僕らの金メダル 11話
僕らのピッチャーの速球と緩急をつけたチェンジアップに、相手チームは翻弄されていた。1番ショートのキャプテンは、選球眼を活かして四球を選んで塁に出る。そんな積極的なプレーが、後に続くバッターを奮起させる。塁に出れば、すかさず盗塁。この頃の彼はノーサインで抜群のセンスで試合を掻き回す。キャプテンとして、グイグイと仲間を引っ張って行くというタイプでは無いが、こうしたプレーで仲間からの信頼を得ているキャプテンだった。
この日も、そうしたプレーで相手ピッチャーの動揺を誘い、続く3番サードも塁に出た。足で掻き回し、動揺した相手ピッチャーが三塁へ悪送球…。その間にホームに帰り…逆転だぁ。
2対1…まだまだ安心は出来ない。相手は全国3位のチーム…それに、僕たちは最終回になると崩れ点を取られてしまうクセがある…。油断してはいけない。最終回のスリーアウトを取るまでは。
ピッチャーは、丁寧に気持ちを込めて投げた。
キャッチャーは、強気のサインを出し、決して後ろにそらさず体で受け止めることに徹した。
ファーストは、どんな球を投げられても長い手足をフルに伸ばして捕球することに努めた。
セカンドは、簡単なゴロほど慎重にさばくことを心掛けた。
ショートは、必ずアウトを取ると決めていた。
サードは、どんな打球にも飛んででも喰らいつこうと思っていた。
レフトは、緊張しながらも飛んできた打球に突っ込んで行こうと構えていた。
センターは、何があっても自分の頭上は越えさせないと決めていた。
ライトは、緊張の中ボールを自分の後ろには転がさないように集中していた。
最終回…みんなの気持ちが1つになって、ツーアウトまで取った。あと1つ…あとアウト1つ…。
ピッチャーが投げた。打者が打った…セカンドの前に…転がった。みんなが固唾を呑んで見守った。一瞬ボールが弾いた…あっ…セカンドは落ち着いていた。ボールをファーストに投げる。一塁の審判の腕が挙がった。……アウト〜。……やった。やったぁ〜。『優勝だぁ』
自然とガッツポーズを挙げていた。バッテリーは、マウンドで抱き合っていた。内野手も集まって喜びを分かち合った。それ以上に、応援席は喜びの涙と歓声に沸き立っていた。
僕らは気持ちで勝った。誰よりも『勝ちたい』と強く願い、心を1つにして手にした…小さな奇跡だった。