ナカヌキマルナゲツカイステ~カブキモノ⑫
証券会社に四半世紀近く勤務して、日本の証券市場が不健全であることを痛感した。
外資系及びメガバンクの傘下となり、証券だけでなく、金融市場の問題と気付いた。
投資家よりも発行体を重視した為、投資ではなく投機となり、外資系天国になった。
警鐘を鳴らした心算だったが、外堀を埋められて、早期退職せざるを得なくなった。
専業小説家を目指して、二年間だけ挑戦したが、出版社には門前払いを食らい続けた。
半年間飲食業を経験して、執筆活動を継続する為、再就職先に設備管理を選択した。
設備管理は設備、警備、清掃の三部門で構成され、一般的に統括は設備部門となる。
警備は身元が重視されるが、清掃は日本人が敬遠して、外国人抜きには成立しない。
設備は昼夜交代制が一般的なので、不規則だが拘束時間は比較的少なくて助かる。
同僚は概ね二種類あり、家庭の事情でなければ、本人の気質の問題が影響している。
前者は真面目であるが、後者は言葉が悪いが世間一般では怠け者と呼ばれている。
顧客だけでなく統括も問題がなければ、現場任せとなるので、そこまで目が届かない。
巡回や作業の途中で煙草休憩、待機の筈が食事だけでなく、銭湯等に行ってしまう。
前者は病身の家族との連絡を取り、待機を利用して資格試験の勉強に勤しんでいる。
僕の現場でも一年強で7人が既に退職しており、所謂悪貨が良貨を駆逐する構造だ。
後者に属する先輩に事情を聴いてみると、
「新築二年間は不具合も多く、経験を積むには良いが大変な現場であり、その後二十年間は楽で所謂美味しい現場だ」
更に詳細に理由を尋ねてみると、
「最初の二年間こそ、建設不動産等系列が担当するが、それ以降は下請けに丸投げして二十年経ったら後は野となれ山となれだ」
意味が理解できないので説明を求めると、
「馬鹿野郎、系列大手、独立系大手、更に中小があり、条件が雲泥の差なんだ」
尚も食い下がって聴いてみると、
「お前は何も知らないだろうが、底辺職なんてそんなもんなんだ、設計も建築もメンテナンスなんか知ったこっちゃなく、中抜きしてナンボの世界なんだ、だから一生懸命やる仕事じゃないんだ」
仕事のコツや業界の裏側を教えて貰う一方で、社会保障や福利厚生等の悩みを聴いた。
シフトに余裕がなく、体調不良でも無理して勤務するので、衛生環境は頗る悪い。
高齢者や家族が罹患する例も散見されたので、統括だけでなく会社に改善を求めた。
通勤時間が二時間以上もいるので、三時間前まで交代要員を用意するが主軸だった。
「柔軟な対応を取れば、悪用する場合が多いので、提案には応じられません」
要求を全て却下されただけでなく、現場の内情を通報したことで人間関係も悪化した。
「お前は馬鹿だ、面従腹背でいいんだ、文句を言えば敬遠されるから、誰かがやってくれる、それでいいんだ」
残念ながら真面目な人からも、
「こういう業界だから波風を立てずに黙々とやるか、資格を取って系列大手に転職するしかないんだ」
少し経過してから質問を受けた。
「この前、出勤中に駅のエスカレーターから転落して救急車で運ばれたんだが、その日は残業早出で対応してくれたが、医療費も残業代で支給されてるんだ」
「残業代だと課税されるだけでなく、後遺症が残った時に困ります」
「けどな、泣く子と地頭には勝てないから、泣き寝入りするしかないんだ」
「何かあった時には困るので、訂正して貰うべきです」
「馬鹿野郎、理屈ではそうかもしれないが、現実は厳しいんだ」
悪化した人間関係も徐々に修復した。
あまり親しくはなかったが、所謂怠け者に属するもう一人とも話すようになった。
その人は制服をあまり洗濯しないので、不衛生で統括からも度々注意を受けていた。
僕は日勤だったが、彼は夜勤前に現場にあるパソコンを利用しているようだった。
「夕礼を始めるので集合して下さい」
統括が言った途端、立ち上がりかけに倒れて、キャビネットに頭を強打してしまった。
「大丈夫ですか、救急車を呼びましょうか」
「俺は石頭だから大丈夫、少し薬が効き過ぎただけだから」
「あんな倒れ方した人と一緒なんて無理だ、救急車を呼びましょう」
夜勤の相方も同調したが、
「本人が大丈夫と言っているので、このまま勤務して頂きます」
