地域が大学にやってくる。地域連携の矢印の向きを変えれば、大学と地域の関係はどう変わるのか。
学生たちと地域のコラボは、今では多くの大学で取り組まれています。学生にとっては、キャンパスから飛び出し、実社会のなかで経験を積むことができる、またとないチャンス。地域にとっても、学生たちが提案等をしてくれるのは、いい刺激になるでしょう。今回、見つけた川村学園女子大学×我孫子市の取り組みも、ある意味では地域連携の一つなのですが、アプローチがこれまでとは180度違いました。でも、地域にとっては、こういう取り組みを増やした方がいいんじゃないか、という気がしました。
では、どのような取り組みなのかといいますと、キャンパス内に我孫子市の情報発信コーナーが常設されるというもの。ほとんどの地域連携は、学生が地域に行くのですが、今回は地域の方から大学に来るようです。
今回の取り組みが生まれたのは、授業でアンケートをしたところ、およそ6割の学生が我孫子市の情報発信を見たり聞いたりしたことが“ない”と回答したことがきっかけのよう。川村学園女子大と我孫子市は、2007年から連携協定を結んでおり、これまでもいろいろと活動をしているのですが、学生たちの興味関心は、なかなか地域には向いていないようです。おそらく、川村学園女子大の学生が特別にクールなわけではなく、どの大学の地域連携でも同じような結果が出るような気がします。
地域が、なぜ大学、とくに学生と連携をするのかというと、学生のアイデアやマンパワーに期待しているからというのもあるでしょうが、関わる学生たちに自分たちの地域を知ってもらいたいという思いが強くあるように思います。学生たちに一定期間かかわってもらうだけで、地域の活性化や課題解決ができるかというと、正直なところ難しい。それよりも、地域と関わったことをきっかけに、卒業後にその地域で働いたり、住んだりしてもらうことの方が、よっぽど地域にとってはプラスになるはずです。
そう考えていくと、地域連携の何らかのプロジェクトを通じて、一部の学生に地域の課題等を深く理解してもらうのも大事ですが、できるだけ多くの学生に地域についてまず知ってもらう、ということも、とても意味があるはずです。今回の取り組みは、ずばりこの後者にあたる取り組みです。
とはいえ、今回の取り組みは、いろいろな連携活動があるという下地があってこそ、効果を発揮するように思います。だって、情報に触れてうっすらと興味が湧くだけでは、すぐに忘れてしまいます。うっすらとした興味を、強い興味に変える仕組みも必要です。また、何かしらの地域活動に参加した学生が、活動終了後も地域を覚えておくためにも、こういったコーナーは役立つのではないでしょうか。
さらにいうと、従来の地域連携活動であれば、学生が地域に飛び込むことで、地域への理解を深めました。今回の取り組みはその逆で、地域が大学に飛び込むことで、地域が大学への理解を深められるように思います。相互理解がこれまで以上に進むことで、地域連携はより面白いステージへと発展していくのかもしれません。
今回の川村学園女子大は情報発信コーナーを設置するというものでしたが、地域が大学に来る、という視点に還元してアイデアを出していくと、もっといろいろなアプローチがあるはずです。昼ごはんどきに我孫子市の名店の味が楽しめるキッチンカーを出したり、我孫子市の伝統的なイベントのスピンオフを大学で開催したり、などなど。なんだかんだいって、大学は今なお学生以外の人にとっては、少し入りにくい場所です。地域が大学に来ることで、より大学と地域の関係が密に、そしてボーダレスになっていくと、この印象も変わっていくのかもしれません。ぜひいろんな地域が、いろんな大学にやってきてほしいものです。