【北海道宇宙サミット2023・全文掲載】ロケット事業者が語る、宇宙輸送ビジネスの展望と宇宙港への期待(Session2)
2023年10月12日に行われた日本最大級の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2023」の様子をお届けします。
“宇宙を動かせ。”をテーマに三回目の開催となる今回は、日本が再び成長するための戦略や宇宙ビジネスが私たちの生活や仕事をどのように変えていくのか、より具体的な未来像について産学官のフロントランナーたちによる議論が交わされました。
今回は、Session2「ロケット事業者が語る、宇宙輸送ビジネスの展望と宇宙港への期待」で語られた内容を全文掲載します。
JAXAが取り組む、ロケット発射場の不足問題
高田氏:
今日は3つのテーマに沿って議論を深めていきたいと思います。
最初はロケット発射場の不足、国内の宇宙輸送の現状ということで、まず簡単に私のほうから今の状況を示したり、各社の取り組みを紹介させていただいたりした上で、今の事業の状況に加え、質問に対するご意見を順番に説明していただきます。
JAXAの宇宙産業への取り組みをご説明します。
まず、1966年から人工衛星「おおすみ」の打上げに向けてトライしていた頃からの全てをカウントした日本の衛星の打上げ機数を見てみます。
1Uや数キログラムの小さな衛星から数トンクラスの衛星、HTV「こうのとり」のような、16トンぐらいまでの大きな衛星まで全てを1件としてカウントしているので、そういう意味ではバランスに欠けているところもありすけども、右上がりに増えています。
「H-ⅡAロケット」の相乗り、革新実証プログラムといった打上げや実証機会の提供によるところも、衛星の増加につながることが読み取れるかと思います。
ちなみに、ISSからの放出はカウントしておりません。
次に、人工衛星等の打上げ場所を、 国内か国外かに分けて見てみます。
1966年以降、宇宙機の約6割、小型衛星の約5割が日本からの打上げになっています。
逆に言うと、それ以外は海外からの打上げということです。
ロシアのウクライナ侵攻や、米国を想定した企業で打てなくなるなどの事情も考慮すると、日本国内の輸送サービスメニューを多様化していくこと、それから射場も整備していくことの必要性も考えられると思います。
ここからは、私たちのチームが進めているJAXAの「J-SPARC(ジェイ・スパーク)」を説明します。
J-SPARCは「共創しよう、宇宙は、世界を変えられる。」をスローガンに掲げ、2018年5月からスタートしたJAXAの研究開発プログラムです。
J-SPARCは、民間事業者が自ら事業を作ることに対して、その事業の技術的な課題解決につながるような研究開発をJAXAが担う共創プログラムです。
成果としては、①新しい宇宙関連の事業を作りつつ、②JAXAの新しいミッションにつながるような技術を開発していくことを目指しています。
1つのプログラムで2つの成果を狙いにいくので、難しいですけど、そういったことを目指したプログラムになります。
この中で、衛星や軌道上サービス、国際宇宙ステーションでの事業など、いろいろな分野をやっていますが、大事な事業領域の1つが「宇宙輸送サービス」です。
今日ご登壇いただいているインターステラテクノロジズさん、SPACEWALKERさんをはじめとして宇宙輸送分野だけでも、ここに掲載させていただいている企業の方々とも、プロジェクトを一緒に連携させていただいております。
なお、このチャートには、一部、すでに共創活動を終了しているプロジェクトも掲載しています。
それ以外にも共通基盤整備活動という位置付けで、小型の非火工品分離機構(PAF)、燃焼試験設備を整備することで、複数企業の事業化を後押しさせていただく活動も進めています。
その結果、今は新しいJAXA-SMASH(産学官による輸送・超小型衛星ミッション拡充プログラム)や、革新的将来宇宙輸送プログラム共創活動、角田宇宙センター官民共創推進系開発センターなど、少しずつ広がってきています。
続きまして森田先生、よろしくお願いいたします。
低コスト×短納期の固体ロケットが実現できたワケ
森田氏:
4月にJAXAベンチャーとしても認定されているロケットリンクテクノロジーという会社を立ち上げました。
