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8年ぶり2度目の女子とバーにいった話

多分、あれは8年くらい前だと思う。Webデザイン系のセミナーに出た時、たまたま隣の席の女子と何気なくSNSのアカウントをフォローしあった。

話したのはセミナーが始まる数分か終わった後数分で、それっきり。
そして、アカウントの交換なんて滅多にしないことなのに、彼女とはすんなり交換していたのだ。

前話で削除したアカウントで彼女とは繋がっていた。私の赤裸々すぎる日常ツイートを彼女は8年、見ていたのだ。

よく、彼女がフォロー解除しなかったなと思う。ミュートも。いや、ミュートはされていたかもしれない。

私はツイ廃と呼ばれる類の病気だった。活字中毒の人にはInstagramよりTwitterだと思う。とにかく文字を眺めていたいのだ。
子供の頃は家にあるお菓子、瓶、薬のラベル、本を眠る寸前までみていた。家庭の医学は愛読書だった。暗記しそうなほど読んでいた。目を酷使し過ぎているが、今も使えているので人間の身体というのは本当に丈夫にできていると思う。

話がずれてしまったが、数週間前、TLをたどっていたら、彼女が某Barがあげていたアブサンのクリームソーダのツイートを引RTしていた。「飲んでみたい」と。そのツイートに「わたしもです」とリプしていた。何の気もなしに。

私と彼女がSNSでやりとりしたのは、多分それが3回目くらい。

8年で3回ほど。

私はそんなリプしたことも忘れていた。数日後、彼女からリプ返しがきた。
一緒にいきませんか?そういう意味でなかったらごめんなさい
なんという、ド直球なお誘い。私は即OKした。
「DMします」彼女はそう返してくれた。

それから数週間後。私はいきなりアカウントを削除した。

その約束のことは頭の片隅にあったのだが、もうこんな誹謗中傷を受けるような私とは関わりたくもないだろうと思っていた。

が、通報するためにアカウントを復活した際に、彼女が
「あぁ、DMしようと思っていた人が垢削除してしまった」
と呟いていて、私の復活に気づき、DMをくれた。

そうそれから二日後。私たちは有楽町のBarにいた。

他のお客さん、店員が映らなければ撮影OKと言われた

時間は19時半。軽い感じのコンセプトバーと思っていたが、意外に本格的なBarで食べ物は乾き物しかなく。

時間が早いことから、客は私たち二人しかいなかった。

ほぼ初めましての状態で、テーブル席に向かい合いご挨拶した。
なんだかとても不思議な気持ちだったが、私の気持ちは高揚していた。

目的は、アブサンのクリームソーダ
乾き物もいくつか頼むことにし、私たちはメニューをみたが、フードとの相性はよくわからないため、呼び鈴をならして、どのような乾き物が合うかをメイド服の可愛い店員さんに確認してもらうことにした。

その結果、おすすめしてもらったのはアブサン風味のチョコサラミとレーズンバター。

先に、アブサンクリームソーダが登場した。
期待に胸がふくらむ我らは、乗っているアイスクリームをスプーンで崩し食べつつ、ストローでアブサンをソーダで割ったものをすする。爽やかながらも、アブサンの独特な風味がたまらない。

アブサンのクリームソーダ。ミントのリキュール入り

「割と薄めで作っているのですね」と彼女がいう。
店員さんが「あまり、お酒に強くないお客様が多いものですから」と。

なるほどと聞きつつ、そういえば、アブサンってこんな感じだったかもと私は過去の記憶をたどっていた。
上に乗っているミントとパクチー的な草をはみつつ、私は良い感じに酔いが回り始めていた。

大丈夫だろうか、二人、会話が弾んだりするだろうか、と思った私が杞憂だった。
彼女の会話繰り出し術が素晴らしく、さりげないながらもクリティカルヒット続きだったのである。

