ほっちのロッヂ × アート・トーク#2「人生会議を文化にする」~トーク・アーカイブ(後編)と、おじくじ仲間募集!
ケアの現場と隣り合いながら文化芸術・アート活動に取り組む「ほっちのロッヂの文化企画」。
ケアの現場でどういう風に実践を積み重ねているのか。
ケアの現場でアート活動に取り組むことにはどんな意味があるのか。
私たちの活動をリアルタイムでお伝えしながら、全国各地・世界各地の取り組みとつながるトーク企画です。3月に行われた第2回アート・トークのアーカイブ前編に続き、アーカイブ後編を動画ダイジェストと共にお届けします。
人生会議とは?
人生を生きる上で自分が大切にしたいこと、望んでいることを話すプロセスのこと。英語圏ではACP(Advance Care Planning;アドバンス・ケア・プランニング)と呼ばれる。特に、医療の選択肢が多様化し、人生の最期をどのように過ごすかにもいろんなオプションがある中で、自分がどのように意思決定をして行くか、特に自分が意思決定をできなくなった状態の時に、どういった状態を望むかについて話していくプロセスのこと。
ゲスト①尾山直子(おやま・なおこ)さん⇒前回記事
1984年うまれ、東京在住。高校で農業を学び、その後看護師の道へ。現在は桜新町アーバンクリニック 在宅医療部に勤務。訪問看護師として働きながら、京都造形芸術大学 美術科(写真コース)に通学。
卒業後は、かつて暮らしのなかにあった看取りの文化を、現代に再構築するための取り組みや、老いた人々との対話や死生観、人が人を看取ることの意味を模索し、写真作品制作を行っている。
ゲスト②神野真実(じんの・まみ)さん⇒今回記事
大学時代、祖父が亡くなり、耳の不自由な祖母(当時86)が引きこもる姿を目の当たりにし、社会包摂のあり方に興味を持つ。
現在は医療・ヘルスケア業界に身を置き、市民・専門家参加型のデザインアプローチで、認知症の人が自立した生活を送るための環境づくりや、在宅医療患者と家族・医療者が医療やケアについて対話をしやすくするツール・環境づくりを行う。
―― 尾山さんからは、「えいすけさん」という一人の方の人生を追うことでじっくりと自分や家族の「老いと死」に思考を向ける取り組みをご紹介頂きました。神野さんはどんなプロジェクトに取り組んでいますか。
神野)私からは「人生会議の答えも方法も教えてくれない。おじくじのすすめ」ということでお話をしたいと思っています。
皆さんは「おみくじ」なら聞いたことがあると思います。おみくじの「み」というのは、神様のことだそうですね。それに対して「おじくじ」の「じ」は自身のことを表していて、神様が「あなたの将来こうなります」と断言してくれるのではなく、自分自身や周りの人と「今のあなたはどうか」さまざまな問いから対話を始めるきっかけになるツールです。
―― なるほど、それで「貴方の未来があなたを占う」というキャッチコピーなのですね。神野さんはどのような活動をされていますか。
私は現在、尾山さんの所属する桜新町アーバンクリニックの運営支援もしている株式会社メディヴァという会社に勤めながら、専門職や自治体、デザイナーなど様々な職種の方をつなげながら、より良いケアを実現するべくさまざまな実践を重ねています。その活動の一環として、今回の写真展「ぐるり。」の共同主催や「おじくじ」の開発、在宅医療や人生会議を普及啓発するための冊子づくりを行っています。
―― 人生会議についてはどんな思いがありますか。
人生会議は、医療の選択肢がいろいろとある現代で重要視されるようになっています。ただ、身体の状態や病気の段階によって、話す内容も少しずつ異なってきます。まだ病気を経験していない元気な時は、価値観や命に対する考え方を解きほぐすようなところから、命の終わりが近づいてきた時には、具体的な治療やケアの選択肢、治療を受ける場所、受けたくない治療などから話を始めることが多いと思います。
特に、元気な時の価値観や命に対する考え方というテーマは、日ごろ生活する中では具体的に思い描きにくく、気軽に話しにくいテーマだというところに私も課題を感じています。そうしたことについて語り合う機会やきっかけあるともっと良いんじゃないかなと思っています。
また、こうした仕事をしていると「どうやって人生会議をすればよいですか」「手順を教えてください」ということもよく聞かれるんです。でも、人との関わり方はそれぞれ違っていい、だから人生会議に決まった方法はない、ということを軽やかに伝えられるようなツールが作れたらいいなと考えていました。
―― おじくじを思いついたきっかけは?