その日は結局、相方が巡回もシャッター閉鎖も対応するしかなかったそうだ。
一緒に夜勤した時に相談を受けた。
「俺は糖尿病と内臓疾患の薬を服用しているが、夜勤は二日分だから少し心配なんだ」
「安全管理義務もあるので、シフト調整して貰える筈です」
次回の夜勤では顔を曇らせて、
「お前に言われた通り言ったけれど、シフト調整はできないから、休職しろと言われたんだ、厄介払いかもしれないな」
「夜勤手当もあるので、どちらかと言えば希望者は多い筈です」
「体のいい厄介払いだ」
結局、彼は一カ月間休職したが、復職を巡って統括だけでなく本社を巻き込んだ。
年末に僕が夜勤の日を見計らったように、
「俺、退職することになってしまった、迷惑を掛けて悪かったな」
退職届を統括に手渡すように依頼された。
三か月間は何もなく過ぎたが、
「すみません、俺の次回出勤日を教えて下さい」
「もう既に退職しています」
十分も立たないのに、
「シフト表を貰いに行きます」
「もう退職しているのでありません」
その後、毎日のように電話があるので、
「会社として対応すべきです、知らぬ存ぜぬは通じません」
統括に提案したが、
「電話があった場合、警察に報告すると警告して下さい」
その後も悪化するばかりだったので、
「本社に対応を依頼して、家族若しくは行政に委ねるべきです」
統括が本人を呼び出して警告したが、一向に状況は改善しないので、現場は疲弊した。
「携帯電話から連絡先を消去させたので問題ありません。
僕は彼が認知症だと確信していたので、問題解決よりも最悪の事態を想定していた。
予想は的中して、始発で現場に来て説明しても時間潰ししてまたすぐに現れる。
「鍵を掛けて出ないようにして下さい」
施錠しているので、扉の前に居座り、挙句の果てに警報装置を発砲させてしまう。
「一切無視して、警察に通報して下さい」
この指示に対して、
「あまりにも冷淡な対応で不安になった、同僚だったのに忍びない」
僕は過去の失敗が二の足を踏んだが、再度会社に現状を報告して、対応を委ねた。
会社も統括の処理を是認したが、納得できず内部通報制度を利用することにした。
会社にも過去に例がなかったようで、後手後手に回って、現場は負の連鎖となった。
家族に連絡して、行政サービスを案内するように統括に提案して事態は動き出した。
震災に見舞われた出身地の兄弟が対応することになり、結局措置入院したようだ。
同僚もその後の経過を知りたがったが、統括も本社も臭い物に蓋をする姿勢を貫いた。
内部通報制度を利用して、初期対応の不備だけでなく労災隠し等の可能性も指摘した。
年末に退職届を受理しているので、従業員ではないので問題なしと回答があった。
労災隠しだけではなく、安全管理義務違反や退職勧奨の疑いもあると指摘した。
使い捨ては許せない。
2023/10/14
S氏が職場のパソコン作業から立ち上がった時に昏倒してキャビネットに頭を強打したにも関わらず夜勤に従事させています。
その後、既往症の為に日勤中心のシフトに変更を依頼していますが、休職扱いとして復帰の際には様々な心労が重なり、認知症の兆候が見られました。
連日の電話に対して、電話番号を消去した為、約1カ月間も職場に現れていました。
同僚(W氏)と話をしても設備会社はブラックだからと泣き寝入りしていますが、上場企業として問題を抱えています。
最終的には家族と連絡して、措置入院となったようですが、安全管理義務違反且つあまりにも非人道的だと思います。
組織図を見ても中心で法務コンプライアンス及び広報IR部門が不備であり、内部通報制度を利用しても埒が明かないので、今回の運びとなりました。
報復ではなく、業界自体の慣習を見直す機会と考えています。
上記の証拠・根拠は私的な手帳のみですが、設備員の引継ぎノートに残されています。
追記、8/20現在
会社より連絡があり、現場の理解不足であったことを認めて、善処することを確約されました。
第二のビッグモーターと思って空売りを検討していた方は手仕舞いを推奨します。
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