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【舞台脚本小説】 Draw The Curtain (3)

この作品は2010年に公演した舞台脚本を小説にしたものです。
この【Draw The Curtain】は1時間45分の会話劇でした。
その為、膨大なセリフ量を小説にしているせいか、とても長い作品になる予定です。
ゆっくりではありますが、小説へと変換させていきますので
気長に読んでいただけると嬉しいです。

もし舞台関係者様がこの作品を読まれて、
気に入った!そして舞台で公演したい!と思った方は是非、お気軽にお問い合わせください。
※この小説にした【Draw The Curtain】は多くの方に見てもらいたいので無料で公開しますが、
舞台で公演する場合は営利目的になりますので、有料でのお貸し出しになります。
予めご了承の上、お問い合わせください。

それでは【Draw The Curtain】とはどう言う話なのか
本編をお楽しみください。
※掲載させていただいている写真はイメージです
※このお話は続きものです。
これ以前の話や続きはマガジンにまとめております。
是非ご覧ください。

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土井は、大きくため息をついた。
騒々しさから静寂へと一変した部屋の様子を窓から差し込む光で癒されていたからだ。
そんな温もりに包まれた上半身とは裏腹に、足元へ流れる妙な冷気を感じた。
土井は嫌な予感がした。
振り向いたら誰かが居そう、そんな気がしたからだ。

「芸術…」

背中の方から声が聞こえた。
誰かいる。
土井はゆっくりと振り向いた。
すると部屋の端の方に白い服をきた女性が立っていた。

「え?」

土井は思わず声が出た。
その声を聞いた女性は、土井と目を合わすと
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」と雄叫びを上げながら土井の方へ突進して来た。
土井も突進してくる女性
何より誰もいないと思ったところにいた何かに恐怖を感じ悲鳴をあげ、
静寂していた部屋が二人の雄叫びと悲鳴でこだました。
土井は目を瞑り、女性から目をそらしながら壁に追い込まれるように避けた。

「勝手に入ってきてすいません!」

土井は急に聞こえてきたその声に思わず目を開けた。
そして確認すると、突進してきた女性が自分の目の前で土下座していたのだ。

「ここが壊されると聞いて、どうしても居てもたってもいられなくて。私たちにとって、ここは生きていた証ですから…だから、どうしてもこの目に焼き付けたくて…つい。」

女性は土井に必死に訴えていた。
土井は女性の勢いと姿勢に言葉が詰まり、少しばかり困惑しながら口を開いた。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って。待って。」
「はい?」
女性は土井を見つめる。

「とりあえず…人?人だよね?」
土井は今、一番聞きたかったことを確認した。

女性は少し考え込み、そして静かに「…人です。」と、答えた。
土井は心の底から安堵した。そして
「人ぉぉ!なんで叫びながら突進してきたの?」
と、女性に対して文句を言った。
すると女性は少し照れくさそうに
「それは、振り向かれてびっくりしちゃって。」と答えた。

「びっくりするのは、普通こっちでしょ?」
土井はそう告げると女性は「すいません。」と素直に謝った。

「…どこに居たの?」
「人の声が聞こえたので、トイレに隠れていました。」
と、少しバツが悪そうに女性は答えた。

トイレの扉が開いて、部屋の空気が流れたから足元に風が…。
土井は女性の言葉を聞いて、どんどん冷静さを取り戻し、そしてさらに追求する。

「隠れてたって…えっと、どなた?」
女性は一瞬、遠くを見つめるような眼差しを見せた後、穏やかに答える。
「私は…昔、主人と一緒にここを経営していた者です。」
「元女将さん?」

女性はこの山小屋を営んでいた、桐生という女性だった。
桐生は土井に
「はい。あなたは、次の解体業者さんですよね?」
と、質問した。
土井は少し困惑しながら答える。
「次?まぁ、次なのかはわかりませんけど、ここの解体を依頼された者ですが…。」

