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赤鏃(セキゾク或いはあかやじり)

序章

2020年11月

 世界最高の権力者を決定するA国大統領選挙は史上に残る泥仕合の様相を呈している。

 事前予想は大統領選挙に合わせて、上院下院共にD党が圧勝するブルー・ウェーブが叫ばれたが、実際にはR党が善戦しており、途中経過ではR党所属である現職大統領の圧勝と思われたが、幾つかのスイングステートにおいて深夜の集計作業で不可解な大逆転が起きて、D党所属の前副大統領が過半数を占めて早々に高らかに勝利宣言を行った。

 現職大統領は選挙結果を受け入れず、Cupid19ウイルスの影響で外出制限による大量の郵便投票がD党有力支持団体である郵政労組が大規模な不正を企み、S社が開発した集票機DはC党国家であるVZ国、Q国及びC国の影響下にあると主張し、複数の大物弁護士による大規模訴訟を開始した。

 選挙結果については帰趨を見守るしかないが、個人的な見解となるが、地味な存在であり続け、40年のキャリアを居眠り屋と揶揄される前副大統領が、ノーベル平和賞を受賞した(期待感だけでの受賞ではあったが)カリスマ前大統領の得票数を上回った事実及びスイングステートの投票率が異常値を示す二点の事実から何らかの不正はあったと類推される。

 また、現職大統領が選挙前から不正を予言していたこと及び人権団体の仮面を被った過激派が騒擾行為(大手メディアは略奪の横行等の暗部を隠蔽したが)を実施しており、連邦軍の派兵に慎重であった国防長官や選挙の正当性を主張した幹部の馘首も相次いだ。

 大手メディア及びプラットフォーマーは治安を維持するとの立場から前副大統領の子息が絡む醜聞には沈黙を保つ反面、現職大統領の支持者による発言は検閲が為され、アカウントを凍結する強行措置も発動された。

 駐留軍の費用や貿易で敵対関係にあったE州でC国と近いとされるD国は逸早く前副大統領との外交を開始し、F国、IT国、S国等も乗り遅れることを危惧して、雪崩打つように祝福の親書を送り選挙結果を受け入れ始めると首相がCupid19に罹患したG国は現職大統領と共に反C国の急先鋒となっていたので、閣内で足並みが揃わないものの受け入れ準備をしている模様である。

 現職大統領が対C国への圧力を再強化させた為、C国も中立を捨てたが、冷戦時代の相手国である旧S国を引き継ぐR国、A国と地政学的にも近く、Cupid19で手痛い目に遭ったB国及びM国等は中立を守り続けている。

 選挙の結果は裁判若しくは上下両院による裁定を仰ぐ可能性を孕み、予断を許さない状況であるが、一つだけ紛れもない事実は、超大国であるA国と同盟国の絆に楔をうち、分断を図るという目的だけは間違いなく、果たされたのだった。

 A地域における自由貿易圏RについてはC国への貿易赤字が拡大することを懸念し、国内産業の保護を訴えたIN国が参加を見送った。

 Cupid19の国別感染者数上位はA国1100万人超、IN国900万人弱、B国600万人弱、F国200万人超、R国200万人弱であり、死者数上位はA国25万人超、B国16万人超、IN国13万人超、M国9万人超、G国5万人超となっている。

  証券会社の同期であり、中部地区の最大都市であるN市に集中配属され、同じ釜の飯を食った仲間である彼から連絡を受けて、これらの概略について説明を受けた。

 同期と言っても彼は私大の王者を卒業して就職してエリート路線である本社でなく、敢えて営業を希望してファイナンス理論の実践を試みたものの、旧態依然の現場は彼の理想と著しく乖離しており、顧客との利益相反関係にあるビジネスモデルにも不信を抱き、二年弱で見切りを付けて、退職すると大学院に進学し直して、社会学を専攻していた。

 「博士論文で「感染症発生時における情報公開」を題材に現在進行中のCupid19と大手メディア及びプラットフォーマーの影響を2003年のSARS及び2010年のアラブの春と比較検討したい」とアカデミックな内容であることを強調した。

 優柔不断な私も彼に遅れること十年後、退社して過去の些少な貯蓄を食い潰しながら、決して上品とは言えないフリーライターとして糊口を凌いでいた。

 突然の彼からの連絡に戸惑っていたが、研究室に所属していても所詮は非正規雇用の助手では貧乏暇なしであり、体の良い下働きと割り切って承諾した。

 「博士論文として採用された後であれば、引用である旨記載さえすれば、煮るなり焼くなりお任せします」と日頃の鬱憤を晴らすようにマウンティングをして

 「フィールドワークまでに過去半年の世界の重大ニュースと感染症及び大手メディア及びプラットフォーマーについて最低限のリテラシーが必要です」と俄仕込みである助手の助手に対して、命令口調で指示をした。

 2020年10月

 大統領選挙の直前、前副大統領の子息は叔父が保有する有限責任事業組合を通じて、財務諸表の裏付けがない疑惑の財務諸表の裏付けがなく、新興宗教の子息やネズミ講の容疑者等により設立されたヘッジファンドP社の株式を取得した事実が発覚した。

 U国の天然ガス会社から月額5万ドルの報酬を受けていた疑惑や前副大統領がC国を訪問した際に同行訪問し、C国の銀行から10億ドル一説によると15億ドルが振り込まれた疑惑、薬物使用で海軍予備役を不名誉な除隊処分を受けていた事実や亡くなった兄の未亡人との不適切な関係や未成年であるC国人女性との不快な行為の疑惑を含むノートパソコンの存在が明らかになったが、D党は現職大統領の再選を望むR国の陰謀と声高に訴え、大手メディア及びプラットフォーマーは不可解な沈黙を守り続けた。

 大統領選挙のテレビ討論会は政策でなく、罵倒し合うだけの史上最悪の結果となり、現職大統領の発言が遮られる等、民主主義の弱点を露呈する有様となった。

 現職大統領の周辺がCupid19の感染者を出すと本人も感染が確認され、一時隔離されることとなった。

 C国の重要会議では2035年までという異例の長期に亘る目標が決定され、終身指導者を視野に入れた国家主席の基盤を拡大させる経済長期構想が採択された。

 C国が提唱する一帯一路及び真珠の首環によって周辺国が債務の罠に陥り、港湾施設等を割譲される現状に危機感を抱き、J国が提唱する自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、A国、AZ国、NZ国、IN国の外相は会合を定例化することを決定した。

2020年9月

 南太平洋では莫大な資金を背景にC国が圧力を掛け、国家として断じて認めないT国との国交を断絶させ、分断による独立を画策する動きが盛んになっている。

 Cupid19を巡るワクチン・ナショナリズムが世界に拡大する中でC国の影響力が高まり、物議を醸している国際機関Wの迷走が続き、C国は途上国に対するワクチン外交を急速に展開している。

 R国大統領にとって最大の政敵が毒物使用の可能性のある体調不良でD国の病院で治療を受けることになった。

 同時多発テロから19年の追悼式典もCupid19の影響から犠牲者の読み上げは事前に録音された音声となり、国内の分断が深まったと回答したA国人は7割を超える結果となった。

 2020年8月

 世界最大の大富豪はA社の創業者であるBと公表されているが、C国の実力者1000人はS銀行に総額1兆ドル以上の隠し口座を持ち、元国家主席はBを遥かに凌駕する資産を海外に有することが暴露された。

 皮肉なことに不正蓄財の源泉となった巨大Sダムが異常気象による豪雨が直撃し、Cupid19の発生源とされるC国U市周辺も水没する事態となり、決壊の危機に瀕していると連日報道された。

 紛争、内線等による弱い立場である難民は劣悪な公衆衛生の下、Cupid19禍は深刻である。

 2020年7月

 T門事件30年の苦い経験からC国は、Hの反政府的な動きを取り締まるH国家安全維持法の制定を強行して、A国、G国等5か国で構成されるファイブ・アイズとの攻防が激しくなっている。

 C国の民主化運動であるT門事件の象徴的な存在であったN平和賞受賞者R氏が亡くなって3年を経て、肉声テープが発見された。

 C国依存が強まっていたE州では安全保障や技術の流出を懸念が高まり、Cupid19を利用したマスク外交、H国家安全維持法の制定から強く反発して、C国離れの動きが加速する一方で、A大陸首脳及び国際機関Wの事務局長は危機に瀕して、更なるC国依存を加速させている。

