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エミーナの朝(10)
ナゴンの恋人 4
義父は、ナゴンを制しつつ「それは、わたしがナゴンさんをナンパしたからだよ。」
『ナンパ』などという言葉を安易に言う人である。 この言葉に、ナゴンは少し不快な顔をして義父をにらんだ。
義父は、義母、つまり夫の母とは離婚している。だから新たに女性と付き合うのはご自由に、と言ったところであるが……
エミーナ「まさか、夫が入院している病院で……」
あわててナゴンが「いえ、違うの。あなたの旦那様が亡くなられてから、しばらくして、コーちゃん、あ、このお父様が、わたしの所に訪ねて来られたのよ」
エミーナ「それで?」
ナゴン「エミーナの力になってくれてありがとうと、感謝の品を届けにいらしたのよ」
エミーナ「それで?」
ナゴン「ちょうどお昼どきで、ランチでもどうですかって、誘われたの」
エミーナ「誘われた? それで?」
ナゴン「まあ、いいかなって思って、お食事ご一緒したの」
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エミーナ「ふーん、ご一緒しちゃったの? それで?」
ナゴン「それでね、話がはずんで、また会いましょうってことに……」
エミーナ「ナーチンは食事に誘われただけで付き合うの? お父様には失礼ですが、親ぐらいの年の人よ」
ナゴン「だってぇ〜」と少しすねたように義父を見ながら、「こういう年長の人にひかれちゃうんだものぅ〜」
エミーナ「こんな大事なこと、なぜ黙ってたのよっ!」
ナゴン「だって義理だとはいえ、エミリンのお父様でしょ。切り出しにくくてぇ。 第一、旦那様がなくなって間もないし、あなたの心労を考えると、とても……」
義父「エミーナさん、彼女はとても君のことを気にかけていた。だからなかなか言い出せなかったんだよ。分かってあげてくれないか」
わたしは、「そんなことは、あなたに言われなくても分かっています。 お父様が女好きなだけでしょ」と言いかけて言葉をのみ込んだ。
実際には、
「まさかお父様とナーチンが付き合ってるなんて思いもしなかったから……ちょっと、びっくりしてしまって……
わかりました。 お父様、ナゴンはわたしの大切な友人です。大事にしてあげてください」
ナゴンは、うなづく義父を照れくさそうに見てから、「ありがとう。エミリン。 これであなたの気持が落ち着けば言うことないわよ」
エミーナ「ありがとう。もう大丈夫よ。 ナーチンに恋人ができて、しかもお父様だなんて、とっても安心!」と義父に対するサービスも加えた。
サービスと言ったが、これは本心でもある。 単なる男女関係ではない。ナゴンは義父を自分の父親代わりにしているにちがいないからである。
ナゴン「エミリンにそう言ってもらって、わたしもほっとしたわ」
エミーナ「えーっと、そうするとぉ、ナーチンを『お母様』と呼ばないといけないことにぃ〜」と、いたずらっぽい上目づかいで言った。
ナゴン「ちょっとぉー、やめてよーっ。そんなこと全然考えていないわよーっ!」
わたしは吹き出し、ナゴンも義父も笑い出した。
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