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ココラデヤメテモイイコロナ~トーキョーの横顔⑦

 彼のことは知っていたが、どちらかと言えば快く思っていなかった。
 僕も少しだけ所属したが、結局辞めてしまった団体の理事長を経験していた。
 そんな素振りを見せた訳ではないので、単なる年上男性の醜い嫉妬だろう。
 汚名を晴らすべく奔走してくれた先輩に誘われた懇親会で話すようになった。
 証券会社を早期退職する前だったので、コロナ禍は予想だにしていなかった。
「今度、日本料理の板前をしている友人と出店するので是非、いらしてください」
 その後、歌舞伎町に引っ越したので、個人では行くことはなかった。
 歌舞伎町は例外であり、それ以外の繁華街は人通りが途絶えて閑散としていた。
「極力、外出を控えているのだが、仲間を応援する為に声を掛けている」
 お世話になった先輩の誘いでもあり、久しぶりに歌舞伎町以外の街を訪ねた。
 その日は懐かしい面々が顔を揃えていたので、自慢の料理を堪能できた。
 少し離れた席で先輩と彼が深刻な顔をして話している声が聞こえた。
 盗み聞きしてはいけないと思ったが、僕は豊聡耳なので自然に聞こえてしまう。
「家賃だけでなく、内装にも拘ったので、正直言って月々の返済が厳しいです」
「助けてやりたいのは山々ではあるが、どこもかしこもそんな声ばかりなので」
「コロナさえ終われば何とかなります、料理には自信があるので、そこを何とか」
「楽観的な考えはやめろ、いつ終わるとも分からないから、無理をするな」
 二次会には彼の姿は見えなかったので、話す機会のないままだった。
 彼は先輩の助言には従わないで、無理に無理を重ねたと風の噂で聞いた。
「長年連れ添った糟糠の妻、いつも自慢の種だったお子さんとも別れたらしい」
 緊急事態宣言から蔓延防止等重点措置を経て、コロナも二類から五類に移行した。
 少しずつ街にも人が戻って、懇親会も再開したが、彼の姿はなかった。
「弱り目に祟り目だが、コロナワクチンの後遺症で腎臓病を患ったらしい」
 離婚した彼は一人暮らししていた母親と同居する為、ワクチン接種をしたそうだ。
 僕は冷たい人間なので、いつしか彼のことも忘却の彼方となってしまった。
 コロナ以降、懇親会も縮小化していたが、久しぶりに大規模で開催された。
 以前は立食形式が主流だったが、今回は感染予防対策の為、着席形式だった。
 定刻ギリギリに僕の向かいに着席したのが久しぶりに参加した彼だった。
 上背もあり、恰幅の良かった彼は白髪頭で窶れた感じで杖を着いて現れた。
「色々と噂を聞いていたけれど、思っていた以上に深刻そうじゃないか」
「相変わらず空気読まない人ですね、でもハッキリ言って貰って有難いです」
 思ったことを包み隠さず言うので、失敗も多いが今回は結果オーライだった。
「そう言えば、証券会社辞めて小説家を目指していると聞きましたが」
「残念ながら結果が出ずに設備員の仕事しながら細々と続けています」
「そういう先輩だって、あれから随分と痩せているじゃないですか」
「ほぼ毎日合気道の朝稽古に出席していたから、健康的に痩せました」
「こっちは大変でしたよ、どれくらい話は聞いていますか」
「お店を畳んだこと、離婚したこと、腎臓病になったことまで知っています」
「それならほとんど知っているので、その前提で話しますよ」
「ワクチンの後遺症って聞きましたが、親類にはいなかったの」
「心当たりはありません、品行方正とは言えませんが前兆もありません」
「人工透析は受けているの」
「週二回受けています、本当は三回って言われているのですが」
「半日潰れてしまうから」
「まあ、質問攻めせずに兎に角、話を聞いて下さい」
 悪い癖が出てしまったが、周囲も二人の会話を聞いているようだった。
 高齢の母(70歳前半)と同居するに当たって、念の為ワクチン接種した。
 高熱が続いて、浮腫みが見られたので、通院したら腎臓病と診断された。
 職人からの再出発であり、日銭なので厳しい状態に陥ってしまった。
 責任を感じた母親が生体腎移植を申し出てくれたので検査入院した。
 親族以外だと臓器売買になってしまうということを僕は知らなかった。
 検査の結果、問題ないと判断されたので、親子揃って入院することになった。
 入院初日、深夜に母親が点滴等を自分で外してしまったと医師から聞いた。
「極度の緊張による興奮状態で時々見られる症状なので大丈夫です」
 当然のことながら、親子ではあるが男女なので病室は別々だった。
 母親と話す機会のないまま、一週間過ぎて手術前日の朝を迎えた。
「残念なお知らせです」
「どうしたのですか」
「お母様が実は」
「だからどうしたのですか」
「昨日からどうして病院にいるのかと暴れまして」
「それでどうしたのですか」
「脳外科の検査を受けた結果」
「ハッキリと言ってください」
「深刻なアルツハイマー症を患っています」
「結局、何が言いたいのですか」
「生体腎移植手術は中止になります」
「ちょっと待ってください」
「ですから二人揃って退院になります」
 ここまで一気に話した彼は、
「勘弁して欲しいですよ、思い出したように生体腎移植は終わったか聞くんですよ」
「当事者意識はあるの」
「それが長期記憶はハッキリしているのですが、そこは抜け落ちています」
「その後、お母さんの具合は」
「短期記憶は全然ダメです」
「申し訳ない気持ちと腹立たしい気持ちで複雑ですよ」
「僕もワクチンを二回摂取しましたが、副反応が酷くて止めました」
「それ以外に症状はありませんか」
「アルコールが全然ダメになりました」
「具体的に話してください」
「深夜痛い痛いと叫んで、苦情があったので控えています」
「一度、総合病院で精密検査受けた方が良いですよ」
 コロナ後遺症ばかり気にしていたが、ワクチン後遺症については考慮していなかった。
 実家の引っ越し後、僕の母親(70歳前半)も軽い認知症と診断された。
 
 ⅿRNAタイプのワクチンによる後遺症は重篤な事例や死亡例も相次いでいる。
 厚生労働省の公式統計で判明しているだけでも、2022年4月1日現在、1776人が亡くなっている。
 ワクチン後遺症の症状は多岐にわたり、報告の多い症状は、
・全身倦怠感
・歩行障害
・筋力低下
・ブレインフォグ
・眩暈、立眩み
・脱毛
・皮疹
・呼吸困難、胸部苦痛
・動悸、息切れなど
 
 今までの人生の中で一日二十四時間という制約条件を考えると専門家の意見に従うようにしてきた。
 自分には分からないからだ。
 それでも大丈夫だと思っていたが、国際化の流れで行き詰まりを見せている。
 そのことに気が付いた3冊が、
福田和也『地ひらく~石原莞爾と昭和の夢』
河邊虎四郎文書研究会『承詔必謹~陸軍ハ御聖断ニ従テ行動ス』
小堀桂一郎編『東京裁判日本の弁明「却下未提出弁護側資料」抜粋』
 
 語り継ぎたい7つの史実が、
一、マリア・ルス号事件
二、エルトゥールル号遭難事件
三、第六潜水艇沈没事故
四、人種差別撤廃提案
五、オトポール事件
六、ペリリューの戦い
七、占守島の戦い

 なんでも自己責任にされてしまう嫌な世の中になってしまった。

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