 R国大統領の続投を可能にする憲法改正の全国投票が実施され、得票率78%で承認され、同時に対J国戦勝記念日の軍事パレード実施が決定した。

 C国移民による人工都市の典型であるS国は言論及び集会の自由を制限し、金融立国を推進しているので、労働者は出稼ぎ外国人に依存しており、Cupid19の影響が大きく圧し掛かっている。

 2020年6月

 A国とC国の対立が激化する中で、A国上下両院で超党派の賛成でU人権法が成立、100万人以上のU人等の少数民族が思想教育の強制や虐待が常態化する劣悪な収容施設に入れられている。

 C国の立場は人権、民族、宗教ではなく、反テロ、反国家分裂の問題と反論しており、前述の前副大統領の子息は監視に必要な基幹部分である顔認証システム開発会社への投資も判明している。

 C国とIN国の国境地帯で45年ぶりに死者が出る紛争が発生、隣り合う核保有国は人口で世界第1位と2位の両大国であり、当事者だけでなくI教国であるP国も絡み合う4000メートル以上の険しい山岳地帯は国境さえも画定していない。

 Cupid19の影響でC国にとって最大の試練が失業問題であり、拡大する国家主席の影響下で影の薄くなった首相が露店経済を一時的に推進させると発表したが、国家主席が即座に禁止した。

 大統領選挙を巡りCupid19の影響下で郵便投票を推進するD党対して、現職大統領は郵便投票反対の立場であり、不正の温床であり、用紙の盗難及び偽造が多発すると牽制した。

 2020年5月

 Cupid19の発生源とされるC国U市在住の作家によるU日記の出版を巡って、指導部による徹底した言論統制が蔓延し始め、政府を称賛することを美徳とする攻撃的愛国主義がSNSで拡大している。

 C国は海洋進出を活発化させ、O県のSK諸島ではC国海警局の船舶が漁船を追尾し、3日間に亘って領海侵入を繰り返した。

 A国議会上院は株式市場に上場している外国企業への規制を厳格化させ、上場廃止も可能にするC国企業締め出しを狙った法案を可決した。

 2015年10月にHでC国C党に批判的な書籍を発行する書店の幹部が相次いで拘束される事件があったが、新天地であるT国に拠点を移し、営業を開始した。

 国際機関W総会にT国がオブザーバーの資格で参加を認められるかどうかに注目が集まるが、C国の猛烈な反対と事前工作により実現しなかった。

  始まりも突然であったが、終わりは更に衝撃的であった。

 「既に着手していたなら申し訳ないが「Cupid19は現在進行形であり、歴史的な評価が定まっておらず、学問及び報道は常に反権力であるべきなので、A国大統領選挙に纏わる都市伝説やフェイクニュースを扱うなんて論外だ」と担当教官に大目玉を食ったので、今回のことは忘れてくれ」と同期から一方的な最後通牒を突き付けられた。

 乗り掛かった船だと自分一人でも継続しようと依怙地になったこと、A国大統領選挙よりもCupid19とC国の動向に関心を持ったことが、振り返ると私自身に降り掛かる禍の序章であった。

一章

 C国U市で最初の感染者が出た感染症はCウイルス、Uウイルスと流言飛語による人種差別が発生しない措置として最大の特徴である刺すような胸部への痛みから連想されたであろうが、実態に似つかわしくないCupid19と命名された。

 心臓疾患が疑われたが、新型コロナウイルスによる肺炎を伴う典型的な呼吸器不全であり、2003年に猛威を振るったSARSに似た症状であったが故に、C国の隠蔽によって多大な被害を受けたT国及びHは矢継ぎ早に対策を講じる反面、J国ではC国の国家主席との首脳会談及びオリンピック開催に配慮した為、対策が後手に回ってしまった。

 C国当局は水産卸市場を発生源と発表したが、疑わしいとされるコウモリの取引実態もない等の不可解な点が数多くU市疾病予防管理センターとC国科学院Uウイルス研究所の2つのウイルス関係施設の存在が世界中から疑問視された。

 国際機関Wによると2019年12月31日、C国はU市で原因不明の肺炎症状を伴うクラスターの発生が確認されたと報告、2020年1月10日、Wは全ての国々に「人から人への感染はない、また限定的」と発表した。

 1月14日には「限定的ながら人から人への感染が起きる可能性がある」と指摘、1月22日、専門家らは「感染が及ぶ範囲を完全に理解するには更なる調査が必要」と発表、3月11日、Cupid19のパンデミック宣言をした。

 4月14日、A国現職大統領は「Cupid19の感染拡大への極めて不適切な対応及び隠蔽におけるWの役割を検証する間、資金拠出を停止する」と指示した。

 背中に翼のある恋の矢を放つ気紛れで可愛い幼児の名を冠しているが、皮肉なことに愛情ではなく、罹患者への憎悪、休業要請に応じない飲食店への憎悪、景気悪化及び対策遅延が目立つ政府への憎悪、遺族及び回復者、G国首相及びA国現職大統領は憎悪の矛先をC国に求めた。

 憎悪の連鎖から目に見えない恐怖へと変貌して、終わりの見えない絶望に昇華され、世界中の人々に影を落としている。

 Uウイルス研究所の設立は1956年に遡るが、SARSが流行した翌年の2004年にC国とF国による「CF予防・伝染病の制御に関する枠組みでバイオセーフティレベル(BSL)を向上させる設備や必要な専門技術を提供することとなり、2015年にA地域で初となるBSL4の実験室を付属施設として保有することになった。

 その後、F国との関係は急速に冷え込み、P研究所からの研究者の派遣がないまま、共同研究の相手はA国に変わった。

 それに先立つ2014年には重大事故が多発した為、A国の前大統領は国内でのウイルスに関する研究を禁止する方針を発表していた。

 2014年からコウモリ由来の人獣共通感染症に関する研究に莫大な資金提供が行われていたが、Cupid19による騒動を受けて突然打ち切られた。

 2003年C国南部中心のアウトブレークでも当初は、クラジミアやハクビシン等が疑われたが2005年にC国のコウモリからウイルスが発見されて特定されている。

 コウモリは哺乳類の20%を占め、900種以上もあり、遺伝的特質の原型を維持しているだけでなく、長距離飛翔、反響定位(エコーロケーション)による唾液の飛散、冬眠と長寿、ウイルスと同様に不衛生な環境を好むので、病原菌の宿主として最適である。

 このようなコウモリではあるが、C国では縁起の良い動物として人気があり、漢字で書くと蝙蝠は偏福と発音も似ており、風水でも功名、福寿、結婚、金運、健康運を上昇させるだけでなく、繁殖力の高さから子孫繁栄の象徴とされている。

 Cupid19発生当初は、C国内のSNS上でコウモリを一頭丸ごと食べるパフォーマンスが後を絶たず、C国当局は厳罰によって海外でのイメージダウンとなる元凶を漸く鎮圧した。

 U市は完全に封鎖され、情報も徹底的に隠蔽されたので、火葬場の行列及び昼夜不休の稼働状況、夥しい骨壷の山と極端な不足が指摘された棺桶と公表された死亡者数の大幅な乖離が指摘されており、世界中でC国に対する不信感が強まった。

 A地域の感染者は比較的軽症とされていたが、E州で猛威を奮い始めると突然変異で強毒化され、重傷患者及び死者数が飛躍的に増加して世界中が混乱に陥った。

 最終的には世界中に拡散したが、当初はC国と経済的な結び付きが強い国から感染者が確認された事実及び情報を隠蔽した疑惑に加えて、マスク等の医療品を独占した行為でC国に対する不信感が不満に変わった。

  当初は別々に考えていたCupid19とC国が不即不離の関係にあることが明らかになったので、次に最先端技術を巡るA国とC国の攻防を取っ掛かりにネットサーフィンしてみた。

  2018年、C国の通信機器大手F社のCFOが逮捕当日に海外のC国人研究者や技術者に破格の待遇を与える千人計画との関係が指摘されていたS大学の教授が自殺した。

 C国のハイテク国家戦略であるC国製造2025の中心である千人計画及びJ国の学術会議研究者について、C国のネットから突如姿を消した。

 非公式ではあるが世界一の富豪と想定される元国家主席の長男がC国製造2025の青写真を描いており、F社も欠かすことの出来ない重要な一翼を担っていることが明らかになっている。

