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2024年シーズンを終えて
通算四度目のJ2降格、何よりも避けたかった結末とともに2024年シーズンは幕を閉じた。鳥栖での最終戦から数日が経ち、日常生活に戻ってからもふとした瞬間に「来年はJ2か…」と思い出しては何度もひとりで天を仰いでいる。
最後のリーグ優勝から22年、三大タイトル獲得からは14年もの年月が経ち、これでついにリーグ優勝の星の数を降格回数が上回った。ここが俺たちがこよなく愛するクラブの現在地であり、ジュビロ磐田に関わる全ての人間が直視しなければならない現実だ。
鳥栖に集まったサポーターの人数はおそらく過去最多だったように思う。試合前のバス待ちやポリ袋を使った入場時の演出など、普段の九州でのアウェイゲームでは考えられないほどの一体感があった。それに、過去の降格危機で最終節まで残留の可能性を繋げられたことは一度もない(安全圏から入れ替え戦に滑り落ちたことならあるが)。いつもとはどこか状況が違う。なんの根拠もないけれど、劇的な幕切れだった前節も相まってこのままの勢いで生き残れるような気がしていた。
結果的に、残留するためには鳥栖に6点差以上をつけて勝つしかなかった。そこまでの37試合を戦ったなかでもっと楽に生き残る道を残せなかった自分達が招いた結末であり、そこは受け入れるしかない。そうはいっても、死に物狂いで可能性を繋いできた末のシーズン最終戦としてはあまりにも救いが見えないゲームだった。前半から厳しい試合展開を強いられながらも、ゴール裏は著しくテンションを落とすことなく最後の笛が鳴るまで背中を押し続けた。それでも、応援がピッチのなかに変化をもたらすことはなかった。
ご存知のとおり、鳥栖スタジアムはジュビロが初めてJ2に降格した場所でもある。11年前のあの日、降格が決まって真っ先にゴール裏に走ってきたのは山田大記だったなとふと思い出した。暗黒時代の磐田を引っ張り、そして四度全ての降格を経験した男。一方で、彼がカップを掲げることは一度もなかった。山田大記と同世代の筆者は彼が入団してきた2011年頃から遠方のアウェイゲームにも行くようになり、ピッチ内とスタンドという違いはあれど同じ場所でずっと一緒に戦ってきたような感覚を勝手に持っていた。いつか大記とタイトルを獲りたいという想いは常にあったし、だからこそ、同世代のバンディエラである彼の最後がサポーターの矢面に立って降格を詫びる姿になってしまったことが心底悔しい。試合後の光景を忘れることは生涯ないと思う。
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11月のヤマハ三連戦、他の団体とも連携してスタジアムに集まったサポーターに入場時のスタンディングや手拍子の協力をお願いさせてもらった。皆さんの協力のおかげでこれまで以上にホームらしい雰囲気を作り出せたと思うし、それは選手たちにもちゃんと伝わっていたようだ。一方で、だからこそ結果に対する無力感もあった。
今シーズンを通して「俺たちの声で勝たせましょう!」という声掛けをスタジアムやSNSで何度もさせてもらった。きっと他の団体も同じような声掛けをしていると思う。はっきり言って、あれは嘘だ。いや、より正確を期すなら「幻想」と言うほうが適切かもしれない。
磐田から900キロ近く離れた佐賀県に何千人集まろうが、ヤマハスタジアムが総立ちになろうが負けるときは負けるし、たとえ無観客でも勝つときは勝つ。フットボールにおいて応援が決定的勝因になることはない。これは紛れもない事実だ。俺たちの声で勝たせたい、勝たせたというのは幻想もしくは思い込みでしかない。
じゃあ、サポーターの存在には意味があるのか?
さっきまでの話と矛盾するようだが、意味はあると思っている。
今でも忘れられない瞬間がある。2010年のナビスコカップ決勝、延長戦に入る前に歌ったTop Of The Worldだ。夕暮れの国立競技場を包んだあのチャントを聴いたとき、不思議と「勝てる」と確信した。いやいやそんなの結果論でしょ、と言われたらまあその通りで、そこにロジックは微塵も存在しない。100%エモーションベースの話だ。ただ、あの場にいた仲間たちに当時のことを聞くとみんなが口を揃えて「あれで勝てると思った」と言う。一緒に試合を観ていたわけでもないのに。あのときの感覚が選手たちにまで伝わっていたのかは知る由もない。しかし、あの日の国立で味わった無敵感のようなものがすべて勘違いだったとも思えないのだ。
俺たちの声がサックスブルーの背中を押すことで、止まりかけた選手の脚がもう一歩動くかもしれない。俺たちの声が生んだプレッシャーで相手のシュートが枠を逸れるかもしれない。「こいつらがいれば勝てる」と選手が思えるような雰囲気を創り出すことで、もしかしたら何かが変わるかもしれない。ピッチに立てない人間に出来るのはそんな曖昧で心許ないサポートであって、そうした幻想にすべてを賭けて出来ることをやっていくしかないのだ。だからこそ、我々はあえて「俺たちの声で勝たせよう」と言い続けたい。ピッチで戦う選手たちに「勝てる」と思い込んでもらうために。
今回の降格で心が離れてしまった人もいるかもしれないし、それはもう仕方がないことだ。けれど、まだあなたの心の火が消えていないのであれば、来年もジュビロのために集い、声をあげ続けてほしい。カテゴリーが変わってもフットボールは続くのだから。
ここ数年、サポーター仲間に子供が産まれたり、もうすぐ産まれるという人もチラホラ出てきた。親がサポーターだからといって必ずしもジュビロを好きになるとは限らないけれど、遠州で生まれ育っていく子供達にとって、ジュビロ磐田というクラブがずっとこの街の誇りたることを切に願う。そして、先を歩く人間にはそうしていく責任が絶対にあると思っている。
みなさま1年間お疲れさまでした。懲りずにまたスタジアムでお会いしましょう。
HOTSTUFF代表
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