話していくうちにどうやら、二人ともお酒の趣味が割と合うことがわかってきた。
しかも、彼女の好みがとても面白くて興味を惹かれた。

チョコサラミはほぼ、チョコレートな味わいながらアブサンの独特な風味が奥にあり、最後に塩味を感じる味わいでこういう食べ物がこの世界にある奥深さに感動した。

自家製レーズンバターは甘過ぎず、お酒に確実に合う味わいで、バターを口の中で溶かしつつ至福を味わった。

レーズンバターとチョコサラミ

本をテーマにしたBarは、カクテルにも古今東西の名作のタイトルが使われており、アブサンクリームソーダを飲み終わった私は、次に梶井基次郎の檸檬を頼んだ。

このカクテルはホームページにも乗っていて、お店に向かう電車の中で、飲んでみたいと思っていたカクテルだ。

そんなに文学作品は読んでいないのだが、教科書にこの檸檬が載っていて、あぁ、この人の文体とか感受性がすごい好きと思ったのだ、あの当時。

そんな話から、小中学校の教科書に載っていた文学作品の話になった。

「あれって、長い作品だと抜粋でしたよねー。」
「で、あぁ、続きが読みたいと思うところで切れてたりして。」
「ここからは課金しないとみたいな感じですよね。」

この会話を聞いて、くすくすできるあなた。多分、私たちと笑いのツボが合う人だと思う。
私たちはこの会話でニタニタ笑いながら、終始ご機嫌だった(多分)。

「あぁでも芥川龍之介の羅生門とかは全部載ってましたよね。」
「あれは短いから教科書的にはちょうどいいんでしょうね。」

そんな会話を弾ませながら、好みのお酒の話に移った。私の頼んだ檸檬カクテルは、レモンティーリキュールに薄切りにした檸檬がたくさん入っており、まず香りの良さがふわっときて、グラスに口をつけるとグラスの薄張りの心地よさにうっとりした。

梶井基次郎の檸檬というコンセプトのカクテル、飲みやすい

「これ、香りいいんで嗅いでみてください。」
(彼女が香りを嗅ぐ)
「私、グラッパも好きなんですよね。」
「あ、私も好きです、もしかしてお酒の趣味が合うかも。」

そう、我々は香りのいい酒が好きグループだったのだ。

昔よく通っていたBarで私はグラッパを頼むと飲み終わったあと、グラスを残してもらい、その香りをずっと嗅ぎながら乾き物を食べたりしていた(迷惑な客)。

いいですよね、グラッパ。

グラッパで意気投合である。酒好きすぎる。
「サイゼリヤにグラッパがあるんですよ」
「え。そうなんですか?じゃそれをぜひ飲んでみたい」
「香りがどうなのかはわからないんですけどね、私は子連れだから飲んだことなくて」と彼女がいう。
「なら、私がしっかり検証しておきます」と私は彼女に誓ったので、サイゼに行って飲まないといけない(酒飲みのいいわけ)。

そして、彼女のグラッパエピソードを聞いた。
旅行で買ったグラッパのコルクの締め具合が甘かったらしく、家に着いてスーツケースを開けると、荷物にグラッパの香りが染み付いていたこと。

それで我々は爆笑である。

いくらグラッパ好きでも、物にグラッパのにおいがつくのはきついですよね。

ウィスキーでもシェリーとかワイン樽で熟成する系のものが、いいですよね。

的な話でもりあがる女子二人。
対象がお酒というだけで、話しているレベルは小学生のような他愛のない、好きなものの共感で、とても平和で楽しい時間が流れていた。

お互い、2杯ずつ飲んだ後、ご家庭のある彼女はあまり遅くまではということで、21時には会計をしてBarから立ち去った。

こんな楽しい時間が過ごせるとは。
その女子には感謝しかなく。
私たちは、楽しい気分で有楽町駅で別れたのである。

「また機会があれば」と。

次、8年後3度目とかまた楽しそうだな、と思いながら私は電車にゆられつつ帰路についた。

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