 バイオテクノロジー分野でも派遣を目指しており、外国人DNA採集が国家的なプロジェクトとして実施されていた。

 D国出身の解剖学者が開発した体液を樹脂に置き換える技術を利用した死体の実物標本を用いた人体の不思議展は、C国内における人権侵害の元凶であることが指摘されるに及んで解散を余儀なくされたが、その間に9億ドル以上の利益を上げた。

 死体は前述のU人等の少数民族である思想犯収容所や1999年に元国家主席が邪教として弾圧した団体H実践者で虐殺された死刑囚と人権団体から報告されている。

  頭の片隅に追い遣られていたA国大統領選挙について久々にネットサーフィンすると前副大統領に不利な記事及び現職大統領に有利な記事が悉く削除され、隠語表現しか検索出来なくなっていた。

  最先端技術はA国を筆頭に自由国家では利便及び金の飽くなき追求であるが、A大陸で起こったJ革命に代表される2010年代に一大旋風を起こしたAの春では情報及び連携を飛躍させ、独裁国家を打倒する象徴となった。

 先端技術の破壊力を目の当たりにしたC国は自由主義国家とは異なり、国家主導による監視及び力の追求という独自の進化を遂げていった。

 アラブの春による民主化の機運に対して、独裁国家の統治者はGAFAと呼ばれるA国のプラットフォーマーを脅威と感じるようになり、A国及びE州を中心とする自由主義国家による人権外交に対して急速に背を向けるようになり、C国伝統の朝貢貿易へ一斉に舵を切り始めた。

 T門事件による痛手を被っていたC国に至っては尚更のことであり、GAFAに対抗してBATSと呼ばれるプラットフォーマーを国威発揚の象徴とする成長戦略を描いた。

 敗戦国であり、敵国条項の存在さえも学校では教えないJ国では、国際機関Uに対する信頼が異常なまでに高いが、A国やE州中心とする自由主義国家は基本的に自国優先で無関心である。

 五大国が保有する拒否権によって、重要事案の協議さえ出来ない事態が慢性化している現状、何よりもR国は旧S国、C国も現在のT国から引き継いでおり、極端に格差のある拠出金と合わせて議論の余地がある。

 大国、小国を問わず一票であることに着目したC国は、自由主義国家の無関心に付け込んで、J国から戦時賠償に代わるODAをA大陸のインフラ投資に流用して、影響力を拡大していった。

 Cupid19における国際機関Wの極端なC国への忖度も長期間に亘る経済協力によって、事務局長の椅子さえも与えてくれたC国に対する感謝の表れであろう。

 国際機関W総会にT国がオブザーバーとして参加することを拒絶し、誹謗中傷の一斉攻撃を企てたのもC国の差金であろう。

 東西冷戦はA国と旧S国の二大国が主役であり、泥沼のVT戦争で疲弊したA国が旧S国との楔を打つ意味でC国と急接近して、国際舞台に引き上げた。

 C国における革命の英雄が亡き後の最高実力者はJ国との合弁でU市にU鋼鉄を建設して、H及びS市を経済特区に指定して近代化を推進した。

 「黒い猫でも黄色の猫でも鼠を捕る猫が良い猫だ」の言葉通り現実主義者であり、SK諸島に領有権を巡る問題は棚上げ論の布石を打ち、泥沼のVT戦争中にP諸島(C国名:W諸島)を占領し、T国、VT国、F国等の周辺国が領有権を主張するSP諸島(C国名:S諸島では、反A国の機運をF国で煽り立て、A国軍が撤収すると占領した。

 Cupid19による世界中の混乱に乗じて、これらの海域にT市W区及びS区を設置すると一方的に宣言した。

 O県SK諸島ではC国当局の船が侵入することが常態化し、C国の警備艇がJ国の漁船を追い回す事件にまで発展している。

 2010年、C国漁船がJ国の巡視船に体当たりしたSK沖事件で圧力に屈して処分保留で帰国させ、2012年の理念なき国有化が事態を悪化させた。

 第一列島線及び第二列島線は短期的には対A国防計画であり、長期的には覇権国家を目指すC国による軍事戦略である。

 SK国に実効支配されるS県TK島、R国に占領・実効支配されるN方F島の教訓を活かし、禍根を残さない断固たる覚悟が求められている。

  ネットサーフィンを続けているとC国語のスパムメールが頻繁に届くようになったが、気に留めることもなく、開封せずに削除するようにしていた。

  「黒社会も真っ黒ではない愛国者も多い」とT国のB幇、HのT会、F省のS頭等を巧みに操り、自由主義国に対する騒擾の誘発さえ噂されている。

 2014年のH反政府デモ及び2019年の逃亡犯条例改正案を巡っては、親C派に雇われたT会の暴力がC国当局介入の口実を与え、民主派から批判された。

 O県H基地反対運動でも一線に地元民、二線に旧R軍出身者であるF塚闘争に敗れた過激派、三線にB幇との関係が報道された指定暴力団Kの影が見え隠れしている。

 T門事件後、F省が拠点のS頭、C国残留孤児の子孫による所謂半グレ集団であるD権の跋扈により、S区K町等の繁華街は急速に治安が悪化した。

 唇亡歯寒の関係にあるNK国による拉致及び核開発問題もC国の意向を無視して、単独で実行する可能性は極めて低いと判断せざるを得ないだろう。

  自宅に送り主が不明のC国語で記載された謎の種子が届いたので、警察に通報したが同様の例が報告されていると一蹴され、一通りの対応で帰宅せざるを得なかった。

  Aの春による脅威を受けて、不都合な情報を検閲して削除するのが、61398の番号で呼ばれるハッカー集団によるサイバー部隊であり、世論を都合良く誘導するのが小紅粉と呼ばれる攻撃的愛国主義者及び五毛党と呼ばれている守銭奴であり、両輪として機能するので、国家主席を揶揄するとされるくまのPさんはC国のインターネットでは閲覧さえ出来ない。

 JC戦争では勢力を温存する為、長征と呼ばれる周辺地域の少数民族を解放するという大義名分とは裏腹に略奪及び蹂躙し続け、DTA戦争終了後のNC内線で旧S国の支援を受けて、N党をT国に追い詰める過程でA国は沈黙を維持した。

 原子爆弾の情報漏洩及びK戦争を受けて、A国ではC党の脅威が叫ばれ、マッカ―シズムによる嵐が吹き荒れ、J国でもレッドパージ、キャノン機関の関与が噂される国鉄三大事件と呼ばれる下山事件、三鷹事件、松川事件が発生した。

 現在進行中であるA国大統領選挙の大混乱は驚くほど類似点が見られ、嵐の前の静けさといった不気味な状況である。

  これまでの成果報告及び若干の苦情を伝えようと彼の研究室を訪ねると担当教官が

 「二週間前から行方不明になっている、博士論文に取り組んでおり、兆候もなかったので、彼の将来も考慮して警察には通報していない」と困惑の表情で話した。

  J国は最先端の科学技術を持ち、世界中の情報で溢れているが、スパイを取り締まる法律がなく、露呈した場合でも重刑を課せられないので、スパイ天国と呼ばれている。

 冷戦時代は旧S国が主役であったが、今やC国であり、プロの情報機関だけでなく、科学者、ビジネスマン、留学生、旅行者、華僑や華人等あらゆる階層を活用した人海戦術によって、長期間に亘って巧妙で多様な手段で情報収集活動を行っている。

 2007年、D庁(現、D省)技術研究本部の元技官が在職中に潜水艦に関する書類を持ち出した窃盗容疑で書類送検された。

 元技官はC国大使館付武官と深い関係を持つ貿易会社元社長の要求に応じてスパイに成り下がり、C国の軍事力増強に繋がるJ国の技術を盗んでいた。

 産業界でもJ国最大手自動車部品メーカーであるDに勤務するC国人技師が産業ロボット等の最高機密の横領が発覚し、大手輸送機メーカーであるYの幹部が無人ヘリコプターをC国に違法輸出を画策し、外為法違反で逮捕されている。

 2015年、C国大使館の1等書記官がW条約で禁止された商業活動を行っていた事実をY新聞がスクープしたが、出頭要請を無視して緊急帰国してしまった。

  整列乗車の先頭にいた時、後ろから押されて、危うく線路内に転落を免れると

 「今回は単なる警告だが、次回こそ容赦しない」とC国人特有の片言で脅迫された。

  命あっての物種なので、一度は真剣に撤退することも検討したが、敵前逃亡はC国を利すると共に国益を揺るがす事態である為、インターネットサーフィンだけでなく、C国と関係する人物からの情報収集を開始する覚悟を決めた。