会社の事業のお話を最初にさせていただき、北海道スペースポート(HOSPO)とのつながりについて最後に述べたいと思います。
私たちが開発するのは固体ロケットです。
ただ、従来の固体ロケットとは全然違っていて、低コストはもちろんですが、納期が非常に短い、つまり量産性が非常に高いことが特徴です。
従来だと固体ロケットは、どんなに頑張っても1年間で10機ぐらいしか打てない。
これ以上打とうとするとラインを増やさなきゃいけない。
うちの場合はラインを増やさなくても、20機、30機と簡単に打てる。
どうしてそんな革新コンセプトが実現できるのか、この後2つの観点に絞ってお話したいと思います。
1つ目は技術の観点です。
量産性に優れた個体燃料ロケットをつくれるだけの新しいキラー技術が身についたということです。
新しい固体燃料で、名前をLTP(Low melting temperature Thermoplastic Propellant)と呼んでいます。
固体燃料ロケットは、液体燃料ロケットに比べると開発が容易です。
構造がシンプルなので開発期間が短い。
コストも費用も少ないという利点があります。
また、射場で燃料の充填が不要なので、即応性が高く、すぐ打てる。
一方、燃料の製造にちょっと時間がかかるというデメリットがありました。そのデメリットを、この新しい固体燃料で解決しましょうと。
これまでの固体ロケット燃料は、ドロドロの樹脂に火薬の粒を混ぜて熱を加えて固めていました。
これは熟成反応を使った化学反応で、ザッと3週間、4週間かかってしまう。時間がかかるんです。
しかも、1度固めると2度とやり直しがきかない。
非常に緊張感を持ちながらつくる精密作業です。
作り置きができないので、大きな装置で一度に作る必要がある非常に効率が悪い作業で、大きな宇宙メーカーしか作れません。
LTPと呼ばれる我々の新しい固体燃料は、逆転の発想で全く反対の性能を持っています。
熱を加えると溶けて、冷ますと固まる。
これは単なる放熱なので、1日あれば固まります。製造期間が短い。しかも、何度でも繰り返せます。
気に食わなければ作り直せば良いので、特殊工程ではなく、一般工程になる。
作り置きができるので、小さな装置で連続生産しておくことが可能です。
これまでの固体ロケット燃料を年間10個ぐらいしか作れない高価で特別な焼き物のような伝統工芸品と考えるならば、 我々の固体燃料はチョコレートのような大量生産できる工業製品です。
これで短納期、低コストを図ろうとしたわけです。
固体ロケットの唯一の弱点を強化して、固体ロケットを三拍子揃ったものにしようとしています。
これは今年5月にJAXAの試験場で行った燃焼試験の様子です。
熱を加えると溶けちゃう燃料ってちょっと心配ですけど、実は溶ける前に燃えちゃうんです。
このようにきれいに燃えました。
次のポイントは事業の推進体制です。
ロケットリンクのリンクという言葉にはすごく重い意味があって、要はロケット開発を簡単にして宇宙で活躍する仲間を増やそう、ロケット開発をするネットワークを強めようとしているんです。
これまでお世話になってきたレガシーの皆さん、中小の皆さんとの関係はさらに深める。
さらに新しい仲間をどんどん増やしていく。
例で言うと、ロケットには色々な種類がありますが、横断的に必要な共通技術があります。
そういうものを1から全てのベンチャーが開発していたらもったいない。
こういうところは実績のあるメーカーにお任せするのが一番良い。そういうところがプラットホームになって、どのベンチャーにも共通技術が提供できる。
そういう体制ができれば、日本のロケットベンチャーはどんどん発展すると思います。
そういうことを考えると、HOSPOのような射場のことも考えるわけですが、 ロケットを打上げるときに、横断的に共通で必要な射場の設備やソフトがあります。
そういうものは射場で揃えるのが一番効率が良い。
例えば電波系。電波を受信する装置はみんなが使うから射場で用意してください、 あるいは関係当局との調整とか安全審査みたいな面倒な作業は全部射場、 スペースポートでやりますという体制が整うと、すごく良いと思っています。
我が社で作ろうとしているロケットは、太陽同期軌道(SSO)、高度500キロぐらいに200キロぐらいの質量の衛星を上げる標準的な小型ロケットです。
全段固体で新しい燃料を仕込む形になります。
