展評 「音を視る 時を聴く」 坂本龍一
人生で初めて、「演奏」で涙した
坂本龍一さんは「生きていた」
そして、「生きた」音楽を僕に届けてくれた
演奏前の一呼吸、間奏部分の髪をかき上げる仕草
今まで画面でしか見ることができなかった全てを、生で触れることができた
感極まり、僕は涙してしまった
美術館では「見る」ことに集中するが、この展覧会では作品を「聴く」ことの方が多かった。
特に、最初の作品≪TIMETIME≫は「見る」と「聴く」の両価的な作品だった。舞踏家の田中泯さんによるパフォーマンスとそれに合わせた坂本さんの詩的な言葉と音楽はまさに「見る」と「聴く」の融合。暗闇の中で、音が光となって空間を踊るように動き回る様子は、まるで目の前で音楽が可視化されているかのようだ。加えて、見惚れてしまうぐらいの映像美、地面に敷かれた鏡がそれをより引き立てていた。
水槽と霧を使った作品も印象に残っている。音と光が織りなす幻想的な空間は、まるでSF映画のワンシーンのようであった。
最後の展示は、僕を含め観客全員を魅了していた。
「生きた」音楽に耳を傾けると同時に、「生きた」坂本龍一さんに目を向ける。
「見る」か「聴く」かの二者択一ではなく、両方が芸術に必要なのだと思った。
坂本龍一さんの思想をめぐる展示では、本人直筆のメモが公開されており、1番興奮したかもしれない。
『敏感にボーとしていること
何か発するものには機敏にキャッチする体勢をとりながら、半目で待機すること』
このメモが今の自分に響いた。
新聞やテレビなどで流れてくるニュースを敏感にボーと待ちながら、俊敏にキャッチする姿勢はこれからの時代に重要になってくるのではないか
この展示会は、本当にオヌヌメである
3月30日まで開催している。
東京に用がある際は、ぜひ。