
目の前に立ってる人じゃなくて反対側に立ってはるんよねぇ
そもそもあのヒラヒラが
マタニティーマークかどうかわからんし
もうこのまま譲らんでいいか?とさえ思える。
しかし…うっすら見えた気がしたんよな
そうなってくると、気づいているのに無視か
私が嫌いなものは、気づいてもいても何もしない席を譲らないクズ
ということは…I am クズ?
クズと変人なら変人を選ぶ!
間違って声かけても、あの人と2度と会わないし♪
私は席を確保しつつ中腰で
女性のリュックをトントン。
ビクついた後、恐る恐る振り向く女性。
その顔には不信感の文字が太文字で書かれていたが
私は「どうぞ」と声掛ける。
すると女性の顔は笑顔に変わり、ありがとうとの返答してくれた。
女性は私の座っていた席に座り、もう一度私に一礼を向けた時
抱えるリュックについていたヒラヒラの裏面が見えた。
マタニティーマーク!
確認できた瞬間、
間違ってなかった安堵
そして、ちょっとイライラしている感情が芽生えていた自分を感じた。
ヒラヒラつけて可愛くしたいのも分からんでもないけど
マタニティーマークをデコる?
それにリュックを背にして、その背にマタニティーマークつけたら
前に座ってる人にわからんでしょ。
誰にアピってんの?
ちゃんと見える位置にしっかり付けてもらわんと
席譲りたいこっちとしても困るんですけど!
てな感じの一連の流れを妻に話したところ
妻は徐に席を立ちがり2個のマタニティーマークを私に見せた。
あれ?2個持ってるの?
あれ?そのマタニティーマーク
ハート?丸だけじゃないの?
妻は真剣な眼差しでこう言った。
マタニティーマークは一個じゃない。
ヒラヒラのマタニティーマークは売っている。
背中にマタニティーマークを付けているのは
もしかしたら別に席を譲ってほしいほどの状態じゃない可能性がある。
譲ってほしい時は前に抱えると思う。
私は元気だった時は、マタニティーマークを見えないようにして
気を使ってもらわないようにしていた。
と、ご教授いただいた。
マタニティーマークって売ってるの?
というより一種類じゃないの?
あと、譲らなくていいっていう意思表示してたの?
えっと…
何にも知らねぇのに文句言ってたのか…
そして妻は続けて言った。
緊張して声掛けてくれてるのは伝わっている
それはとても感謝しているし
アピールしてなかったとしても
気づいて席を譲ってもらえるとものすごく嬉しい。
ともご教授いただき、
私の行動に対して賛辞を送ってくれた。
そうか…マタニティーの方々はいろいろ気を使ってるんだなぁと
44歳にして、まだまだ学ぶことが多いと実感。
そしてこれからは新たな自分として優先座席に座ろう。
ヒラヒラは希望の印だ