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#76 AIにできなくて人にできること

近ごろはライター界でもChatGPTの台頭が話題となっており、「ライターの仕事がAIに奪われてしまうのでは」といった声も聞かれています。

私も最近、ある方の動画配信をAIで文字起こし&要約した文章を読む機会があり、そのクオリティーの高さに驚愕しました。AIがここまでできるのであれば、もう単純な文字起こしの需要なんてなくなってしまうかもとまで感じたのです。

「AI時代を生き抜くライターになるには、何が必要なのだろうか」
この問いの答えは、ある意味単純かもしれません。
それは「AIにはできないことをする」です。

「じゃあ、人間にできてAIにできないことは何だろうか」
わたしはその答えの一つは「未来の可能性を信じる」ことだと思うのです。

AIは過去のデータをもとにさまざまな決断を下します。これはいわば過去を見ながら未来を決めてしまうようなことだと思います。

さて、ここにひとりの赤ちゃんの姿を描いた絵本の一節があります。

「ないている あかちゃんには このおくりものがいい。とどけておくれ」
「はい かしこまりました」
てんしが はこんできた おくりものは うたが すき でした。
あかちゃんは うたの すきな こえの きれいな こどもに なりました」

ひぐちみちこ「かみさまからのおくりもの」より

もしもAIがこの「ないているあかちゃん」の未来を予測するのなら、
「過去の傾向からみて、神経質な子に育つ可能性が高い」
「育てにくくて親が苦労しそうだ」

こんな結果が出てくるかもしれません。

でも、ひぐちさんが書かれたこの絵本では、あかちゃんの未来について
「うたのすきな こえのきれいなこになりました」
と言っています。

「かみさまからのおくりもの」より

泣いているあかちゃんをみて、
「この子はこんなに大きな声で泣けるから、きっと声のきれいな子になるね」
「きっと歌がすきな子になるよ」

こんなすてきな未来を想像することは、やはり人間にしかできないだろうと思います。

じつはわたしの娘も、かつては「とてもよくなくあかちゃん」でした。
人見知りが激しく、家族以外の人に話しかけられようものなら、火のつくように泣いていたのです。

でも、そんな彼女をみて、ある方がこう言ってくださいました。
「わたしには、〇〇ちゃんが大きくなってりっぱな若者になった姿が目にうかぶよ。楽しみだね」

このように未来を信じることは、今を生きる人間に大きな力を与えてくれます。そして時には、信じることによって、未来そのものをも変えることがあるのです。

わたしが中学生のころ、市の合唱祭への参加クラスを決めるための校内予選会が開催されました。合唱祭に参加できるのは、2年生5クラスの中から上位2クラスだけでした。

そのための練習が始まりましたが、わたしたちのクラスはなかなか全員の気持ちが一つにならず、練習にも身が入りませんでした。そんな様子をみて、担任の先生ですらも「これでは入賞はムリだね」といった発言をするほどでした。当然ながら、当事者である生徒たちも、誰一人自分たちが入賞できるなんて思っていなかったのです。

そんななか、当時社会科を担当してくださっていたY先生だけは
「君たちならきっとできる」
と言ってくださっていました。実はY先生は教頭先生であり、本来なら授業を担当する立場ではなかったのですが、
「頼むから、ぼくから授業を取り上げないでくれ」
と懇願して、私たちのクラスで週何回か授業をしておられたそうです。

「でも先生、どうせおれらはだめなんやて」
「そうや。担任だってムリだって言ってるんだから」
「いや、君たちなら絶対にやれるよ」

Y先生は一体何を根拠に、わたしたちが予選を勝ち抜けると思っているのだろううか。でも、あそこまで言ってくれるのなら、とりあえずやってみるか。

「君たちならできる」
おだやかな口調で、でもはっきりとこう言い続けるY先生の姿に、私たちの気持ちにも少しずつ変化が表れました。あそこまで自分たちを信じてくれるY先生のためにも、自分たちのできるだけのことをやろうじゃないか。その気持ちがやがてクラス全体に広がり、挑んだ予選会本番。結果は、なんと見事に市の大会の代表に選ばれることができたのです。

定年退職を前にしたY先生が教師人生のすべてをかけて、最後の教え子であった私たちにしてくださったこと。それは「たとえ自分が最後の一人となっても、生徒たちの可能性を信じ抜く」ということでした。

Y先生が私たちの可能性を信じてくださったことで、結果的に私たちは、当初予想されていた未来を変えることができました。これは、絶対にAIにはできないことだと思います。

たしかにAIはすごいし、上手に使えば仕事の効率をぐぐっと上げることができると思います。けれども、人間にしかできないこともあるので、わたしはわたしのできることを今後もやり続けたいと思います。







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