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#30 山に登る人
先日、図書館に本を借りにいったついでに、山に登ってきました。都会の方には意味が分からないかもしれませんが、田舎ですと居住区域内に山があるのは当然であり、散歩のついでに軽く山登りするのは日常茶飯事です。
このあたりでは、小学校の春と秋の遠足は山登り、宿泊研修でも山登り、中学校のマラソン大会は山中のドライブコースという具合に、生活と山が密着しているのです。
そして山といっても専用の登山靴や装備は必要なく、本当にウォーキングと同じような格好で皆さん、気軽に登っておられますね。
わたしが登った山も、ほんの20分ほど歩くと中腹地点の展望台が見えてくるぐらいの小さな規模です。
そんな山であっても登っているとだんだん息が苦しくなり、足取りも重くなっていきます。目に入るのは山の木々ばかり。ときおり聞こえる野鳥のさえずりに励まされつつ、一歩一歩、歩みを進めていくのです。
そして、幾つかのカーブを曲がり切ると、ふいに視界が開け、目の前に雄大な空と町の展望が広がります。いわばこの瞬間を味わいたくて、山に足を運ぶといっても過言ではありません。
日々の歩みの中でも、先が見えないこと、進んでも進んでも現状が何も変わらないように思えることがたくさんあります。むしろ、そんな日々が続くからこそ、あえて山に登ってみたくなるのかもしれません。
山は、足を動かし続けさえすれば、いつかは山頂につきます。日常生活の中でこのように、努力の結果が分かりやすく可視化される瞬間なんて、そうそうない。だからこそ、何かに行き詰まりを感じたときには山に登りたくなるのかもしれません。
苦しくても、先が見えなくても、歩き続ければきっと目の前がパッと開ける瞬間がいつかはやってくる。
このことを信じさせてくれるから、わたしは山に登ることが好きなのです。