運命信じない女と運命押しつけ男
同僚に誘われた飲み会で出会った彼。
雰囲気が好きだなと思った。シンプルな服装で爪がきれいだったし
褒められると少し下を向いて笑う仕草がかわいいと思った。
でもそんなに目が合わなかったし、その日限りだと思っていたら
2人でご飯に行こうと誘われ意外だった。
何度か会ううちに自然と付き合うことになった。
3組に1組は当てはまる定番の出会い。
同じクラスになったから、同じ部活だったから、同じゼミを取っていたから、同じ会社に就職したから、友達の友達だったから。
そんな理由で集められた中から、自分に合いそうな人を探して選ぶ。
きっとその人でなくても良かった。
その人でなくてはいけない理由はなかった。
偶然居合わせただけ。
この人はなぜ私を選んだのだろう。
飲み会にいた3人の中では私が一番好みの顔だったからだろうか。
職場にちょうどいい年齢の同僚がいなかったからだろうか。
彼女欲しいなと思ったタイミングだったからだろうか。
自分の魅力ではなく、彼側の理由を探してしまう。
同僚に誘われた飲み会で出会った彼女。
小柄で黒目がちな意志の強そうな目にドキッとした。運命だと思った。
こんな格好で来るんじゃなかったと後悔した。
せっかく彼女が手を褒めてくれてもなんと返していいかわからず困った。
ダメもとで誘った食事をOKしてくれたのは意外だった。
この同僚と同じ会社に就職できたのが奇跡だと思った。
初恋は同じクラスになったA子ちゃん。初めての彼女は同じ部活で、しかも好きなバンドも同じだったB子ちゃん。B子ちゃんにすすめられてギターを始めた。同じ大学に進み同じゼミで仲良くなったC子ちゃんも素敵な女の子だった。C子ちゃんに影響されて就職先は東京に決めた。
今までの選択の連続、幸せだった事も辛かった事も全てに理由があった。
その日彼女のいる会に、偶然居合わせるため。
この人はなぜ僕を選んでくれたのだろう。
飲み会にいた3人の中では僕が一番好みの顔だったからだろうか。
職場にちょうどいい年齢の同僚がいなかったからだろうか。
彼氏が欲しいなと思ったタイミングだったからだろうか。
理由は分からないが運が味方してくれたことは間違いない。
仕事の予定をカレンダーに書き込む時、歯を磨きながら朝のニュースを見ている時、ふと「あー、今日元カレの誕生日だな」と思い出したりする。
今更会いたいとは思わないが、忘れられない人として心に住み着いた
カレは死ぬまで出ていく気はないらしい。
あんなに傷ついたはずなのに、
楽しかった思い出の中のカレは鮮明で永遠に年を取らない。
現実のカレは忘れられないカレとは別人だという事も理解している。
だからもう探したりはしない。
学生時代からの友人と久しぶりに飲んだ時、なんとなく登録したままのSNSを見ていた時、元カノの近況を知ることがある。
新しい彼氏ができたとか、来月結婚するらしいとか、
みんな幸せそうにしていて逞しい。
羨ましさと悔しさが顔に出ないように努めるけれど、友人にはすぐばれる。
自分は彼女たちの運命の人ではなく通過点でしかなかった。
ならば運命の人を探すまで。
付き合って丸2年。いつもは赤ちょうちん居酒屋を好む彼が
来週は気分を変えて少しいいお店に行こうと言い出した。
きっとアレだなとピンときた。
ベタなやり方しか思いつかない彼のことだから、お店に事前に知らせていて花火を刺したプレートなんかが出てくるのだろうか。
その時のわざと過ぎないリアクションてどんなだろうか。
酔っぱらうと着替えずにベッドに入ろうとするところ、ナイフとフォークの使い方が下手なところ、なんにでもタバスコをかけようとするところは直らないし、私が怒っていても全て受け流されて喧嘩にならない。
理想の相手ではない。でも私もこの年だし彼とならやっていける気がする。
付き合って丸2年。堅苦しいお店は苦手だという彼女だが
来週は気分を変えて少しいいお店に行こうと誘った。
勘のいい彼女のことだから身構えていることだろう。
どんなリアクションを用意してくるか楽しみだ。
出会った日に僕を射抜いた意志の強い目は健在で、頑固で強がりで負けず嫌いの彼女。テレビを見ながらコメンテーターに言い返したり、感動する映画を見ても涙を見せないように堪えていたりする。小さなことでよく𠮟られるけれど、そんな時は真正面で受けずに謝ってしまうことがコツだ。
理想の相手ではない。でも彼女をうまく扱える運命の相手は僕だ。