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【ファンタジー小説】シルクハット団の冒険#1

第一章  第一話


裏通りの一角に『Owls(アウルズ)』というカフェが佇んでいる。その奥で椅子に腰掛けて、バルクは眠っていた。
 表の通りでは連日続いた雨が止み、分厚かった雲を払い除けるように、太陽が住人たちを照らしている。人々が行き交い、子どもたちが遊んでいる。
だが裏通りは、弱まりはしたがまだ小雨が降り、どんよりとした空気が流れている。傘をさすべきか悩むくらいだ。
ここフレムの街には多くの種族の移民や観光客が来るから、表の賑わいに負けたくなくて早く店を開けたい商人達が雨が止むのを待っている。
バルクも待っている。このカフェで何年も留まり続け、ある者が戻ってくるのを。
もうすぐ雨が止むと見越した二人の商人が開店準備をしながら話していた。
「なあ、あの噂知ってるか?この通りにあるアウルズっていう店の。」
「 ああ。なんの変哲もないないただのボロいカフェの中には不気味な怪物が!?って噂だろ?どうせホラ話さ。おもしれーけどな。それに、こっちの通りの店なんてほとんどが表から追いやられた奴らがいる場所だ。そういう評判でも仕方ないんじゃねぇのか。」
「まあな。だがもっと怪しいのが、俺たちが来る何年も前からここにあった店だと聞くが、あそこの看板が『OPEN』になったところを見たって話は聞いたことがない。」
「だから調べに行ったやつもいたみてぇだな。興味本位で覗きに行ったやつも、よその国から来て『CLOSE』の意味がわからないまま入っていったやつも、口をそろえて言ったらしい。『あの店には怪物がいた!』ってな。話によるとそいつは、目が━━━」
言いかけたその時、後ろから声がした。
「あの~お話し中すみません。我々旅の者で、尋ねたいことがあるのですが。」
振り返ると声の主は、大きい荷物を背負って傘を畳もうとしている。彼は服は着ているが見るからに全身が毛むくじゃらで、とても立体的な頭で鼻や口が前に長い。牙があり爪も大きく鋭い。まさに獣。だが二足で立っており、人間と同じ言語を流暢に話している。移民が多い今でも珍しい獣人だ。その後ろには髭面の人間の男。彼らの格好は、獣人の彼が言った通りまさに旅人のそれだった。
「ん?ああはいはい。旅の人ね。まだ店は開いてないが、買っていくかい?それとも、表通りまでの道が知りたいのかい?」
「では、買わせていただきます。しかし尋ねたいことと言うのはまた別でして。先ほど話されていた不気味な怪物が出るカフェのことです。それはどこにあるのでしょうか。」