2027年度の打上げを目指していますが、その過程で小さな実証機をたくさん上げようとしていますので、今後、大樹町の皆さんとの連携をますます深めたいと思ってます。
ちなみに、我々はロケットをバンバン上げていこうと思っています。
インターステラテクノロジズもSPACEWALKERも、JTSPACEもバンバン上げると射場は全然足りないし、ローンチパッドも足りないと思います。
北海道スペースポートで作ろうとしている小型ロケット用の発射台「LC‐1(Launch Complex-1)」も1個じゃ足りない。
LC‐1A、B、C……とたくさん作ってほしいと思っています。
ロケット開発のやり方にはグラデーションがあります。
革新技術を満載にしてF1みたいなマシンを作る。そういう野望を持つ人もいますが、多少時間がかかる。
一方、既製の技術ばかりを使っていても、実は安くならない。
我々はそのバランスを最適化しようとしています。
一番コストに効くところで革新技術を投入して、その他は既存の技術を使う。そういう開発をしています。
高田氏:
続いて、インターステラテクノロジズの稲川さん、お願いします。
大樹町初のロケット打ち上げに成功!次なるミッションは小型衛星
稲川氏:
インターステラテクノロジズは、宇宙サミットに毎回登壇していますが、事業開始して10年経つ企業です。
最初は大樹町のAコープ跡地で、数人で始まりましたが、10年が経ち、今は138人の会社にまで成長してきたところです。
工場も場所もどんどん確保していますし、 人もしっかり充てており、開発のスピードもどんどん上がってるということを本日は知っていただきたいと思います。
我々はこれまで「MOMO」という観測ロケットを打上げてきました。
7号機まで打上げて、しっかりと実績をつくってきました。
これまで鹿児島からしかロケットは打上がっていなかったわけですが、大樹町で、北海道からロケットが打上がるんだという実績をつくれたのがこの「MOMO」というロケットです。
これは我々としても大きなマイルストーンですし、すごく意味のあるものだと思っています。
今、一生懸命やっているのは「ZERO」というロケットです。
今、国として小型の衛星を打上げることに、すごく力を入れていて、日本としてなんとかやらなきゃいけないという文脈も出てきたところです。
我々は草の根的に始まったような企業ですけれども、その想いが国策ともようやくつながってきたのが、この「ZERO」というロケットになるので、まずはこの打上げをしっかりと最速で成功させようと一生懸命取り組んでいます。
今も「MOMO」は製造していますが、一旦こちらは眠っていて、「ZERO」を最速で打上げるためにどうするかを、今、全力でやっています。
こういった中で、2013年から事業を開始して、国内初、国内唯一、世界4社目など色々な実績をつくってきたところです。
サブオービタル機で、誰もが地球と宇宙を行き来できる時代に
眞鍋氏:
SPACE WALKERは2017年に立ち上げた東京理科大学発ベンチャーです。
現在シリーズAのラウンドまで終了して、17億5000万円ぐらい集めて、今まで開発を続けてきています。
共同創業者は私、眞鍋と、東京理科大の教授も兼務しているCTO米本浩一です。
拠点は全国に複数あり、本社は東京の新橋にあります。
ロケットの開発をやってるのは、千葉県にある東京理科大学の野田キャンパスにあります。
ここで米本研究室の学生30人ぐらいと、 弊社のプロパーの職員が共同で研究開発をしています。
それから、長崎と広島に複合材の高圧ガスタンクを作っている拠点があります。
現在はロケットだけでなく、地上向けの圧縮水素用のタンクを作っており、来年には許認可を取って、地上向けのタンクの販売事業が始まるような体制になる予定です。
我々のマイルストーン、最終目標は有人宇宙輸送。
これは国際宇宙ステーション、月や火星などとの行き来であったり、地上の高速二地点間輸送(P2P輸送)を指します。
例えば東京からニューヨークまで宇宙空間を経由して移動しようとすると、だいたい40分ぐらいで移動が可能になるという計算になります。
この中で今回、文部科学省のSBIR制度という1社最大140億円の補助金の採択を受けました。
2027年度に、無人ミッションで小型の衛星打上げを行なうところまでが対象となります。
ただ、我々が2020年代にしっかり実現したいのは、サブオービタルの有人宇宙飛行をするというのが目標です。
