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自由思想の要件

  確実な思索を行ってきたはずの仏文学者が、Twitterで以下のような発言をしている。
「からじゃないですか」→「むしろその逆をしている」→「しようとしているのだと思います」→「と断言してよろしいかと思います」と続く論述には、名の知れた責任ある人の公的な場での発言とは思えない軽さがあると私には見えるのだが、どうだろうか。
(私の考えはさらに引用の後で述べる)

●内田樹@levinassien 9時間前
今政府は「戦争ができる国」に国家改造しているわけですけれど、これは「ほんとうに戦争をする気がある」からそうしているわけじゃなくて、「そのうち戦争になるぞ」と言っておくとふだんなら通るはずのない無理が通るという「成功体験」に味をしめたからじゃないですか。
●内田樹@levinassien 9時間前
いろいろな方が書いているように、本気で戦争準備するなら原発なんか稼働させるはずないし、食糧増産をはじめ戦略物資の備蓄を始めているはずだし「国民的和解と挙国一致」のための世論工作をしているはずです。でも、何もしてない。むしろその逆をしている。
●内田樹@levinassien 9時間前
本気で戦争をする気はないけれど「戦争になるぞ」と国民を脅しておいて「過去のすべての失政をチャラにする・行政府への全権委任を進める・改憲する・消費増税する・米国から兵器を大量購入してアメリカから『永代政権保証』をとりつける」などの懸案を一気に解決しようとしているのだと思います。
●内田樹@levinassien 9時間前
今の政府部内には中国相手に戦争を始めて、終わらせるまでの行程を構想できる能力を持った人間は一人もおりません。だから、「戦争カード」はすべて国内向けのマヌーヴァーです。と断言してよろしいかと思います。

 内田氏は、これだけの重大事を語るにあたり、相当量の確実な情報を得て熟考したのだろうが、はたして現実の政治についてどれほどの知見をもった上で断言しているのか。「本気で戦争準備するなら……はずないし、……はずだし、……はずだ」と断定し、政府はアメリカからの「永代政権保証」を得ようとしているのだとして、「戦争カード」はすべて「国内向けのマヌーヴァー」と「断言してよろしいか」とまで言うのである。
 はたして、これが現在の政局の中で暗躍し、また健闘する政治家たちの急所を突くほどの力をもった洞察といえるのか。分かりやすい口調で語ろうとするあまり、厳密な思考過程を省略したのでもあろうが、いかにも粗い論述と思うのは、私だけだろうか。まるでLineなど仲間内の場での発言のように見えるのである。
 冒頭の「今政府は「戦争ができる国」に国家改造している」という決めつけも、私にはいかにも粗雑な体制批判と思える。
 日本がいま、「戦争ができる」ことより、「戦争させられる」状態にあるのではないかと恐れる人々の切迫した不安や、それを避けるためには防衛力増強やむなしかとする苦衷に、しっかりと寄りそうことなしに、たしかな力をもった体制批判が可能だと考えることは、私にはとうていできないのである。
 文壇のみでなく、論壇衰退と見える現在、Twitter上で、ごく個人的な発言をばらまくのみといった姿勢で、次々と私見を公表している著名人たちには、何よりその公的な影響力の大きさに見合った、責任ある確実な論述を求めたいと思う。
 リベラリズムとポピュリズムのあやうい関係は、自らの可謬性の自覚の上に立ってこそ正されるべきではないか、と考える故である。

写真は石橋湛山語録「自由思想の要件」

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