おいでやすこが M-1公式動画850万回再生のインパクト
私は今、猛烈に焦っている。
あと1時間でM-1グランプリの公式YouTubeから、ネタ動画の配信が終了になるからだ。
今、テレビに引っ張りだこの「おいでやすこが」が、ファーストラウンドで披露したネタが840万回再生を突破していることをご存じだろうか?
※追記 配信期限の5/31から日付が変わる直前に850万回再生を突破したそうです!
優勝はマヂカルラブリーで全く異論はない。(個人的には放送時、決勝ラウンドのネタで爆笑した。漫才か否かの論争も含めて面白かった)
ただ、準優勝コンビのおいでやすこがのネタが今日までの間に動画再生回数をここまで伸ばしたという結果は実に興味深い。(マヂカルラブリーが決勝ラウンドで披露したネタは554万回再生)
ちなみに、私が改めてこの動画を観た2月末時点では540万回再生だったから、いかにじわじわと再生されたかが分かる。そしてこの数字はダントツ1位で、どのコンビのネタ動画も未到達である。
M-1では、前情報が少ないコンビやネタの方が有利に働くといわれている。
やはりこういったコンテストでは、予定調和よりも展開が読めない方が笑いの爆発力が大きいのだろう。
結成2年目のおいでやすこがも、その法則が準優勝への追い風になったと思う。しかしこのネタは、M-1で披露された後も半年間ひたすら再生され続けている。
その理由はなぜだろう?
私は、既にこがけんさんの歌も空で歌えるようになったし、おいでやす小田さんのツッコミが脳内再生されるぐらい見ているのだが、それでも飽きない。未だに本番と同じくらい笑えるし、見るたびにネタの精密さに唸らされる。
つまり、オチを知っていても何度でも見たくなる魔力があるということ。
きっと、そのように感じる人が私だけでないから850万回再生という驚異的な数字を叩き出したのだ。
(補足すると、おいでやすこが公式チャンネルの登録者数は現在約4,4万人。再生回数は動画によってバラつきがあるが、MAX値が「M-1準優勝生配信」の28万回再生なのである。個人的にはどの動画もおもしろいので、もっと伸びてもいいのになと思う。まだ見たことがない人は、ぜひ「絵しりとり」の動画だけでも見て!)
閑話休題
では、このネタに宿る魔力とは何だろう?
その理由を数か月に渡りずっと考えていた。
もちろん、何度見てもおもしろいお笑いは歴史的にも多く存在する。
しかし個人的には、おいでやすこがのネタには音楽的中毒性を感じるのだ。
考え方のヒントとなったのは、
「ボケからツッコミのタイミングは、コンマ1秒違わぬタイミングで同じになるよう調整している」という小田さんの言葉。
彼らは1本のネタを最高の状態に磨き上げ、そしてその再現度を徹底的に追求していた。
視聴者は、仕込まれたオチやツッコミのタイミングが分かっているのに何度も求めてしまう。その理由を考えると、
このネタを音楽としても楽しんでいるという仮説は変だろうか?
その根拠は、「本気で好きな曲は何度聞いても飽きない」という単純なものだが、例えば赤ちゃんが「いないないばあ」で何度も笑うのは、脳の記憶機能の発達が関係しているのだそう。手で隠された顔が「ばあ! 」で再度出現することで、記憶通りのことが起こる。その期待感が面白いのだという説があるらしい。
ここからは個人的な見解だが、何度も聞いてしまうほど好きな曲に対しては「赤ちゃんのいないないばぁ」と同じような心理が働いているような気がする。
私には、「このタイミングでフェードインしてくるギターの音色が好き」
「アウトロのスキャットがあるからこそ曲の余韻が深まる。スキャットの言葉が変わってしまうとなんか違う」
というように、勝手に思い入れの深い曲がたくさんある。
ライブには、その日限りの特別感を味わうという楽しさも勿論あるが、好きな曲に限ってはちょっと例外だ。再現度、めちゃくちゃ大事。
ライブで急にボサノヴァバージョンなどを披露されても戸惑ってしまうのはそのせいだ。
だから個人的には「たとえライブでも、好きな曲の好きなポイントだけは外してほしくない」という心理がどうしても強い。
それこそ大好きな曲の大好きなポイントで、狙いすましたようなギターソロがライブで忠実に再現されるだけで、やはり「待ってました!!」と叫びたくなるような興奮を得られるのだ。
話が逸れた。
おいでやすこがのネタ=音楽と仮定すると、二人の特長一つひとつが非常によく機能しているのである。
まずは、こがけんさんの歌ネタ。
以前、本人が曲づくりのポイントを語っていた。
「いつも心がけているのは、ネタのように聞こえるけど、ギリギリありそうだったらありそうなラインに振るようにしている」
(芸人お試しラジオ『デドコロ』より)
つまりストレートに可笑しさへの接続を試みることよりも、あえて曲としてのリアルさや気持ちよさを優先するという遠回りにより、より大きな笑いを呼び込むことにつなげている。そしてボケ続けるときの表情が絶妙!
そして、おいでやす小田さんのツッコミ。
そもそも小田さんの声質とシャウトが「音」として唯一無二の状態に仕上がっているのかもしれない。
審査員が評していたように、ツッコミがシンプルな言葉であることも功を奏している。
あの歌の応酬に、言葉を尽くして被せにいくようなツッコミだったなら、きっと冗長に感じ消化不良を起こしただろう。
また、言葉は短ければ短いほどキャッチーであり、人の記憶に定着しやすい傾向がある。これも、同じネタを好んで繰り返し見てしまう理由の一つになっているのではないか。ネタ中、視聴者は「来るか、来るか…?」と小田さんのツッコミをワクワクしながら待ち、それが記憶しているタイミング・言葉で再現されることでカタルシスを得ている。
それにしても、今どき珍しいぐらいのシンプルツッコミが、近年の花形スタイルとして確立されつつある言葉遊び的ツッコミへのカウンターになったという流れも、どこかパンク的でかっこいいなと思う。
長くなってしまった。
以上が、オチが分かっていても何度も笑ってしまう中毒性を孕むネタである理由、
寿司ネタと同じく「鮮度が命である」というM-1の法則を超えた理由だと考える。
私が思う音楽的中毒性以外にも、本当に見れば見るほどさまざまな魅力が散りばめられた奇跡のようなネタだと思う。(例えば、同じフォームでも異なる投げ方で翻弄してくる感じとか、もうマジで匠!)
彼らの準優勝を後押しした外的要因はいろいろあれど、結成2年目の職人気質なユニットが1本のネタを磨き上げたというシンプルな事実にとにかくロマンを感じるのだ。
個人的には、このネタ動画をテンションの上がらない朝に再生することが多かった。2人の歌とシャウトは朝の一発には最高で、もれなくハッピーな気分になったし、これほどの完成度まで磨き切った経緯を想像しただけで、自分の仕事も手を抜けないなと気合が入った。本当にありがとうございます。
今日で動画の配信は終わるが、劇場でこのネタに遭遇するのを心待ちにしている。