人を乗せて宇宙空間に到達し、また元の場所に戻ってくる。
それを翼のある有翼ロケットの形で実現したいということで、ビジョンとしては、誰もが飛行機に乗るように、宇宙と地球を自由に行き来する未来を実現することを掲げて開発を進めています。
高田氏 :
続きましてJTSPACEのクリスさん、よろしくお願いします。
台湾発の企業、サブオービタルロケットを大樹町で打ち上げへ
クリス氏:
JTSPACEで宇宙開発室長として勤めています。クリストファー・ライと申します。
今日は北海道で許認可を取って打上げようとしているサブオービタルロケットについて紹介したいと思いますが、その前にJTSPACEを紹介をしたいと思います。
JTSPACEは台湾のtiSPACEの姉妹会社です。
現時点ではtiSPACEが設計、製造を担当して、JTSPACEが整備して、日本で打上げたいと思っています。
JTSPACEは、すでに日本の現地法人を設立していますが、将来的には帯広などに整備・組み立て工場を作って、全てのオペレーションを日本でやりたいと思っています。
こちらが開発しているサブオービタルロケットの概要です。
2段式ロケットで、長さが約12メートル、直径が0.6メートル、 重量が1.4トンぐらいです。
森田先生やインターステラテクノロジズと違って、液体の酸化剤と固体の燃料を組み合わせたハイブリッドの推進系を開発しています。
燃料には合成ゴムと酸化剤、亜酸化窒素を使っています。
推力は第1段が6500kgfで、第2段が1100kgf、アボジがカルマン線を突破して、120キロぐらいの高さまで到達します。
今回計画している打上げは1回目ですので、テストフライトとして弊社のペイロードを載せていますが、 2回目、3回目以降はお客様の50キロまでのペイロードを搭載し、サブオービタルの空間で実験や観察などプラットフォームとして使っていただければと思っています。
国内外から注目が集まる、北海道スペースポートの魅力とは?
高田氏:
ありがとうございました。
残りの時間で2つの議論を行いたいと思います。
1つ目は北海道の発射場の魅力、2つ目は北海道に対する新しい期待です。
まずは、北海道スペースポートの魅力について森田先生、いかがですか。
森田氏:
色々な観点がありますが、1つに絞ってお話します。
小型ロケットを打っていくという観点で言うと、 ロケットだけではなく、射場とのコンビネーションでロケットの最大能力を引き出すことが重要です。
我々は鹿児島県にある内之浦でイプシロンを打っていますが、 南の方に障害物があるのでよけます。
よけるので燃料をロスしますが、大樹町の場合は南の方向がどんと空いているので、よける必要がない。
つまり、積んだ燃料を最大限有効活用できる。
その地理的優位性は、すごく大きいと思います。
もう1つ、射点、発射台の周りに広大な領域が空いています。
イプシロンの場合は、内之浦という町の横で打っているので、どうしても警戒区域を大きく取れない。
火をつけた後のロケットの飛行の安全計画がものすごく難しいのです。
精密な計算に、2ヶ月も3ヶ月もかかる。
大樹町の場合は、周りがどーんと空いているので、精密な計算も一切不要です。
ロケットを簡単にバンバン打つという観点では、最適と考えています。
高田氏:
イプシロンでのご経験を踏まえたご意見をいただき、ありがとうございます。
続いて稲川さん、お願いします。
稲川氏:
このセッションですごく大事なことは、我々が事業開始から10年、大樹町に本社を置いていることだと思っています。
その中で、我々インターステラテクノロジズだけではなく、内之浦でロケットをこれまでずっとやってこられた森田先生がベンチャーを立ち上げて、それでもやっぱり大樹町を選ぶということ。
SPACE WALKERの眞鍋さんも前からおっしゃっていますが、台湾の会社・JTSPACEも大樹町を使いたいということ。
今、スタートアップを立ち上げて、ロケット、宇宙事業、宇宙輸送をやろうと思ったときに、第1候補に上がるのが、やっぱり大樹町だという、この認識にアップデートするのが、今回この並びで登壇した1番のポイントと思っています。
これから何が大事になってくるかというと、ロケットの打上げに関する仕組み化です。
これまで、ロケットを打上げるための安全の担保、法規制への対応、地元の方々に理解していただくことについては、我々が個別で動いてきました。