 

二章


 C国と関係する人物として真っ先に思い当たったのが、大学時代は国際経済ゼミで一緒だった友人であった。

 担当教官も古都の旧帝大出身者で独立行政法人Jにも出向しており、以前は人気ゼミであったらしいが、退官を翌年に控えており、楽勝ゼミだから、私は短絡的に専攻した。

 そんな中で真面目に英語及び会計の専門学校を掛け持ちで通学して、念願の総合商社に入社して、C国駐在も経験していた。

 国際経済ゼミにはC国人の留学生が3人おり、商都S出身者だけT門事件による海外逃避であり、名門S大学を卒業していたので、本来であれば大学院に所属していても遜色ない見識を持っていたが、旧M国のC市出身者及び古都X市出身者は一人っ子政策が生んだ典型的な申し子であった。

 S市出身者だけは、同朋の悪口を一切言わなかったが、C市及びX市の出身者は

 「S市出身者は、金の亡者で信頼出来ないので、付き合わない方が良い」と態々進言してくれただけでなく

 「C市出身者は、元々蛮族なので、頭部に大きな傷があり、凶暴だから気を付けて下さい」とX市出身者が態々注進してくれ

 「X市出身者は、過ぎ去った栄光だけに縋り、根っからの怠け者で嘘吐きだから、相手にしない方が良い」とC市出身者もご丁寧に注進してくれた。

 この話をすると友人も

 「同じ話をされたので、C国人はお互いに足を引っ張り合うので、偏見を持ってしまったかも知れない」と断った上で

 「C国駐在は地獄の日々だった、法治国家でなく、人治国家なので朝令暮改であり、賄賂文化が蔓延しているだけでなく、一党独裁を維持する必要性から相互監視が徹底されているので、気が休まることがなかった、国際経済ゼミで経験した悪弊も蔓延している」と不機嫌に吐き捨てると

 「大量発注を匂わせることで、試用機を納入させて、分解して模造品を制作し、不良品だと難癖を付ける支払拒否は日常茶飯事であり、国家包みで外貨導入には熱心だが、持出には厳格に制限されている」と商慣習を批判するだけでなく

 「あれだけ拒否していた家業である専門商社を継いだのもC国から逃げ出したかったからだろう、H経由だから我慢していたが、昨今の情勢を鑑みると一国二制度も終焉を迎えるので、撤退も検討しているが、外貨の持出は厳格に制限されており、二進も三進も行かず、考えれば考えるだけ憂鬱になる」とC国へは嫌悪を示した。

 H情勢について尋ねると

 「H、M及びG省を結ぶ世界最長の海上橋が開通したが、汚職や係者の不審死や賄賂等の醜聞だらけであり、H併合の橋頭堡であったと歴史は評価するだろう」と暗い見通しを語り

 「C書店事件はC国当局による言論の自由への圧力であり、U運動は親中派がT会を雇って暴徒化させて鎮圧の口実を与えて、選挙での民主派圧勝も蔑ろにされ、今や自由Hは風前の灯だ」と大きく肩を落とした。

 「憶測でしかないが、Cupid19もH情勢、T門事件の再評価への目晦ましの意味を持ち、AFやBLM等による暴徒化はA国大統領選挙の争点化及びA国及びE州を中心とする自由主義国家が唱える人権に対する挑戦だと考えている」と意味深に語った。

  二人目も国際経済ゼミの友人だったが、一人目とは真逆であり、最低限しか顔を出さずに趣味のサーフィン三昧で単位が足りずに一年留年して、学閥が緩いP庁若しくはD庁(現、D省)の国家公務員一種採用で見事後者に潜り込んだ猛者であった。

 前述のC国人との関係は、金満且つ凶暴なC市出身者と後ろにイントネーションのあるクラブに繰り出す悪友であり

 「金離れが良く、腕っ節もあったので、何かと困った時にはお世話になった」と苦笑しながら、明け透けに語り

 「勿論、入省後は一切の関係を持っていない」と真面目な顔に戻ると、弁解を付け加えることも忘れなかった。

 「CG庁はM省の外局であるが、SK沖衝突事件によって、サラミ戦術と呼ばれる挑発はエスカレートする一方であり、物量で圧倒的に勝るC国によって機能不全に陥ってしまっている」と腹立たしそうに語り

 「Cupid19禍に付け込んで、領海内への侵入を恒常化させて、国営放送で世界中に発信して、事実を積み上げ、既成事実化の最終段階に入った」と憂慮を示し

 「AD隊のスクランブル発進もC国機に対するP洋及びJ海への回数が急増しており、R国も歩調を合わせるようにN方F島を含む極Eへの挑発を活発化させている」とD省所属の背広組としての見解を語った。

 「NK国の原子爆弾開発や弾道ミサイル実験もC国が裏で糸を引いているのも間違いないだろう」と個人的な意見も示した。

 「自由主義世界による経済制裁も違法な瀬取りが横行しており、SK国の駆逐艦によるMD隊の哨戒機への火器管制レーダー照射も関連が指摘されている」と友人同士の噂話だと強調しながらも

 「外貨獲得は偽札、偽煙草、麻薬及び兵器と噂されているが、J国の娯楽産業であるパチンコもNK総連を通じての上納金も莫大な資金源になっている」と裏話にも触れ

 「拉致被害者も印刷工が標的であり、それ以外は不幸な目撃者と言われているが、奪還への努力は政府の義務であり、拉致被害者家族へのメディア及び政治家の心ない言動を忘れてはいけない」と持論を力説した。

 「偏向報道によって齎された二度に亘る政権交代、特に二度目では不用意な発言が相次いだ為、在J国A国軍基地問題は拗れに拗れているが、事業仕訳と持て囃された茶番劇によって、戦闘機整備事業がSK航空系企業に落札されたことにより、整備不良が増加していることは一切報道されない」と舌鋒は止まらず

 「A国軍の不祥事だけに煽り立て、同盟国の関係に楔を打ち込むことに全力を尽くし、C国の軍事的挑戦を無視する姿勢さえも報道の自由と呼べるだろうか」と悲憤慷慨し

 「政治的公平性を義務付けた放送法第4条の撤廃を全力で阻止する報道こそ、違反しているのではないだろうか」と疑問を呈して

 「放送事業への新規参入を認めなければ、C国の影響を排除出来ない」と包囲網が身近に迫っていることに警鐘を鳴らし

 「自由主義及び民主化を望まない独裁国家の盟主としてC国が暗躍しており、Cupid19によって前哨戦の火蓋は切って落とされた」との極論も敢えて隠さなかった。

  三人目は骨董市の取材をしてから懇意にしている非常に沢山の肩書と呼称を保有している不思議な人物である。

 骨董や美術品はH相互銀行のG屏風事件を筆頭に数多くの疑獄における切っても切れない存在となっているのは周知の事実である。

 さらに偽物や贋物の存在は、個人だけでなく、組織包みの関与も公然の事実である。

 国際経済ゼミの二人の友人から話を聞いたので、Cupid19及びC国に憤りを感じているのを見透かすように

 「与党幹部が、Gキャンペーンを独断で実施したとか、T都が備蓄する防護服や医療用マスクが軽率にC国支援物資として提供したとか、W県AWがパンダ外交の成果だとか物事を短絡的に考えてはいけない」と釘を刺して

 「国会対策とメディアによる世論誘導によって短命政権に終わるJ国は、長期的な外交戦略よりも目先の成果による人気取りが優先になってしまう」と弱点を指摘すると

 「JC共同宣言では、今太閤もC国での朝食に我が家の味噌汁が出たことで術中に嵌ってしまい、E登山で酸素ボンベを投棄した日本版ビッグバンのA級戦犯(理念に問題はないが、時期及びと内容が最悪であった)もハニートラップで手も足も出ず、将来に禍根を残し、政権交代の混乱期にも天皇陛下の政治利用及びSK沖衝突事件が発生している」と過去の事例について言及した。

