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雅叙園の今後をぼんやり考える(前編)
例の長いやつを書き終えた解放感から、たまには時事ネタを拾ってみます。雅叙園、という名前には独特の趣があり、その意味するところは以下の明治学院大学のサイトによると、「文雅叙情」という中国の言葉から来ているそうだ。この館の歴史(更に下のリンク参照)を遡ると「北京料理」というキーワードも出てくるが、広大な日本庭園を備え、和装婚礼のメッカであるここはよく見ると中国との縁をそこらに感じる施設でもある。
社名の由来は中国の言葉「文雅叙情」−著名人が1日居ても飽きずに優雅に過ごせること−からきていると言う。学生にとっては「宴会場・結婚式場」というイメージが強く、近寄りがたい所かもしれないが、実際にはカフェや美術館も併設されており、豪華絢爛な館内を散策するだけでも10分に楽しむことができる。
その最たるものが、中国のCICという政府系ファンドが実質的な不動産のオーナーであるということだ。CICは2015年1月から既に10年間保有しており、2024年の年末に実行されたとされるブルックフィールドへの売却はその対象が「所有権の一部」とされていることから、今も何らかの関りがある可能性がある。
雅叙園の所有(不動産)と経営が分離されたきっかけとなったのはローンスターだ。雅叙園を運営していた雅秀エンタープライズが2002年に民事再生手続きを申請し、883億円の負債を抱えて倒産した。この時にローンスターは銀行が保有していた債権を買い取り、2003年に経営会社となる株式会社目黒雅叙園を設立し、所有直営だったストラクチャーを所有と経営に分離するリストラクチャリングをおこなった。そして、2004年から2005年にかけて段階的に、施設の経営権(=株式会社目黒雅叙園の株式)は結婚式場運営などを行うワタベウェディングに譲渡し、ストラクチャーだけでなく、実体としても所有と経営が分離することになった。
それから大きく遅れること2014年に不動産を森トラストに約1,300億円で売却し、ローンスターとしてのディールは完結した。所有直営の施設をストラクチャー上、所有と経営で分離し、それぞれ最も高く買う相手、今回の場合は婚礼の事業会社と不動産会社に売却するという教科書的なディールと言える。なお、森トラストはわずか半年後に約1,400億円で前述のCIC(そのアセットマネージャーはラサール不動産投資顧問(LIM))に売却しており、外資系ファンドの間の売買が日本有数のデベロッパーを挟んでいることには何らかの意味がありそうだが、もはや古い話なのでここでは深入りしない。
分離した所有と経営を繋ぐものが賃貸借契約である。それも今回は定期借家契約。定期借家契約はその名の通り、賃貸借期間が決まっており、その期限が到来したら、一旦は満了する契約になっている(再契約する場合も、あくまで再契約であって基本的に延長ではない)。同じ賃貸借契約でも、自動更新の概念がある普通借家契約とは異なる世界観の契約となっている。これの終期が2025年9月末に到来するとのことなので、なんとなく2005年にワタベに経営権が完全に譲渡されるタイミングで20年間の契約が結ばれたもののような気がする。
この定期借家契約は婚礼のような足の長いビジネスとの相性は非常に悪いが、今回はそれが見事に表面化した事案と言える。先ほど定期借家契約は期限が到来したら一旦は終了と書いたが、厳密に言えば、契約期間が1年以上の定期借家契約の場合、契約満了の1年前から6か月前までの間が通知期間となり、その間に所有者側が賃借人に対して終了する旨の通知をおこなうという手続きを踏む必要がある。今回の場合は2025年9月が期限だとすると、2024年10月から2025年3月末までに所有者側が通知をおこなう必要がある。この騒動が表面化したのは2025年2月中旬なので、まさしく通知期間に該当しているし、以下のサイトによると2月10日に通知がなされた可能性が高そうだ。なお、この通知期間内に通知がなされない場合、ズルズルと賃貸借期間は延びていくことになるが、その場合でも所有者は通知から半年で解約させることができるので、やはり1年以上前から予約することも珍しくない婚礼のような足の長いビジネスとは相性が悪い。
つまり、今回の件に関しては賃借人側がリスクをとって予約を受けたものの、結果的に失敗したということになる。賃借人である目黒雅叙園側としても、定借満了は百も承知であったはずだし、とは言え、何らかの形で自分たちによる運営は継続できると考えていたのだから定借の期間満了後の予約をとっていたのだろう。この辺は交渉当事者にしか分からないので、外野からその経営判断の是非を論じる気はないけど、この意思決定をする側の立場にもし、自分がいたらと思うと胃が痛くなる。
ただ、運営が継続できなくなった場合、実質的に被害を被るのはカップルなわけで、目黒雅叙園は結果的にカップルを巻き込んだことになるわけだ。もちろん、雅叙園の不動産の売買があった件はニュースにはなっているので、カップル側も知ろうと思えば、売買の事実は知ることができたわけだが、今回は別に売買が直接的な原因ではなく、定借満了が直接的な原因であり、結婚式を挙げようとしているホテルの定借がいつ満了するかなんてゼ〇シィには載っていないし、そんなところに気をつけろなんていうアドバイスもゼ〇シィには載っていない。
(長くなったので後編につづく)
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