夕暮れの色#3 パパごはん
金曜日の夜18時。
自宅にて仕事が終わる。
4月から新型ウィルスが流行り、今では月の半分を家で仕事することが増えた。
在宅勤務に加え、外出を控えるようになってから二人の娘との時間も取れて
より家族が身近に感じるようになった。
今まで妻に任せきりになっていた、
洗濯や掃除等の家事も手伝うようになった。
ーいや、正確には家にいるならやっておいてとの指令のもと行っている。
さて、今日もやるか。
リビングのドアを開けると、娘たちが楽しそうにゲームで盛り上がっている。
彼女たちが15時に帰ってきたのを、出迎え
宿題を17時までにやるミッションを与える。
宿題が終わるまでは、ゲーム等が入った棚のロッカーを預かってるので
早く終わらせればゲームの時間が増えるというのがうちのルール。
ちなみに一人だけではもう一人が気が散ってしまうので、
二人ともできたのを確認してから、遊ばせるようにしている。
このルールにしたところ、二人は競うように宿題をするようになり、
小学5年生の長女は特に早く終われば妹の宿題を見るようになった。
きゃあきゃあゲームで盛り上がっているのを横目に、台所へ行き、
冷蔵庫の中身を確認する。
今日は塩鮭か…。あとは…しめじに、玉ねぎ、卵と人参、ピーマンと…
頭の中に冷蔵庫にあった食材を思い浮かべて、メニューを考えていく。
ーそう。今日は「親父飯(おやじめし)」
アウトドアが好きだから、そのときは率先して作るが家ではなかなか作らない。
だが、月末は特に妻の仕事が忙しいのもあり、たまにはと作り始めた。
妻の仕事の周期に気づいたのも在宅勤務が始まってからだ。
今日は妻が遅く帰ってくる日、だからご飯当番は俺。
玉ねぎを薄く切って、しめじはほぐし、塩鮭とバターと一緒にアルミホイルにくるむ。それをフライパンに並べて火にかける。
蓋をして弱火でじっくり火を通して、蒸し焼きにするのがポイントだ。
次に人参とピーマンを細かく刻み、ボールのなかで鶏ガラスープの素と塩コショウを合わせた卵とかき混ぜ、熱したフライパンに流し込み半円型に形を作っていく。
そして、粉末出汁を加えて沸騰したら適当に切った豆腐を入れてひと煮たちさせて火を止めてから味噌を溶かす。最後に刻みネギと乾燥ワカメを入れたお椀に汁を注ぐ。
今日の献立は鮭のホイル焼きに、野菜オムレツ、豆腐のお味噌汁。
我ながら、要領良くできたと思う。
小学3年生の次女がピーマンや人参が苦手だから、
細かく刻むのも最初は苦労したが段々と慣れてきた。
今回はオムレツ焦げてないな。よし。
ホイル焼きも玉ねぎが半透明であめ色の部分もできてきたから、うまくいった。
さぁ、ちゃんと食べてくれるか...娘たち。
5年生の長女がテーブルの片付けを、次女がテーブルを拭くお手伝いしてくれたから、
そこに料理を盛った皿を並べていく。
妻はまだ帰ってこないから、先に食べると連絡をして3人で席について、
せーので「いただきます」。
お腹がすごく空いていたのか、むしゃむしゃ食べ始めた娘たちに、
《美味しい》以外の言葉は受け入れないと言わんばかりの圧をかけつつ…
「美味しいでしょ?パパのご飯」と聞く。
それにたいして、娘たちは「美味しい!」と笑顔で答えてくれるから、
なんてできた子達なのかと毎回思う。
そして、「美味しい」の言葉だけしか聞かないような聞き方をする己の大人げなさを毎回思い知る…
まぁ、それでも「親父飯」...もとい、「パパごはん」は充実感に包まれる。
これはこれで幸せなんだろうというのも在宅勤務をして初めて、
気づいたことだ。