 「C国三千年歴史を侮ってはいけない、政治は三流、経済は一流と開き直って嘯いていたが、経済も怪しくなっている」と深刻な表情で語ると

 「ここまで徒手空拳で辿り着いたことは、素晴らしいことだ」と一転して持ち上げて

 「これからは単独ではなく、周囲を巻き込んで、一人でも多くの同志を探しましょう」と固い握手を交わすと

 「C国の横暴を許さないようにA国との協力は特に欠かせないが、単なる追従や依存ではなく、国益に沿った複眼的な思考が欠かせない、T国やIN国等の価値観を共有出来る国々だけでなく、AZ国やR国等の特定分野で衝突があっても遠交近攻若しくは敵の敵は味方と妥協点を見出して協力する強かさが求められる」と外交の基本としてだけでなく、人生における教訓を教えてくれた。

 「収賄及び脱税で失脚した大物政治家は、多額の割引債を購入していた金融機関から蝙蝠紳士の隠語で呼ばれており、Cupid19禍では笑えない冗談のようでもあるが、刻印のない金塊を大量に保有していた」と意味深な発言をしたので

 「それは何か問題があるのでしょうか」と尋ねると

 「刻印のない金塊を密輸している国はNK国しかない」と断言した。

 拉致被害者家族への心ない言動が何に起因しているかを垣間見た瞬間であった。

 「易姓革命と呼ばれる徹底した前時代の否定によって、発祥国であるC国では消滅してしまいJ国に残っている伝統も多数あり、古くは焚書坑儒、近くではC大革命が典型例である」とC国の悪癖を指摘しながら

 「DTA共栄圏の理想を掲げて、実際にはE州やA国が邁進した悪名高き植民地政策を踏襲して、A地域における希望から失望へ評価を覆したJ国にも反省すべき点は多い」と結論付けると

 「さりとて現状を鑑みるとC国は国際社会の癌細胞になりつつあるので、何とかしないと将来に禍根を残すことになる」と断言し

 「Cupid19の発生源をC国と断定することは出来ないが「C国の14億人に対して死者は4000人、20万人以上が死亡したA国と比較すれば1人も死んでいないも同然だ」との暴言が全てを言い尽くしている」と言及すると

 「独裁者である国家主席への阿諛追従であることを勘案しても、人命の軽視、用意周到な対策及び情報の隠蔽による初動の遅延等、人類に対する重大な犯罪行為である」と論拠を説明した。

 「外交の基本は笑顔でテーブルの上で握手をして、テーブルの下で蹴り合いと説明されるが、C党はテーブル外でも非情な裏工作を厭わない」と述べると

 「旧S国では、最も由緒ある家系の当主が敗戦後にS抑留の上、帰国前に不審死を遂げており、NK国では、最高権力者の実兄がM国空港で白昼堂々とVXガスで毒殺され、C国では、文化大革命、T門事件とC党にとって、不都合であれば大量殺人さえも躊躇しない」と直言し

 「T門事件ではA国及びE州をする自由主義国家が足並みを揃えて、抗議したのに対して、J国の外交文書には事件直後の極秘扱い文書「わが国の今後の対C国政策」には「わが国の有する価値観(民主・人権)」より「長期的、対極的見地」を重視する方針を示し、世界中の不興を買い、C国を増長させる結果となってしまった」と取り返しが付かない失態演じたことを強調した。

 情報源及び協力者の提供に関する全面支援及び依然行方不明である同期の消息を探索することも快く協力を約束してくれた。

 肩書及び呼称の中で際立っているのが、ヤクザマンションの理事長であり、裏表に精通した影響力の恩恵を受けることが出来た。

  四人目を紹介して貰うに際して、些細な事で一悶着が生じた。

 協力者として紹介されたのは気鋭のノン・フィクション作家であり

 「似たような観点から継続的に追跡調査をしているので、共同執筆の体裁としてはどうか」と提案されたが

 「社会的には協力者の一人にしか評価されない」と不平を唱えると

 「真実の追求よりも個人の名声に興味があるのか」と非難を込めて言われた。

 「元々、同期の提案が切っ掛けであり、瓢箪から駒なので、個人の名声に拘るのではないが、調査を進めるに従って「書きたい」という内なる衝動を抑え切れない」と切々と訴えると

 「情緒的若しくは感情的な表現に訴える傾向があり、論理的な飛躍若しくは破綻が目立つので、ノン・フィクションでなく、フィクションとして扱うことを提案するが、納得出来ないか」と提案された。

 たった一度の面談で、特徴を把握して的確な助言を提供する観察眼に感服したので、迷うことなく提案に従うことを約束した。

 四人目とは、最大の歓楽街であるS区K町にある喫茶店で面談することになった。

 気鋭のノン・フィクション作家であり、共同執筆を提案する人物なので、尊大で押しの強い印象を抱いていたが、実際には礼儀正しく線の細い好人物であった。

 更に驚いたことに共同執筆は毛頭考えておらず、一貫して弱者の立場から社会問題を提起することだけを題材に考えていた。

 依然行方不明である同期の安否にも心を痛めており、一日でも早く無事発見されることだけでなく、学術的な分野を担当する同志であると認識していた。

 恐らく理事長は過激な内容を暴露することに後ろ向きである彼に対して、共同執筆を持ち掛けることで、協力者として参加することを提案したのだろう。

 実際には私の拒絶によって、彼が希望する社会問題の提起を担当して、同期が学術的な分野を担当して、既存の枠に治まらない謎に包まれた破片を私がフィクションとして執筆するという理想形に怪我の功名による副産物を伴って、漸く落ち着いたようだ。

 理事長の策略に対する嫌悪感は全く起こらず、敵の敵は味方と妥協点を見出す強かさと三人寄れば文殊の知恵を実践する指針が示され、寧ろ高揚感さえ味わっていた。

 「弱者の立場から社会問題を提起することが、私の題材なのですが」と苦渋の表情で

 「C国籍の生活保護集団申請及び扶養家族の健康保険加入における過大請求等制度の悪用によって、本当に必要とされる人に対しても心ない罵詈雑言が与えられる悪循環に心を痛めています」と覚悟したように語ると

 「限定商品の買い占め、その中でも許せないのは、火事場泥棒のようにCupid19で品薄となった医療用マスクの転売だけでなく、申請に必要な書類一式を偽造して、持続化給付金の不正受給がC国人に横行しています、組織的な犯罪であり、C国当局の関与も見え隠れしています」と溜まっていた不満を一気に吐き出した。

 「学生時代にはA大陸や紛争が絶えないME難民の問題にも取り組んでいましたが、政治の不作為が根本原因であり、人間を盾に独裁者の延命に助力していることに気が付き、先ずは身近な範囲から取り上げていく、有縁を度すを座右の銘にしています」と淡々と語り

 「憎悪の対象はC国人ではなく、C党であり、約9000万人が14億人の蟻族や農民工等から搾取しており、発展途上国では独裁者に対する過剰融資で債務の罠に陥ると港湾を租借し、植民地宛らの悪辣な方法が問題化しており、先進国では人権の名を騙った過激な勢力による騒擾による治安悪化を扇動しています」と力強く断言すると

 「国際的な企業のA地区統括担当が同志として行動を共にしており、C国からの撤退も辞さない交渉をしながら、社会問題の短編映画が国際映画祭にノミネートされたので、壮行会を開催しました」と嗚咽したので

 「どうかしましたか」と尋ねると

 「壮行会の席上で胸部を刺すような痛みを訴え、緊急搬送されましたが、そのまま帰らぬ人となりました」と声を絞り出した。

 「検視の結果、事件性なしと判断され、司法解剖も行われず、荼毘に付されてしまい、国際的な企業による猛抗議も虚しく、あっけない幕切れとなってしまいました」と肩を落とし

 「C国出張の際は、国際的な企業が指定するハイヤーで移動して、飲食物も全て持参して、用心に用心を重ねていたのですが、J国内なので、油断してしまったのでしょう、事件性なしという検視の結果を私は全く信じていません」と迷うことなく断言した。

 頃合いを見計らったように理事長が現れると第一声は

 「一人は肩の荷が下して、生々としているのに、もう一人は重荷を背負ったような深刻な顔をしているけど」とお道化て言うので

 「茶化すのは止めて下さい、人が殺されているんですよ、同期の安否も絶望的です」と取り乱して喚くと

 「冷静になれ、J国人を殺すのは簡単ではない、それだけの価値がなければ、態々危ない箸を渡ることはない」と諭すように語り

 「Cupid19の初期症状は、胸部の激痛であり、トリカブト毒と共通しており、医療及び警察制度の崩壊で、本来の死者数に混じって、水増し及び暗殺も相当数含まれている可能性が高い、モンゴロイドがコーカソイドやネグロイドと比較して適応力が高く、耐久力が強いとされるが、死亡者数の偏差は異常値を示している、何か意図的であると感じている」と淡々に語り