私が直接色々なところに行って、挨拶していくことが必要だったのでが、もう1社とか1人で何とかする段階ではない。仕組み化が必要になってくる。
ステージが少し変わってきた。これだけの会社が参入してお金も集まってきた段階で考えるべきことだと思います。
この認識を今日、皆さんと共有したいと思っています。
高田氏:
フロントランナーならではの着眼点も素晴らしかったですし、それが裏付けられつつあるという点も、大変理解できました。
続いて、眞鍋さんお願いします。
眞鍋氏:
この事業は、やっぱり一朝一夕ではできない。
大樹町という場所は、インターステラテクノロジズさんが立ち上がるはるか昔から約40年間、ここのスペースポートを守り続けてきたわけです。
我々の有翼ロケットは思いつきで始めたわけではなく、歴史がちゃんとあります。
約40年前に既に国家プロジェクトで有翼ロケットプロジェクトがありました。ISASがやっていた「HIMES」と、NAS/NALDAがやっていた「HOPE」です。
この土地はHOPEプロジェクトのときに着陸実験の場所として 使おうとしていました。
今この大樹町に滑走路があるのは決して偶然ではなく、その当時から宇宙産業の推進に向けて先行投資をし、それを地元の皆様の力により、現代まで維持してきたという歴史があるわけです。
そのため、当然ロケットを打上げるためのものがほとんど揃っている。
だからこそ、第1候補として上がるのが、この地なのだと思います。
我々には滑走路が必要です。 日本全国、各地に空港があって、そこに滑走路は確かにあるのですが、実際は法律の壁があり、全く入港できません。
一般の空港を利用するためには、型式証明を取った機体しか入港できないというのが大原則になりますが、大樹町にある滑走路は、場外離発着場の扱いで型式証明がないものでも入港できます。
こういう条件が揃っているのは日本の中でも、本当に数が少ないです。
我々としては、そのインフラが整ってるというのが第1条件。しかもそれを地元の人たちが応援している。
これが必ず、絶対条件になります。その2つが揃ってるのは、この地だということが、選んでいる理由になります。
高田氏:
皆さん、ちょっとずつ切り口を変えて説明いただきありがとうございます。クリスさん。お願いします。
クリス氏:
台湾には商業用打上げの射場がありません。
現時点で民間で使える射場は、科学実験で限定された仕様になっています。
それで台湾から飛び出して、外国で使える射場を探そうという考えで日本の大樹町に至りました。
日本を選んだのと同時に大樹町を選びました。
航空宇宙産業の豊かな歴史やサプライチェーン、それに加えて、色々な小型衛星会社もあって、マーケットにすごくポテンシャルを感じています。
皆さんがおっしゃっている通り、大樹町は(スペースが) 空いています。
太平洋のところで弾道の調整がけっこう簡単にできます。
その他にプライベートの企業を歓迎する日本の射場は大樹町にしかない。
インターステラテクノロジズの経験もありますし、 我々との対話もすごく歓迎していて、一緒に頑張っています。
高田氏:
私も昨日射場ツアーに参加させていただきました。
LC-0に加えて、LC-1の準備も進められていますし、LC-0、LC-1自体の機能も、設備も強化されている状況を理解しました。
人や企業がいるからこそ、HOSPOも色々準備されていることを確認できました。
官民が連携して進めたい、北海道のロケット産業の課題
高田氏:
HOSPO、そして北海道の魅力に関してお話してきましたが、ここからは、これからもっとこうしてほしいとか、こういう期待があるとか、そういった話に移っていきたいと思います。
まず、稲川さんからお願いします。
稲川氏:
ロケットを飛ばす側は、会社がいくつも出てきて、我々を含めて色々な企業が人も増えて、開発力が上がってきた。資金面ですごく期待が上がっている。
射場も、企業版ふるさと納税とか、国からの地方創生の交付金で、できつつあります。
かなり進んではいますが、一方でこれだけたくさんの事業者がいる段階だと、 ロケットって、ただ単に場所があれば良いわけではない。
飛行機、滑走路を思い浮かべてもらいたいのですが、 滑走路があるだけではダメで、管制塔など空港の色々な付帯設備が必要になってきます。