ある日こんなことがありました。
私の実家の前に大きい神社があって、神社の前に方位除けの看板を見つけたんですね。その時は色々と悩んでいたところに、その看板から「来年は八方塞がりです」っていう宣告を受けたんですね(笑)。それをすごく信じ込んでしまって、暗い未来を想像してしまったんですけれども、「ちょっと待てよ」と。「本当にやることなすこと、すべて八方塞がりになるわけではないよな。自分で変えていけばいいじゃん」と思い直しました。
これってもしかして、お医者さんに診断を受ける時に似ている感覚かなと思ったんです。誰かに自分の未来を全決定される瞬間。そこで、この感覚をヒントにしてツールを作れないかなと考えたことが、おじくじ誕生のきっかけになっています。
―― 改めておじくじについて教えてください。
もともとおみくじとは、国の行く末について神の意志を占うという意味合いを持っていました。おじくじでは、神の意味をあらわす「み」を自分の「じ」に変えて、誰かが占うとか占われるとかではなく、「未来は自分で決めてしまおう」というコンセプトにしました。
構成としては、おみくじの中によくある「願事」「待人」などのカテゴリに、占いの結果ではなく「願いが3つ叶うなら?」「今、会いたい人はいる?」などの質問が書いてあります。裏面には、私たちが在宅医療で関わっている人生の先輩に出会えるしかけとして、名言や迷言、エピソードにまつわるラッキーアイテムなどを載せています。
―― おじくじを引いてみた方たちの反応はどうですか。
まずは薬の出され過ぎから自分を守りたいAさん。「病気」の欄を読んで、ご自分の病気との向き合い方についてお話くださいました。最近いろいろな病院に行っては、あっちでもこっちでも薬をもらってしまい飲み切れない。だから困った事があっても、最近は1つしか言わないと教えてくれました。
次に86歳のBさん。実は85歳まで車の塗装の仕事をずっとされていて、コロナをきっかけに退職を余儀なくされ、仕事が無いということが思っていた以上に辛いことを吐露してくれました。ご自身にとって、仕事をすること、若い人に技術を教えることが生きがいだったのだそうです。
いつも一緒にいるご友人同士でも、「あなたそんなことが出来たの?」なんて会話があって、お互いに新しい一面に出会うということもあったようです。
おじくじは、名前や肩書きを知らなくても、死や病気に直面していなくても、その方の暮らしや病気のこと、人生観、やりたいことに関する会話を始めるきっかけになってくれると思います。とにかく、おもしろく人と出会えるというのが、ポイントですね。
▶ディスカッション部分の動画アーカイブはこちらから視聴できます。字幕をオンにすると字幕が表示されます。
(報告終わり)
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おじくじ仲間、募集中!
すでに出来上がっているおじくじを置いてみたい、自分たちオリジナルのおじくじを作ってみたい・・・など、少しでもおじくじに興味を持ってくだされば、WEBページのフォームよりお問い合わせください。
#もっと気になる方に
ほっちのロッヂ共同代表・紅谷浩之共著
『わたしたちの暮らしにある人生会議』(金芳堂、2021年)
過去のアート・トーク アーカイブ
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ほっちのロッヂ
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書き手・動画編集:唐川恵美子(エミリー)
写真:尾山直子、神野真実
文責:藤岡聡子