 「それでも「冷静になれ」なんて無理ですよ、危険以外の何物でもないです」と食い下がると

 「憎悪と恐怖の無間連鎖こそ、奴等の思う壷だ、君の覚悟はその程度だったのか」と一喝された。

 「死ぬのが怖いんです」と恥も外聞も全て捨てて答えると

 「日常生活にも危険が潜んでいるので、安全を保証するとは絶対に言えない、死ぬのは怖いが、為すべきことを為さずに死ぬのは悔しくないか」と優しく諭すように両肩に手を置いた。

 「前に教えて貰った「最悪は死ぬだけだと割り切れば、人間何でも出来る」ですね」と一度は挫けそうになった覚悟を再度奮い立たせた。

 愈々、C国と関係するJ国人から情報収集の段階を終えて、様々なC国人と面談していく段階に入った。

三章

 C国人であるか少し問題はあるが、証券会社の後輩に連絡を取った。

 厳密に言えば、当時の就職事情を鑑みて事前に帰化しており、国籍はJ国人であるが、T門事件の影響で両親が亡命しているので、C国の状況を聞くには申し分ない。

 私大の雄を卒業した彼は、J国語、C国語は勿論のことE語も流暢に操るだけでなく、最先端技術も貪欲に利用している。

 残念ながら旧態依然な証券会社に早々と見切りを付けて、ネット商取引のベンチャー企業に華麗なる転職をしていた。

 「ご無沙汰しています、Cupid19について教えてくれと言われても、世間一般的な情報しかないですよ」と事前に予防線を張りながら

 「就職事情が変わって、帰化するよりもC国人の方が優遇されていましたが、最近ではJ国人への帰化希望者が増えて、C国のSNSであるWBとWC共に相当数のフォロワーがいますよ、ある意味この分野では教祖に祭り上げられていますよ」と自慢気にスマートフォンの画面を見せながら

 「WBの方が少し保守的で検閲も厳しいですが、WCはかなり過激ですよ」と言いながら、著作権を完全に無視したスタンプや自撮りカラオケアプリについても懇切丁寧に説明をしてくれた。

 Cupid19拡大前にコウモリを一頭丸ごと食べるパフォーマンスも削除されずに残っていたので

 「これって、問題になった奴でしょ、検閲で削除されないの」と尋ねると

 「基本的にC国在住のC国人が対象であって、海外在住の特に外国人にまで適用されませんよ、いきなり削除したらデジタルタトゥーを却って拡散されて炎上してしまうじゃないですか」と私には理解出来ない専門用語を捲し立て

 「小紅粉と呼ばれる攻撃的愛国主義者以外は、戦狼外交によって世界中で孤立する状況を真剣に憂いています」とWCで具体的な投稿の説明をして

 「外貨持ち出し制限を徹底していますが、C党幹部が沈没しそうな船から真っ先に逃げ出そうとしており、徹底した腐敗撲滅運動も単なる内部政争と外部宣伝以外の何物でもありません、リベラルお得意のブーメランを食らっているケースもありますよ」と冷静に現状分析をした。

 「C国内だけ検閲しても無駄じゃないの」と思ったまま質問すると

 「J国の常識とC国の常識は全く異なり、海外に目を向けているC国人なんて極僅かであり、大多数がその日暮らしで情報から隔絶されています」と少し翳りのある表情を見せると

 「幸い両親と共にT門事件後、J国へ無事に亡命しましたが、C党は兵士を含む319人が死亡し、7000人以上が負傷したと発表していますが、C国R十字は死者を2600人以上と発表した後、数字は行方不明者であったと撤回しており、世界に恥を晒しました、G国の外交電報によると死者は1万人を超えると報告されています」と具体的な数字を上げて

 「Cupid19の死者数を世界中が疑惑の目で見るのは当然です、不謹慎かもしれないですが、僕は自分がコウモリだと自覚しているので、両国の歴史は誰よりも勉強したと自負しています」と宣言すると

 「遣唐使と遣隋使は知っていますよね」と唐突に尋ねた。

 「日本史で学ぶので、その程度のことは知っている」と憤慨気味に答えると

 「遣日使は知っていますか」と重ねて尋ねるので

 「それは聞いたことがない」と正直に答えると

 「遣唐使と遣隋使よりも大規模でしたが、望郷の念と闘いながら研鑽に励んだそれらとは異なって、遣日使は帰国要請を拒んで、定住してしまい両国間で問題になったので、中止になりました」と衝撃的な事実を淡々と述べ

 「C国が崩壊したら、A大陸から押し寄せるE州どころでない難民問題が発生します」と心を見透かすように尋ねた。

 「どうすれば良いか教えて欲しい」と見解を乞うと

 「正解はありません、これから議論していかなければならない問題です、Cupid19よりも些細な政治資金に纏わる問題に終始して国会は空転しており、心許ないですが」と冷笑したので

 「個人的な意見とJ国最大の問題を教えて欲しい」と重ねて見解を乞うと

 「難民船は躊躇せずに沈めます「カルネアデスの板」所謂緊急避難です」と断言し

 「J国最大の問題は勝者による東京裁判で「戦争責任」を軍部にだけ押し付け、反省せずにメディア及び官僚を温存してしまったことです、民主主義と洗脳されていますが、実質「官主主義」です、剛腕幹事長が「神輿は軽くてパーが良い」と嘯きましたが、彼自身も神輿であることを理解していない悲劇若しくは喜劇です」と感情を交えずに答えた。

 「大学卒業時のペーパーテストだけで、将来が確約されているので、官僚が減点主義で後ろ向きになるのは当たり前です」と人ではなく、制度の問題であることを指摘し

 「C省の前事務次官が女性の貧困についての調査と笑えない言い訳で買春倶楽部に頻繁に出入りしており、豪雪地帯N県の元知事も同罪ですが、退任後も幹部による汚職や裏口入学等の不祥事が頻発し、A省の元事務次官は引き籠りと家庭内暴力を夫婦で耐え続けた挙句に長男を殺害しています、J国も構造的な問題を抱えています」とJ国とC国の狭間にあり、両国を知悉している重みのある見解を示した。

 依然行方不明である同期についての質問をした途端に

 「残念ながらその件に関してはお役に立てません、情報もないですが、何よりも先輩にはお世話になりましたが、証券会社にはあまり良い感情を持ってないので」と正直に話してくれた。

 

 二人目は理事長の紹介であり、太子党に連なる名門一族ながら学究肌であり「私は文人ですから」と一切政治に関与せず、Hを拠点にC国内の少数民族を支援する活動もしていた。

 「自由Hは既に過去のものです、私も事前に撤退してJ国に閉じ籠って、嵐が過ぎるまで只管耐え忍ぶだけです」と開口一番宣言すると

 「C党は政治形態を変更せずに経済に限定して改革開放路線に舵を切りましたが、構造的な矛盾は最早制御出来ない水準に来ています、その中でも私有財産と戸籍制度が二大問題です」と言及すると

 「C党は私有財産を否定しながら、幹部は私腹を肥やし、野放図に廃墟都市を開発した結果、財政破綻の危機に晒されており、弥縫策として、借地権の期間延長若しくは再国営化による実質上の略取で資金を調達するしか選択肢がありません」と声を落として

 「何れの場合も痛みを伴うので、弥縫策でさえも既得権益者の反発を受けますが、それよりも深刻なのが、戸籍問題です」と説明し

 「蟻族や農民工から搾取することで、国際的な価格競争力を維持していましたが、物価上昇圧力が高まり、彼らは生活を維持するのさえも困難な状況となっています、一帯一路や真珠の首飾りは現地には恩恵のないC国の失業対策であり、各地で不平による軋轢が噴出しています」と抜本的な解決策がないことを強調した。

 「こればかりは意図的でないことを祈るばかりですが、一人っ子政策の弊害でC国の人口動態は極端に高齢化が進んでいます、Cupid19が高齢者や既往症がある弱者を標的にしたのであれば、人類史上最大の犯罪です」と声を落とすと