その時、『アウルズ』では扉に付いたベルが鳴った。だが扉は、開ききらずすぐにパタンと閉まった。これが何度も繰り返され、ベルがリンリン、リンリン!眠っていたバルクは目は閉じたままだが、起きて外の異常を気にした。ベルなんて短く鳴りやむものだ。いつもなら誰が入ってこようが無視しているが、今回はこのほんの少しの興味がバルクを扉へと動かした。バルクは足が長くスラッとした細身の体型で、スタイリッシュにスーツを着こなして頭にはシルクハットを被っている。目を開いた瞬間、バルクにある光景が視えた。[バルクがひざまずいている]少し暗い場所で薄い光に照らされていた。そんな光景だ。
少し先の未来を"視る"能力を持つバルクは、自分や周りの未来が無意識的に視えてしまう時がある。今回は誰かの前でひざまずく姿が視ようだ。
未来が視えた時、俯瞰で見た自分の姿に毎回疑問を抱く彼がいる。
何故私の目は1つなんだろう
これが、彼を見た全員が彼を怪物やお化けだと言う理由だ。普通の男性なら魅力的といえる体型だが、彼の真っ黒顔にたった1つの大きな丸い目という不気味さが、彼を見た者を恐怖させていたのだ。
バルクは目をパチパチさせてギョロッと扉の方を向いた。立ち上がり、机に立てかけてあったステッキを持って扉へ歩いていった。いまだに扉がドン。リン。ドン。リン。と押されて閉じてを繰り返している。扉の上部には丸い窓があり、そこから入る少しの光もチラチラと動いている。また不思議なことにその窓から見ても扉を開け閉めしている人物は確認できない。
動きが無くなったのでバルクが扉を開けると、助走をつけて扉にぶつかろうとしていたからなのか、それはとても強い勢いで店内に飛び込んできた。
瞬間バルクには、白く明るく光っているものが風と共に横切ったように見えた。音も立てずに店内を滑空し始めたそれは、Uターンしてバルクの足元に着地した。彼の膝丈よりも低いくらいの大きさの白いなにかと見つめ合い、バルクは言った。「久しぶりだな。福郎か。」
それの名前は福郎。ホーホー、ホーホーとバルクを見上げて鳴いている。白い光の正体は梟の福郎だ。真っ白で綺麗な見た目だが、身体中に水滴が付いているし、頭が少し汚れている。
カウンターの奥の部屋にあるクローゼットから取り出したタオルケットで福郎を拭きながらバルクは言った。
「ドアは頭突きでは開かなかったようだな。」
バルクがマッチを取り出し店内のランプ一つ一つに火を灯していった。雨の中、薄暗い不気味な店の中は数年ぶりに優しく照らされ、窓から柔らかい光が漏れ出た。福郎は、入口近くの彼専用の止まり木に止まった。まるでやっと羽を休められると安堵するように、「ホッホッ。ホッホッ」と鳴いている。
すると今度は店の奥の方でけたたましい音がなった。
ジリリリリ!
バルクは「合図だ」と呟いた後、振り向いて入口側をみた。「福郎。そこから窓を塞いでくれ。」バルクはそう言いながら音の方へ歩き出した。
「ホッホーホッホー!」福郎はそう返事して扉の丸い窓の奥を睨みつけながら飛翔した。羽を動かしながら自分の身体で店内を隠すように窓の目の前で飛んでいる。
その間バルクは長ったらしい暗号を慣れた手つきでボタンに打ち込んでいる。
カウンターの奥の部屋には食器を洗うシンクや収納があるが。そのクローゼットを開けて右下に3×3のボタンが設置されている。暗号を打ち込み終わるとクローゼットがギギギと音を立てて横にスライドしていく。その先には階段があり、さらにその先に扉がある。
合図の音は扉の奥から聞こえてくる。扉には『シルクハット団本部』と書かれている。バルクが扉を開けるとそこには広い空間があった。内装は、入って右側にカウンター、左側に椅子、テーブルなどが置いてある。アウルズと似たような作りになっている。違うのは、暗めの雰囲気で棚にはお酒が多く並べられている所だ。つまりいわゆるバーがカフェの地下にあったのだ。
ジリリリリ!と響いていた合図の正体はレトロなスタイルの黒電話だった。バルクは受話器を取ると、人間なら耳や口があるであろう位置に形式的に近づけて、言った。
「こちらバルク」
次に聞こえてきたのは、バルクのよく知る者の声。男の低い声で「久しぶりの再開だな。思った通り案の定、私を信じてシルクハット団に最後のラストまで残ってくれていたのはバルク。君なのだな。」いつの間にか話し声は受話器からではなくバー全体で音が出ていた。どこかにスピーカーのようなものがあって自動的に切り替わったようだ。また同時に、カウンターと反対側の壁に人のシルエットが映し出されている。バルクは受話器を戻して振り向き、壁のシルエットに対しひざまずいた
男は続けて言う。「あの事件以来、長期間の長い間、私を待っていてくれて感謝する。ありがとう。」
「はい。おかえりなさいませ。"ボス"」
「うむ。そしてバルク、すまなかった。君の最強最も強い忠誠心のために、君が不気味な怪物の化け物とまで言われるなんて思いもしなかったんだ。」
バルクはボスに、表情1つ変えず言った。
「ボス。謝る必要はありません。私はボスの命令を遂行していただけに過ぎません。今回の命令にそのような無駄な情報は必要ありません。ただ命令に従うのみです。」
「ありがとう。君のそういう所には感嘆の感動すら覚えるよ。さてバルク。早速任務の指令の詳細の説明だが、、、ん?なんだ?この音は」ドカドカドカ ドン! ガッシャーン!!! 急に上の方から音が聞こえた。瞬間バルクの力が発動し、彼の目の前にある未来の光景が視えた。
[福郎が血を流して倒れている]
「何か見えたのだな!?音はアイルズの方からのようだ、、! 福郎を守って護衛しろ!バルク!君の最大の力は―って、もう行ってしまった。」
既に扉は勢いよく開けられた後だった。
「この命令も"視えていた"か。」
〜続く〜  


☆アウルズで何が起きた!?
☆旅人を名乗る謎の二人の目的は!


いかがでしたでしょうか。
あっ僕です。作者の甲戌(きのえまもる)です。
記念すべき第一話を書き終えることが出来ました!
めっちゃくちゃ短いですが、、、

キャラクターのイラストについては僕の画力では厳しいですが提供できるよう頑張ります。
続きが気になる方は第二話をご期待下さい!
そしてよろしければスキもして下さい!
以上、作者の甲戌でした。

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