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不思議な老人からの教え その⑫ 満足するな! しかし感謝の気持ちは必要

「どん底から這い上がれ!」…..  か。

山根さんから言われた言葉が、頭から離れず
たまに思い出します。

何が何でも、種銭 10万ドルまで貯めるぞ!
と 誓った節約生活に少し疲れ果てて
ストレスを感じて来た頃の事です。

ワイキキの街は23時頃までは賑やかで、人通りも多くありますが
それ以降になると、急に人がいなくなります。
一斉に店が閉まってしまうので
観光客は、皆さんホテルに戻るのでしょう。
ロイヤルハワイアンショッピングセンターにある
僕が働いている時計屋の閉店も、多くの店舗と同じく23時です。

その日は、夜のシフトに出勤していて
23時に店を閉めてスタッフ皆で店を出ました。
いつもだったら、皆で駐車場に向かい
それぞれ車に乗って家に帰るのですが
その日は何故か、夜のワイキキの街を、フラッと歩きたくなりました。

一緒に働いているスタッフさん達に、「お疲れ様ー!」と声をかけて
僕はワイキキの街を、駐車場と反対側に向かって歩き始めました。

殆どの店は、店内が暗くなっていて、歩道の人通りも少なくなっています。
僕は、意味もなく、目的も無く
カラカウア通りを山側に渡って
ロイヤルハワイアン通りをゆっくりと歩いてみました。

ちょうど、DFSの前あたりに、

『 居酒屋 たこの木 』 

という
飲み屋があります。
たこの木 は、建物の2階にある居酒屋で
転がり落ちそうな位に急な階段を登って店に入ります。
入り口に、赤提灯が、ぶら下がっていて日本の居酒屋そのものです。

必死で金を貯める事を決心してから
貯金額が10万ドルに達するまでは、酒を断とう!!
と決めて、毎日、歯を食いしばって倹約生活をして来たんですが
その日は、何故か、いつもと違って気が緩くなっていたみたいです。
バイオリズムも、おそらく要注意日だったのかも。

それか、もしかしたら、僕は、意志が弱いのかもしれません。
「まあ、いっか。。」
一人で決めた自分自身の決断なので、誰も咎める人がいないのを良いことに
タコの木の階段を登って行ったのです。

誰も客がいない店内で、カウンター越しに
日本人の男性店員さんの声が響きました。
「いらっしゃい!」
僕は、ビールと枝豆と適当に料理を頼んで
久しぶりのアルコールを楽しみながら一人で飲んでいると
その店員さんが、話しかけて来ました。
彼は、アメリカ本土からハワイに引っ越して来て
この居酒屋で働いているんです、と言っていました。
同じ神奈川県民で同郷と言うことがわかり、1 時間程度の会話でしたが
話が盛り上がって、とても仲良くなり、そして僕は気分良く店を後にしました。

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2ヶ月ほど過ぎたある日。

いつもの通り、時計屋に出勤して
店頭に立ち、ふと店の裏を見てみると、小さなテーブルを挟んで
社長と面接をしている男性がいました。
何となく日本人ぽいです。
しばらく社長と話していましたが、彼は、無事採用されたようです。
社長と一緒に店内に入って来ました。

「テツヤです。よろしくお願いします。」

と、頭を下げた男性の顔を見た時、「あ!!っ!!」と思わず言ってしまいました。
居酒屋 タコの木 で働いていた男性だったからです。

実は、この時計店。
セールスのスタッフは全部で10名程いましたが
全員が女性です。いや、僕が入るまでは、全員が女性でした。
自分の母親よりも歳を取った感じで
化粧がめちゃくちゃ濃いオバサンばかり。
そんなお店の中に、僕は男性一人でしたので
ちょっと違和感がありました。
そこに、居酒屋を辞めたテツヤが入って来てくれて
なんか嬉しかったです。

テツヤは、結婚をしていて、夫婦で暮らしていると言うことでした。

ある日、テツヤから、

「今度の休みの日にでも、うちに遊びに来てください!」

とお誘いがあったので、ランチをご馳走になりに
彼の家に遊びに行きました。
テツヤの家は、ダイアモンドヘッド プアレイサークルというエリアです。

ダイアモンドヘッドとカピオラニ公園に挟まれた静かな所です。
彼の家は、公園から少しスロープを登る感じで、木々の間からはワイキキのビル群が見えました。
ワイキキから車で7、8分で到着するくらい近いのですが
とっても静かで環境の良い場所です。

彼の家でランチをご馳走になりながら、世間話をしている時
テツヤが 面白い話 をして来ました。

「うちの周りのプアレイサークルに建つコンドミニアムを5棟、丸々デベロッパーが買い取って、リノベーションして 近々分譲するらしいよ!」

と言うのです。
ランチを食べながら、故郷湘南の話や時計の話、車の話、アメリカに渡って来た経緯など、奥さんを交えておしゃべりしていましたが
会話中も常に、さっき何気なく彼が喋っていた、プアレイサークルのコンドミニアム分譲販売の事が、僕は気になっていました。

その日夕方、カネオヘの家に帰宅して、山根さんにその話をしました。
山根さんは直ぐに、

「あの辺りのエリアは未開の地だ。チャンスが来たようだな、そのコンドは、必ず買った方が良い! 3つか4つくらい買っておけ!」

と言うんです。

3つか4つ位って、マンゴーとかパパイヤをスーパーで買う時に言うなら良いけど、値段もわからない不動産を3つ4つ買えって。。。
このジイさん、いつも感覚がずれてるんだよな。。

僕は山根さんに言いました。

「この前、どん底からって言われてから、自分を見つめてわかった事だけど、確かに金は無いです。
でも、ハワイに来た時 一文無しだったけど
今は、数万ドル貯めました、そして、健康で毎日過ごせるから幸せだ思ってます、食事も困らないし、寝る場所もあるし。
ホームレスからしたら、全然どん底じゃない様な気がして来ました」

すると山根さんは、

「どん底も、最高のステイタスも、限度がなく、キリがない。
金を儲けていくうちに、慢心する時が必ずくる。
なので、常に質素に、今がどん底!と思って、気を抜かず
上を向いて進む事が大切なのだ。」

と言うのです。
そして付け加えました。

「今の生活に決して満足するな! しかし、感謝の気持ちは必要。」

数日後に、山根さんを乗せて
プアレイサークルで売り出すマンションを見にいく約束をして
リビングの電気を消し、それぞれの寝室に戻りました。
































































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