 「C国の実力者1000人はS銀行に総額1兆ドル以上の隠し口座を持っていることも公然の秘密であるが漏洩すること自体が既に内部抗争が深刻である証左であり、理想を唱えた革命は過去の歴史同様に権力闘争でしかなかったことは明白となり、私腹を肥やす幹部への怨嗟の声は拡大され、C党存続に深刻な影響を与えるだろう、実態を知った私は決して彼らには与しないことを誓いました」と怒気を込めて語った。

 「J国としては、どのように対峙すべきですか」と尋ねると

 「出来る限り関係しないことしかありません」と取り付く島もないので

 「隣国であり、C国の現状を考慮すると関係しないことは無理です」と反論すると

 「現実的ではないが、A地域の安全保障を考えれば、A国依存の幻想を捨ててJ国が核武装すべきです、C国、R国、NK国及びSK国以外は反対しないでしょう」と極論を述べた。

 「J国の大手メディアは、C国に浸食されている為、憲法9条は聖域に祭り上げられています」と悲観的な見解を示した。

 依然行方不明である同期についての質問をすると

「それについては何も情報は持っていません、これからは写真を持参した方が良いですよ」と助言をして

 「不幸な友人を見過ごすことは出来ないので、何かあれば理事長にご連絡します」と最大限の助力を約束してくれた。

  三人目も理事長の紹介であり、彼の父もC国南部、GX省の名門一族であったが、C、。・大革命で三角帽子を無理矢理に被らされて、処刑されてしまい、家族が崩壊して母親とともに命からがら、Hに脱出して40年前にJ国に亡命している。

 彼は現場を見たのではないが、父親の死肉が食されたことを確信しており、C党を徹底的に憎み、生涯を打倒だけに懸けている。

 「世界中の厄災は6割がC国であり、3割がR国、残りがそれ以外です」が彼の口癖であり、信念でもあった。

 「長征なんて、C党は徹底的にJ国軍を避けて、周辺の少数民族を解放の名の元に略奪を加えただけで、戦後予想されるN党との内戦に備えていました、K戦争後、旧S国との全面対決を恐れて、N党を見捨てたことがA国にとって最大の失策であり、T国からC国を国際機関Uに加盟させたことが追い打ちを掛けました」と早口に捲し立てた。

 「如何にC党が信頼出来ないかは、旧S国によるDTA戦争中の国際的な諜報戦であるゾルゲ事件を引き合いにして、J旧S不可侵条約を一方的に破棄して、H道に侵略したSM島の戦いがある」と具体例を示し

 「C国は国際法で禁止されている便衣兵を利用して、大躍進運動による餓死者も含めてS事件を世界中に宣伝しており、信頼に値する情報を提供しません」と熱弁を奮った。

 「旧S国でさえ悪名高い諜報機関であるKGBを利用したのにC国は五毛党、千人計画等によって民間人を利用するだけでなく、孔子学院によって、現地人を介して世界中にプロパガンダを拡散しています」と興奮を抑え切れず

 「A国に亡命したC国人実業家は「身の安全、財産の保全、復讐」の為、C国C党最高指導部の腐敗・汚職を暴露し、AZ国に亡命したC国人諜報員は「H、T国、AZ国で潜入工作や妨害工作に携わり、HでC国C党に批判的な書店の関係者の拉致にも関与していました、C国政府が複数の上場企業を密かに支配し、反体制派の監視と調査分析、報道機関の取り込みを含む諜報活動に資金を拠出している」と詳細に説明しています」と長口舌の末に

 「J国も対岸の火事ではありません、党文書の用語から名付けられた「方針、路線、政策、計画、完成」四男一女の失脚に絡んで、妻名義で京都に2軒の大邸宅を保有していました、J国人の協力者が絶対に不可欠です、既に森林や水源、リゾート地等がC国資本によって浸食されており、拝金主義に塗れた協力者が多数存在しています」と危機感を募らせた。

 依然行方不明である同期について助言通り写真を添えて質問をすると

 「亡命後、警告の意味で襲撃を受けることや不審な食中毒も数度あり、半月前にも白昼堂々と傘で襲撃されたが、単独犯であったので、取り押さえたものの警察沙汰にはせず、強制出国を免れることで協力者になっている男なら事情を知って可能性があります、一度会ってみませんか」と提案された。

 その場では返事を一旦留保して

 「理事長に確認してから返事します」と答えると

 「それで構いません、理事長によろしくお伝え下さい」と別れた。

  早速、三人目の申し出を理事長に確認をすると

 「願ってもない申し出なので、是非受けましょう」と言って、S区K町にある常連となった喫茶店での面談を取り付けた。

 四人目とはこのような経緯で会うことになったが

 「攻撃的な小紅粉ではなく、五毛党と呼ばれる守銭奴であったので、C国に対する忠誠心は一切ない」と断言した。

 「J国にいるC国人は概ね三種類に分類され、最初のグループは太子党に連なる恵まれた人々であり、資産を海外に持ち出す目的で留学していましたが、外貨流出に危機感を募らせた当局によって制限されています」と訥々と説明して

 「次に学業に秀でており、J国の技術や知識を吸収する為、国費で留学しているグループですが、J国の不況による地盤沈下によって、その数は減少しています」と耳の痛い内容を躊躇せずに告げると

 「最後がC国では戸籍問題があり、希望を見出せない為、S頭等に多額の借金をしてJ国で返済を続ける蟻族若しくは農民工出身者が私達のグループであり、語学学校を卒業しても大学に入学出来る者は僅かであり、次第に生活費に困窮すると五毛党として糊口を凌ぎ、最終的には犯罪に手を染めていきます」と事もなげに暴露した。

 「私はF省の農村に生まれ、教育や就業に厳しい制限を受ける為、一族郎党で資金を捻出して残額をS頭に借金をしてJ国に来ました、大学に入学出来なかったので、深夜バイトをしていましたが、返済が追い付かずに元手の必要のない並び屋をしていましたが、参入者も多く、膂力に劣っており、結局淘汰されました」と語り始め

 「特殊詐欺はJ国語が覚束ない為、荒っぽい役割も無理なので、最初から諦めており、カード詐欺やメールアドレス転売は元手も知識もありません」と肩を落とすと

 「白昼堂々と傘で襲撃する仕事は、指定された70歳以上の高齢者なので甘く見ていましたが、致命傷を与えることが出来ずに反撃を食らって取り押さえられてしまいました」と自嘲気味に語った。

 「後で話を聞くとC大革命で亡命して以来40年以上もJ国で危ない橋を渡って食い繋いでいたので、所詮敵う筈もないと観念しました」と溜息を付くと

 「今は反C党運動のお手伝いをさせて頂いており、正規のバイトと掛け持ちで何とか生活出来ています」と屈託のない笑顔で

 「生まれた場所によって人生が大きく異なることを不満に感じ、悪事を正当化していましたが、紛争地域で命を落とす理不尽も悲惨ですが、憎悪の連鎖から解脱出来て良かったと心から感じています」と目を輝かせて話してくれた。

 「心境の変化はどうしてだと思いますか」と尋ねると

 「語学学校に通っていた時、地域の国際交流協会で高齢者による語学ボランティアを利用していたのですが、大変良くして貰ったので、反J国教育を受けていたけど何か違うと感じていました」と思い出しながら

 「S区K町も深夜にゴミを捨てるのは、私達外国人で早朝に高齢者ボランティアが拾っていたのですが、最近ではJ国の若者が私達の真似をしています、残念ですが高齢者の美徳を若者は受け継いでいないようです」と的確な意見を述べた。

 「高齢者は自分達の苦労を子孫にはさせたくないと一所懸命に豊かな国を作り上げましたが、皮肉なことに苦労知らずのお人好しになってしまったので、簡単に騙されてしまいます」と包み隠さず

 「C国では騙す奴よりも騙される奴が悪いという風潮があり、白髪三千丈の伝統で嘘も百回言えば真実になると放言するので、実際に一人っ子政策の弊害で小皇帝と呼ばれる奴等を騙すことはC党幹部による悪事に比べると平気でした」と一気呵成に

 「J国の若者に対しても同様の理論で、自分を騙していましたが、高齢者の美徳を踏み躙り、弱肉強食の理論で踏み躙ることに良心の呵責を感じます」と心情を吐露した。

 「持続化給付金や特殊詐欺等の組織的な関与も嘆かわしい事ですが、資金繰りに詰まった女性の人身売買、男性の臓器売買、消費税分利益となる金塊若しくは麻薬の運び屋よりも借金返済に手っ取り早いのが、潜伏期間を利用したCupid19保菌者の渡航が噂されています、既往症のない若者であれば重篤化しないことに目を付けた黒社会が差配しているようです」と耳を疑うような問題発言をした。