桐生は土井の言葉を聞いて、少し悲しそうな表情を浮かべた。
土井は桐生の言葉を受け、話を続けた。
「どおりで、去年閉鎖されている割には綺麗だなって思ってました。」
桐生は目を細め、懐かしむように言った。
「ここは、亡くなった主人と一緒に過ごした唯一の思い出の場所なので。ここの権利はもう渡しちゃったので、勝手なことはできないってわかっているんですけど…ここにいると、死んだ主人にも会えそうな気がして…。あぁ…」
桐生はその言葉を最後に、涙をこぼして崩れ落ちた。
土井は戸惑いながらも、何も言えずにその場に立ち尽くす。
桐生は涙を拭いながら話を続けた。
「それに…今日は私にとって、記念の日でもありますので。」

土井は少し首をかしげた。
「記念の日?何かおめでたいことでも?」
桐生は照れくさそうに答えようをした瞬間、表情が一変し
また土井の足元で土下座をし
「綺麗にしたかったんです。掃除がしたかったんです。どうかお許しください。」
と、急に謝りだした。そして
「どうか、どうかこんな私を察してください。」
と、土井に訴えかけた。

土井は困りながらも、何とかその要求に
「察してって…はい、わかりました。」
と、応じる姿勢を見せたのだが
「お願いです。どうか私の空気を読んでください。」
と、桐生は土井の言葉を聞かず、さらに懇願した。
土井は桐生の訴えに少し戸惑い「大丈夫ですよ。別に、誰も怒りませんよ。」と優しく答えるや否や
桐生はそのまま力強く床を叩き、必死に畳についた土を払い始めた。
「綺麗にしたのにも関わらず…土足って…。」
そう言って、桐生は土井の靴を履いたまま入室していた事に対して怒りを露わにした。

土井は絶句した。
まさか自分の行動のせいでこうなっていたとは…
そしてそりゃそうかと納得するや否や、ゆっくりと靴を脱ぎながら
「ごめんなさい!あの、靴で踏み散らかしてこんなことを言うのもなんですが、どうぞごゆっくり掃除して行って下さい!」
と謝罪した。
桐生は手を止め、顔よゆっくりと土井に向けた。

「いいんですか?」

桐生は切なそうに土井の顔を見上げた。
土井は色んな思いが詰まっているであろう、元女将へ優しく頷いた。

すると桐生は
「出て行けとか、不法侵入だとか言わないんですか?そんな事したって意味がないとか、てめぇの都合なんて知らないよとか、言わないんですか?」
と、鬼の形相で確認してきた。

土井は驚きつつ、冷静に返す。
「そんな事言うタイプに見えます?」
「大体の人は、そう私に言ってくるので。」
と、桐生は少し困惑したように返してきた。

次の解体業者…
そうか、いろんな解体業者に言われたんだな

土井は微笑みながら、優しく言った。
「勝手に入ってくるぐらいだから、この場所としっかりケリつけたいんでしょ?だったら思う存分、解体される前に好きなように使って下さい。と言っても、もう数時間後には壊してしまうんですけど。」
「いいんですか?好きに使っていいんですか?」
桐生は涙を堪えて土井を見つめた。

土井は頷きながら
「はい。もしかしたら今の女将さんの気持ちをくんで、この建物があなたの願いを叶えてくれるかもしれませんよ。」
と優しく語りかけた。

「本当ですか?」
「こんなにこの建物を愛してくれてるんだからから、建物が最後のお礼にって…あっ、もしかしたらですけど。」
土井は桐生の愛情深さに心を打たれ、そういった。

「死んだ主人に逢えますか?」
桐生は目を伏せ、少ししおれたように言った。
土井はその問いに少し沈黙した後「それは…無理かな。」
と、冷静に答えた。

桐生はその答えを聞きながら、少し胸が痛んだように肩を落とし
「もう一度、この場所にお客さんが入って、彼の絵を見て行ってくれますか?」
と、違う願いを言った。

土井はなんだかバツが悪そうな雰囲気を感じながら「それもちょっと…。」と素直に答えた。
すると桐生は矢継ぎ早に
「ちょっと!何も叶えてくれないじゃないですか!」
と、土井をまくし立てた。

