シャチと国後島、黒いリュック④
船が帰り支度を始めて、スピードを上げた。
私と彼の距離も急速に縮んでいた。
彼が、「同じくらいだと思うんですけど・・・」
と言った。
同じくらいか、すごく若いかどちらかだと思っていた私は、
「絶対若いですよ」と、彼を指しながら言った。
「36です」
「40です」
自分の年齢を人に伝えるのに、初めて戸惑いを感じた。
四十路を初めて口にした瞬間だった。
また同じくらいに見えたと言われたので、ありがとうございますとお礼を言っておいた。
旅の日程が同じで、当然だが帰る空港も同じだった。
「今回の旅も半分過ぎたな」と言っていた。
大学時代に動物関係の学科で学んだらしい。
実習先の小笠原で見たクジラの話しをしてくれた。
「これすごくないですか?」
と、昼間に知床の道路に出てきた羆の写真を見せてくれた。
最大の目玉のシャチに会うことができた船の中の人々は、もう動物なんて探してない。
私はデッキで物凄い潮風と紫外線を浴びていた。
岸が見えた。
改めて見ると、『北の国から2002遺言』に映っていた港なのかな。
そんなことを考えていた。
陸地に一歩踏み出すと、彼が
「これからどうするんですか?」
と言った。
「どうしましょうね・・・」
本当に何も決まっていなかったので、そう答えた。
「これから網走に行くんでしたっけ?」
「夜までに着けばいいんで」
と会話した。
お互いの車に近づき、
「これです」と言った。
一瞬の間があった後に、
「じゃ・・・お疲れさまでした」
と解散した。
年取ったな、と思った。
その日の夜、彼から網走に着いた旨と他愛のない内容のLINEがきた。
率直に、奥手な人なんだなーと感じた。
過去の恋愛を思い出しながら、サッポロクラシックを飲んだ。
翌朝、ほっぺが真っ赤に腫れていた。
日焼けをしたのは何年ぶりだろう。
あ、途中で帽子を取ったからだと思いだした。
短時間で髪型を変え、いろんな自分を出した。
私は何をやっているんだろう。
こんなことを冷静に考察できるようになったのは、オトナになった証拠だと思った。