 「間接的な情報なので、忘れて頂いても構いませんが、潜伏期間よりも厄介なのは無症状保菌者です、第三波の発生経路を辿れば裏付けが取れます」と食い下がったが

 「この件ついては、お互いに慎重になりましょう」と穏便に済ませた。

 依然行方不明である同期についても写真を添えて質問をすると

 「不幸な境遇に置かれている友人を捜索することには、全身全霊を尽くして協力させて頂きます、だからと言ってQupid19によるC国の謀略を穏便に済ませることも出来ません」と一歩も妥協を示さなかった。

 二人で議論をしても埒が明かないので、私は理事長、彼が亡命者を同席して貰うことで同意した。

  理事長は基本的には黙って聞いているだけで発言を控えていたので、三人で議論しても平行線のままであった。

 具体的な論点に絞って発言を抽出すると

 「情報収集や執筆だけで実際に行動を伴わなければ、無意味であり卑怯です」との発言には理事長が聞き咎めて

 「無意味かどうかは考え方なので、我慢しますが卑怯という言葉は取り消しなさい、同志若しくは協力者を誹謗するのは失礼です」と発言し、撤回及び謝罪をさせた。

 「スパイ防止法や関連法制も整備されていないので、時期尚早であり、蛮勇に終わってしまう」に対しては

 「手を拱いて見過ごしてしまえば、取り返しが付かないので、行動あるのみです」と自説を譲らなかった。

 私と彼の差異は、主に時間軸と方法論の問題であった。

 「J国人も対岸の火事と悠長に構えるのでなく、実際に行動すべきです」と彼が発言すると

 「C国の問題にG国を引き入れたのが、抑々の間違いであった列強に蹂躙され、A国、旧S国及びJ国を巻き込んでしまった」と亡命者はC国の問題であり、他国を巻き込むべきではないと主張した。

 「C国は自国の諸問題を他国に輸出しており、最早C国一国の問題ではなく、世界中に害悪を撒き散らす癌細胞となっています」と彼が食い下がった。

 彼と亡命者の差異は、C国の常套句である内政干渉であるか国際問題であるかの範囲論若しくは認識論であった。

 「小異に固執して、大同を見誤ってしまうので、二週間後に議論の場を設けます」と理事長が宣言して、私には資料を整理して執筆することを指示し、彼と亡命者に対しては具体的な行動計画を二人の対立点を解消して、纏めることを約束させて、散会した。

 終章

 二週間で資料を整理して執筆することだけでも手一杯なのに理事長は、太子党に連なる対人の予定を聞いて

 「二週間後の議論の場は、情報収集した人達を招待して決起集会にしよう」と無理難題を持ち掛けた。

 「年末も押し迫っているので、日程的に無理です」と固辞すると

 「今年はQupid19で自粛ムードなので、忘年会も限定的なので、無理は承知でやってみましょう」と聞く耳を持たなかった。

 同期の探索依頼に対する後輩の態度を考慮すると即座に断れるだろうと思いながら

 「色々な背景を持つ人達が一堂に会するなんて、大変興味があります、是非参加させて下さい」と予想に反して乗り気であった。

 「H問題に危機感を持っている経済人の参加は可能か」との質問や

 「外交及び国防に対する権威を講師として招聘したい」との提案も受けたが

 「諸般の状況を鑑みて、情報提供を受けた8名と私の9名で小規模で開催します、ご意見は有り難く頂戴して発展的な拡大を目指しましょう」と丁寧に断り、蓋を開けてみれば全員が参加することになった。

 肩書や発言の趣旨についても摺合せて、当日に草稿を最終確認することで落ち着いた。

 曖昧で漠然とした状態から期限が設定されることで明確な目的意識が生まれ、執筆も順調に進んだ。

 何かが始まる正確に表現すると動き出す手応えを感じていた。

 当日の会場は、ノン・フィクション作家の同志が急逝した店とは当然異なるが、都内のC国料理店だったので、彼の表情が曇っていることが気になった。

 「自由Hを死守する朋友なので、ご安心下さい、会場の選定は私でしたので、議論を円滑に進める議長は理事長にお願いしては如何ですか」と当意即妙に大人が提案したので、緊張した雰囲気が解れ

 「賛成」や「異議なし」と自然に発声があり、一気に旧知の友人であるかのような一体感が生まれた。

 「僭越ですが、ご指名とあれば謹んでお受けいたしましょう」と理事長が厳かに

 「本日、ご多忙中にご参集頂きましたからには、一過性に終わるのでなく、継続的且つ其々のお立場によって発展的な運動として頂きたい、重ねてお願いしたいことは偏見や憎悪を煽るのではなく、罪を憎んで人を憎まず及び言動を問題にしても人格を否定しないことです」と行動規範を提言すると拍手と心からの賛辞の輪に包まれた。

 紙幅の都合上、議事録作成者である私の独断と偏見で全ての発言を匿名として、一部のみを開示することでお許し願いたい。

 理事長が提言した行動規範に則ってさえいれば、派生的な分科会等は一切制限せず、会員についても来る者拒まず去る者追わずで、会費等もなしと決まった。

 名称に関してだけ、少し議論が過熱して

 「密集、密接、密閉の三密でなく、集合、接近、閉鎖から脱シュウキンペイの会を提案します」と発言があると

 「衆口、金を鑠かす、金魚の糞、兵は詭道から戒めを込めて、反シュウキンペイの会としましょう」との声が上がり

 「脱や反は消極的で名称に相応しくないので、習慣は第二の天性なり、近道は遠道、平家を滅ぼすは平家から単純にシュウキンペイの会は如何ですか」との提案には喝采の声も上がったが

 「罪を憎んで人を憎まずの行動規範に抵触するのではないか」との意見や

 「名称を決定するのに大喜利状態になるのは不真面目だ」と憤慨する声も上がったが、

 議論を重ねていくと

 「就任以降、激化する戦狼外交、Cupid19等を考慮すれば、個人攻撃ではなく、象徴する存在になっている」との考えに傾き始めると

 「脱及び反も含めて其々に意義深く、決して遊び半分ではないので、ユーモア及びインパクトを加味する意味で、シュウキンペイの会にしましょう」と満場一致で決定した。

 私の草稿は事前に各人の部分についての擦り合わせをしていたので、問題なく素通りされると思っていたが、認識が甘かった。

 「基本的な意見は一致しているので、何度も重複すると陳腐化するので、前後関係や専門分野を考慮して冗長な部分を削ぎ落としましょう」と自説に固執するのでなく、シュウキンペイの会による作品を作り上げる気迫が充満していた。

 「重複を回避すれば、後ろの方は削除されることが多くなるので」と言葉を濁すと

 「嘘も百回言えば真実になると私達が踏襲すれば、信憑性が薄れてしまいます」と意に介さず断言した。

 「不透明な部分があるので、フィクションとしていますが、フェイクニュースや都市伝説のように扱われては禍根を残します、社会問題の提起及び学術的な分野にも展開する予定です」と依然行方不明である同期のことも気に掛けてくれていることと一過性でなく、発展的な活動を意識してくれることが発言を通して伝わってきた。

 理事長を目で探すと大人と少し離れて話していたが、私の視線に気が付くと大きく頷いて、親指を力強く屹立させた後、大人と固い握手を交わした。

 亡命者と元五毛党による行動計画は冒頭で亡命者が

 「C国の問題はC国人が解決すべきであって、他国を巻き込むべきではないと考えていましたが、このような偏狭な考え方がC党の暴走を許して、このような事態に直面しています、国際問題として俎上に乗せなければ、将来に禍根を残すことになります、皆様に於かれましては其々の立場で出来ることを考えて、行動して下さい」と頭を下げて協力を依頼した。

 元五毛党は「膂力に劣る、知識がない、間接情報なので」と謙遜していたが詳細に内情を把握していた。

 国防、公安及び政治家への働きかけを具体的に示し、依然行方不明である同期の消息にも言及して対応策を提案した。

 彼が何者であるのか詮索することは無駄であり、其々に割り振られた役割を忠実に実行あるのみである。

 現在進行中であり、関係者を窮地に陥らせる可能性があるので、内容については記載することは出来ないが、近い将来に全面的に公開する日が来ることを希望している。

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