土井は桐生の思いを受け
「すいません。良かれと思って言った事が、まさかのお願いだったもので。」
と、心から謝罪をした。

「いいんです。わかっていましたから。私もここにこだわっても意味がないこと、いっその事壊してもらった方がいいって。」
桐生も土井が気遣って言ってくれているのはわかっていた。
「でも…」
「でも?」
土井は彼女の言葉を待つように、黙って立っていた。

「あの絵、死んだ主人が息を引き取る直前まで描いていたものなんです。だから、せめてお客さんに見てもらいたかったんです。勝手なことを言ってすいません。察してください。」
と、桐生は微かに震える声で答えた。

土井はその絵を改めて見つめ
「この絵、ここに置いてていいんですか?ご主人の形見でしょ?」
桐生に絵はこのままでいいのかと尋ねた。
すると、桐生は少し苦笑いしながら答えた。「遺言で、絵はこの建物とともにと。あの、この絵、どういう意味かわかります?」

土井は突然の質問に首を振る。
「僕がわかるわけないじゃないですか。ご主人に聞かなかったんですか?」
「聞こうと思った時には…もう死んじゃってましたから。」
と、桐生は少し悲しげな表情で答えた。

土井はその言葉に沈黙したまま、桐生の顔を見つめた。
桐生は少し視線を外しながら
「あなたの中に芸術が入っていたから、もしかしたらわかるかなと思ったんですけど。」
と不思議な事をいった。

「芸術が入ってる?どこに?」
土井は生まれて初めて自分に芸術が入っていると言われ、素直にどの部分に入っているかを聞きたかったが、
「死んだ主人は絵描きだったせいか、他の芸術家も大好きで。画家はもちろん、音楽家、詩人、写真家と。きっとあなたも主人に気に入られると思いますよ。」
と、桐生は次の話に進んでしまっていた。

土井は静かに絵を見つめながら呟いた。
「そうですか。これ、何を描いたんでしょうね?」
桐生は一瞬黙り込んでから言った。
「さぁ。私、正直この絵を見ていると、なんだか気持ち悪くなるぐらいで。」と。
土井はまさかの言葉に目を見開き驚き戸惑った。
「急に…そんなご主人の描いた絵を。」
「私、彼が何を考えてるのか全く理解できないところがあって。普段から、何か説明するのも回りくどいし、かと言って結局何が言いたいのかわからなくて、よくイライラしたものです。あぁ…どうしよう。思い出したらイライラしてきた。イライラしすぎてゲロ吐きそう。」と、続けた。

土井は軽く引き攣った笑顔で
「話題を変えましょう。あの、この建物には部屋が五つありますよね?部屋の名前、春夏秋冬に大地、あれってどういう意味ですか?何で最後は大地なんですか?」
話題を変えることに決めた。

桐生は少し首をかしげて答えた。
「わかりません。それも初めから五つでまとまる名前をつければいいのに。きっと、春夏秋冬とつけた後に、引くに引けなくなって苦し紛れにつけたんだと思います。そういう所もイライラ…。」
土井の思惑は全く通じなかった。

土井はさらに引き攣った笑顔で
「きっと何か意味があったんじゃないですかね?聞かなかったんですか?」
と、桐生に尋ねた。
すると桐生はまた肩をすくめ
「聞こうと思った時には…もうこの世には…。」
と悲しい思い出にふけた。

「それはいつでも聞けたと思うんですけど。」
と、土井の顔は引き攣った笑顔から真顔へと変わるや否や
「死人に口なし…。」
そう言って、桐生は土井の忠告を遮った。

気まずい空気が支配する部屋を切り裂くように
谷山の声とともに《女性》の声が聞こえてきた。


つづく


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