ロケットに発想を広げていくと、 飛行安全と安全のための管制みたいなものも1社が持つのか、もっと複数社が持つべきなのか、公共的なものを持つ必要があるのか、この辺もまだ少し足りないところです。
我々も準備しているところですが、複数社が来たらどうするのかという問題が目の前まで迫っています。
射場の設備もまだ足りないところがあるので、どうやって作っていくのか。我々としても準備する用意はありますが、それだけでは公共射場としてのポテンシャルを活かすには全然足りない。
スタートアップの設備投資は限界があります。ミニマムになりがちなので、あるべき姿にするためには、資金や人、設備など、色々なところがまだまだ不足しています。
高田氏:
個社を意識・想定した対応から、複数社に対応していくためには、稲川さんとしてはこうやったらいいんじゃないかみたいなことはありますか。
稲川氏:
色々なやり方があるとは思っているので、正解はこれということはないのですが、やっぱり国からの支援はかなり必要になってくるとは思います。
高田氏:
ありがとうございます。
続いて、クリスさんお願いします。
クリス氏:
大まかに2つに分けて話したいと思います。
日本語は話せるので、日本の法律、規制を読むことはできますが、ニュアンスの把握がちょっと厳しいかなと思っています。
今はSPACE COTANさんから支援を受けていますが、日本の法律はけっこう煩雑です。
厳しいのは良いのです。ロケットは打上げなので、やはり安全で厳しい審査であるのは適切だと思います。
ただ、煩雑なので下調べをするときはけっこう苦労しています。
海外から来た身としてはそれが1つ目です。
2つ目は、現在は調整で色々と審査を受けていますが、工業基準で審査を受けています。
台湾にもロケットに向いた基準ではなく、その工業基準のために調整しなくてはいけないこともあります。
高田氏:
日本語で審査を受けているのですか。
クリス氏:
全部日本語でやっています。
SPACE COTANの助けもあります。
高田氏:
ありがとうございます。
森田先生、お願いします。
森田氏:
私は4月に会社を作ったので、昨日今日、北海道に来たように思ってる人もいると思いますが、そうではない。
助手の時代、今から30年ぐらい前から、大樹町にはたくさんお世話になっていて、小さな実験やロケットの打上げ実験を行なっていたので、 北海道の射場としての潜在能力に最も気づいていた1人と自負しています。
皆さん「北海道を宇宙王国にしたい」とよくおっしゃっていました。
スペースポートが立ち上がり始め、 その先にあるのはやっぱり宇宙王国の建設だと思います。
その首都機能は、やっぱり大樹町が持つのだろうと思います。
北海道は、北大をはじめ、小型衛星を作っているところがたくさんあります。
ロケットは、ほぼ大船に乗ったような調子ですよね。
インターステラテクノロジズさんの液体ロケットがあって、クリスさんのハイブリッドがあって、うちの固体ロケットがあって、そして、眞鍋さんの有翼機があって、ありとあらゆるロケットが北海道スペースポートに揃っている。
これだけの種類のロケットが揃ってるスペースポートはないと思います。
そうしたときに何が必要かというと、いわゆるソフト機能なんです。
たとえば、東南アジアの人が大樹町で、こんな人工衛星を打上げて、こんなデータを取りたいって言ってきたとしたら、「こういう風に北大に作ってもらって、こういう衛星を、こういうロケットで打ったら良い」って。
そういう一気通貫のワンストップサービスもできるようにしたら良いと思います。
そのために必要な設備は全然足りないと思うので、これから先、みんなで一生懸命資金を集めて、そういう方向に北海道スペースポートを拡大させていったら良いと思っています。
高田氏:
よく「スペースポートづくりは、街づくり」であり、エコシステムづくりである、と言われますが、 そういうところもプレイヤーを巻き込みながらやっていくところかなと思います。
その辺りは、森田先生としては、やってみたいことはあるのですか。
森田氏:
私は衛星もやっているので、たとえば衛星を作る設備だけではなく、試験する装置も北海道でどんどん作っていったら良いと思います。
そういう設備は限られているので、せっかく北海道で作っても、別のところに持っていって試験しており、 非常に矛盾した状況になってます。
北海道に来たら、衛星でもロケットでも、何でもできるという状態をつくるために、みんなでできることを考えましょう。
高田氏:
眞鍋さん、お願いします。
眞鍋氏:
会社としての要望、期待としては、滑走路が必要です。
先ほど全て揃っているという話をしましたが、原石があるだけで、まだまだインフラが足りていない。
滑走路は、昨日私も300メートルの延伸工事を見せていただきました。
スタートして良かったと思いますが、実際は1600メートルぐらいほしいという希望もあります。
その先の有人機まで含めると、2000から3000メートル弱ぐらいはほしいという声もあるので、その辺のインフラ整備は期待したいところです。
先ほどクリスさんや森田先生からも出ましたが、アジアのハブになるなら、 日本の手続きは非常に煩雑です。
オーストラリアとかだと窓口1個にお願いすれば済む話が、通信は総務省、保安法が関係するものは経産省や地元の警察に届け出る必要がある。
それを事業者がそれぞれやらなきゃいけないのは非常に煩雑なので、そういうのを一元管理して、ワンストップで提供できる窓口がほしいと常に思っています。
日本で安全審査というと、今までJAXAしかやっていないので、ガッチガチの安全審査になってしまう。
海外で民間事業者が打上げると言ったら、安全審査のやり方も国の事業とは違って、事業としてやっていきます。
その辺りを柔軟にビジネスとしてやるんだという姿勢で取り組んでほしいと期待しています。
高田氏:
安全審査や手続きは、皆さん色々とやり始めてるからこそ突き当たっている課題だと思います。
複数社が出てきたからこそ、色々な仕組みを変えていかなくてはいけないというお話が稲川さんからありましたが、安全審査や手続きに関して、もう少し発言されたい方はいらっしゃいますか。
森田氏:
僕は安全審査をする側に回ることもあって、 そっちの気持ちも分かります。心配のあまり、色々と聞いちゃう、厳しくしちゃう。
要は相互の理解が大事という結論に達しています。
だから一度、安全審査をする側の人、JAXAの有識者とビジネス側の人を集めて、ブレーンストーミングしたら良いんじゃないかと思っています。
国家プロジェクトで絶対失敗しちゃいけないミッションと、民間がビジネスとしてやっていくミッションは、安全の視点すら違うと思います。
そういうものを整合するため、ブレーンストーミングの機会を設けて、ビジネスにはビジネス用の安全審査を、安全をケチるという意味ではなく、ビジネスと安全はバランスが取れていなくてはダメなんです。
一番極端な安全はロケットを上げないことです。
イプシロンの打上げのときに、JAXAの安全審査の人に「そこまで言うんだったら上げないほうがいいじゃないですか」って言ったら、「いや、上げないでください」って言われました。
国家プロジェクトはそれで良いと思うんです。
何百億円も使って失敗されでは困るのだから、失敗するようなものは上げるなと。
ビジネスはそうではない。
安全とビジネスは共存しなくてはいけない。
その視点でどう安全基準を作るのかというのは、取り締まる側だけではなく、ビジネスをやっている我々の意見も反映して作ってもらわないと困る。そういう意味で、高田さんの役割は大きいと思っています。
高田氏:
アメリカや他の国のビジネスの取り組みを見ても、色々と意見を聞きながら進めていますし、必ずしも国のミッションと民間の輸送ミッションで同じやり方かというと、そうではない。
その辺りは勉強しながらやっていかなければいけないと思います。
森田先生から、北海道スペースポートに期待されている点で、通信や共有できる設備がもっとあったら良いのではないかという意見がありました。
稲川さんからも、色々な事業者が共通できる設備があったら良いといったご意見がありました。
現在の北海道スペースポートにある設備や機能、サービスなどに対して、ここをもっと強化したら良いのではないかなどの提案はありますか。
森田氏 :
経験に立ち返ってお話すると、どのロケットにも絶対に必要な共通技術がありますが、その代表選手が電波系です。
ロケットの状態が今どうなってるか、どこを飛んでるかという情報を、ロケットから地上に送ってくるわけですけど、全部衛星でやると決めてしまえば良いのですが、なかなかそこまで踏ん切りがつかない。
射点で電波を受けてロケットの正常性を地上で確認したいという事情が、どのロケットにもあります。
これはかなり共通技術で、アンテナがあって、アンテナをオペレートする人がいれば良い。
