ほっちのロッヂ×アート・トーク#1「ケアの現場で撮る」を考える~トークアーカイブと報告集販売のお知らせ!
ケアの現場と隣り合いながら文化芸術・アート活動に取り組む「ほっちのロッヂの文化企画」。
ケアの現場でどういう風に実践を積み重ねているのか。
ケアの現場でアート活動に取り組むことにはどんな意味があるのか。
私たちの活動をリアルタイムでお伝えしながら、全国各地・世界各地の取り組みとつながるトーク企画を始めました。
前回記事に引き続き、2021年12月に行われた第1回のアート・トークの模様をダイジェストでレポートします。
—— ほっちのロッヂの写真プロジェクト「ケアの文化のポートレイト」とは。
唐川)ほっちのロッヂには、大きな枠組みとして「交換留藝」という滞在制作のプログラムがあります。ケアの現場にアーティストが滞在しながら自身の作品を作っていくという企画で、これまでに演劇、ダンスなどのプロジェクトを展開してきました。
2021年、3回目となる滞在企画には、写真家の清水朝子さんをお迎えしました。生まれてくる作品を通して私たちの活動を見直すきっかけとなれば、と思い企画を進めました。なので今回は、特別なことは何もせず、私たちは普段通りに過ごして仕事をし、それを清水さんに体感して頂く形でした。
制作期間としては、9月の下旬から11月の初めまで、みっちり2か月ぐらいです。軽井沢で撮影をしたのは計33日間、あとは清水さんの拠点である神奈川県で作業をして頂きました。滞在期間の前半はほっちのロッヂの中で行われている活動を、後半には訪問診療や訪問看護に入っている方にもご協力を頂いて、訪問の様子の写真を撮影しました。そうして11月29日から約1ヵ月間、「清水朝子写真展『診療所』を撮る」が実現しました。
展示開始初日の様子。朝タイムでスライドショーを見ながら歓談。
―― 清水さんに、ほっちのロッヂで過ごしてみて感じたこと、心がけたことをキーワードで振り返ってみたいと思います。1つ目のキーワードは「USBコードになる」ということ。これはどういう意味ですか?
清水)これは普段から私が撮影時に心がけていることで、常に「被写体とカメラをつなぐUSBコードになろう」という意識でいます。もちろん私が撮るので、私の表現にはなるかもしれないんですけど、「レイヤーをかけずに素直に被写体や空間とカメラをつなぐぞ」っていう気持ちで撮るという感じです。
唐川)そういう意識で撮影すると、どういう写真が生まれるのですか?
清水)自分で言うのは何ですけど、「あなたの素敵を見せてください」と心の中でつぶやいてシャッターを切ると、ポワンって「素敵」が現れてきます。私は座敷童のようにひっそりと、そこにいるだけです。
唐川)本当に座敷童という表現がぴったりですね。清水さんの佇まいがあまりにもさりげないので、ふっと目をやると、すぐそこに清水さんがいたりして、たまにびっくりするくらい(笑)。
―― キーワード2つ目は「変化」ですね。ほっちのロッヂのメンバとの関わり方が変わったり、撮り方が変わったりという瞬間はありましたか?
清水)そうですね・・・2週間目ぐらいです。最初は落としどころが自分でも分からなくて。どんな風に、どのレンズを使うかも迷っていたんです。
唐川)変化が訪れたのはいつでしたか。
清水)ほっちのロッヂの建物の真ん中に、ちゃぶ台があるんですよね。スタッフの皆さんは白衣も着ていないし、愛称で呼び合うから、誰が先生で誰が看護師さんかわからない。皆さんは毎日このちゃぶ台に集まっては、とにかくよくお話しされていて。
その様子をずっと見ていると、雰囲気はすごく優しいのですが、ある種の密度を感じて。医療の世界らしくない木のぬくもりのある空間の中で、皆さんの医療者としてのプロ意識をすごく感じて、「かっこいいなあ」と思いました。この密度を撮るには、ちょっとレンズを変えようかなと思って。それまで使っていたレンズを思い切って変えて、皆さんの仕事のじゃまにならないようにシャッター音も消して、より座敷童のように姿を消しました。
唐川)その配慮をしてくださっているからこそ、皆が本当に自然体でいられたのだと思います。今(画面に)映し出されている写真の姿が、私たちのありのままの日常になっています。
朝ちゃぶ台の周りに集まって、なごやかに申し送りをするメンバたち。
(撮影:清水朝子 転載はご遠慮ください)
―― まさに今出てきてたんですけれど、3つ目のキーワードは「プロ意識」です。ほっちのロッヂで皆のプロ意識を感じられたということですが、このプロ意識に気づいたきっかけは、やはりご自身の経験やキャリアの中で近いものを感じるからでしょうか?
清水)そうですね・・・医療従事者の方に「似たところがあります」などとは申し上げにくいのですが、あえて言うなら、撮影も診療も、現場の状況が毎回違うんですよね。毎回違う状況の中で、どういう風にやったら良いのかというのを、判断していくところは似ているかなと思います。ただ、相手の人生に入っていって相談を受けたり、色々な治療をされていく点で、医療業界は全然違いますね。
唐川)訪問看護に同行した時に、朝子さんがシャッターを切る瞬間が絶妙で、「全部の瞬間を見てくれているんだなあ、ありがたい」と言っていたメンバがいました。
清水)ありがたいですね。
唐川)メンバにとっては、一瞬一瞬にこだわりを込めて相手の方との付き合い方を決めていくから、その一瞬が大事なんでしょうね。
清水)そう、びっくりしたのが、訪問看護に同行した時のことです。訪問先の方の昨日の夜の状態や気分を探りながら処置をするかたわら、天気が良いから、その方を外へお連れするのに、歩いて行った方がいいのか、車椅子で行った方がいいのかを一緒に考えて促していくのですが、笑い方や話し方も現場によって変えているんですよね。すごい配慮と、プロ意識。時間の組み立て方。でも、その組み立てるところが楽しいともおっしゃってました。「かっこいいなあ」って思って。
(報告後編 おわり)
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#報告ポートフォリオ、完成しました!
清水朝子さんとのプロジェクト報告ポートフォリオが完成しました。ポートフォリオでは、野外に展示した8点の作品のほか、期間中準備の裏側、制作インタビューなども収録。
1冊300円(税込、送料込)にて販売中です。別希望価格にて卸売も可能です。購入をご希望の方は、ほっちのロッヂの文化企画までお問い合わせください。
お問い合わせ先:
ほっちのロッヂ 担当:唐川
0267-31-5519 / info@hotch-l.com
#もっと気になる方に
トークイベント「ほっちのロッヂ × アート・トーク#1」(終了)
今回ご報告したイベント内容はこちらです。今後も同様のトークイベントを開催していきますので、ぜひチェックしてください。
主催:ほっちのロッヂの文化企画
共催:特定非営利活動法人チア・アート
清水朝子写真展 「診療所」を撮る(終了)
2021年11月~12月にかけて開催した写真展のご案内です。今後も折に触れて作品を紹介していきたいと考えています。巡回展開催のご相談もお待ちしております!
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ほっちのロッヂ
info@hotch-l.com
書き手:唐川恵美子(エミリー)
文責:藤岡聡子