これを色々なベンチャーごとに自前で用意するのはバカバカしいので、ぜひスペースポートで用意していただきたい。
これは特殊な要求ではなく、ノルウェーのスペースポートや宇宙センターだと、もうそうなってる。
いわゆる「射場設備」と言って、アンテナとかレーダーといったものは向こうが用意してオペレートしてくれる。
我々はロケットだけ持っていけば良い。
北海道スペースポートも、ロケットを発射台に立てさえすれば打てるようにしていただけると、すごく良い。
それはある種、最低限の世界標準ではないかと思っているので、過剰な要求では決してないと思います。
高田氏:
日本がアジアのハブになる、という点もありましたし、実際にクリスさんが台湾から来られており、輸送サービス事業者が海外から来ることもあると思います。
北海道がアジアのハブになるには、北海道から誕生したロケットや衛星が、アジアをはじめとした色々な国の課題を解決するサービスを提供して、アジア全体を巻き込んでいく仕組みも必要かと思います。
そういった視点で、将来に向けた取り組みや構想などがありましたらお願いします。
クリス氏:
森田先生の話を踏まえてですが、今、安全審査をしていますけど、電波系にけっこう苦労しています。
安全基準で、ロケットの追尾などを要求されていますが、スタートアップとしてレーダーを買って、日本へ輸出すると、お金がけっこうかかります。
もし、射場の基本設備が、追尾もでき、安全も確保できるみたいなことがあれば、ロケットが安全審査を通って、ロケットだけを射場に持っていってスムーズに打上げ作業ができれば良いと考えています。
高田氏:
最後に眞鍋さんと稲川さんからも一言お願いします。
眞鍋氏:
アジアのハブになるというのはグローバルな話で、日本だけで完結する話ではないので、 射場側で用意する共通技術といっても、日本だけを見るんのではなくて、海外の情報も見てほしい。
事業者からしたら、日本だけを使ってほしいというニーズもあるかもしれないでが、逆に言うと先ほど出ていた北欧、オーストラリア、アメリカ、どこに行っても同じ共通技術で日本でも飛ばせますと言ってくれた方が、選択肢が広がるし、柔軟に使える。
より使われやすくなるので、絶対にガラパゴスにならないでほしいです。
我々は設立当初から、内閣府、国交省と一緒に「官民協議会」というサブオービタルのための法整備の仕組みをつくりましたが、なかなか進んでいないので、このあたりも利用しながら、世界に通用する概念でやってほしいです。
高田氏:
スペースポートの世界標準化計画みたいな感じですね。
最後に、稲川さん、お願いします。
稲川氏:
このセッションでは課題ばかり出た気がしますが、 ポジティブな話もすると、2016年にできた日本の宇宙活動法は、民間事業者がロケットを打上げて良いか悪いかという許認可の法律で、基本的には世界標準からしても良い法律だと思っています。
サブオービタルという、他国の上を飛ばない状態であれば、厳しくない条件で打上げできる。
個別の電波法とか、高圧ガス法とかの法律は大変なところはあるのですが、 それ以上のロケット特有の法律は、サブオービタルに関してはないし、オービタルをはじめとした他国の上を飛ぶロケットには、きちんと許認可がいる。
この区切り方はけっこう良い法律なんです。日本のやり方は、法律としてはすごく良い枠組みになっている。
一方で各論になると、少し行政的・縦割りなところや、細かいスタンダードに則っているのかみたいな話がある。
基本的には日本としてポジティブなんだということを知ってもらった上で、我々の努力もありますし、自治体の努力もありますし、行政にお願いすることもある。
全部がうまく回って初めて新しい時代にアップデートされるのかなということで、やることがいっぱいあるという課題感を、この場の皆さんと一緒に共有したいと思います。
高田氏:
北海道で事業をやろうとしている企業がこれだけいらっしゃるのは、大きな魅力があるからこその期待であり、前半はこの魅力について、また、後半は、今後こういう風にしていったら良いんじゃないかという点を、あえて積極的に議論させていただきました。
こういった議論が色々と可視化、発信しながら進み、課題が解決されていけば良いな、と思っています。
※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。編集の都合上、言い回しを調整している場合がございます。