人格の憑依 百合の思考を辿って
とある百合カップリングに関する記事が、読めば誰でも簡単に百合オタの視点と思考を辿れる構成になっていて好き。という話。
とあるpixiv百科事典の記事を読んだ時のこと。
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その記事というのは「ラブライブ!サンシャイン!」から、Aqoursの幼馴染コンビ、高海千歌と渡辺曜のカップリング、通称「ようちか」の記事である。
そこには、アニメ1話毎の絡みポイントの列挙、お互いを読んだ回数のカウントに始まり、雑誌での絡み、Twitterでの声優同士の絡みに至るまで注意点や特筆すべき点を交えて事細かに網羅されていた。
ああ。これは百合ヲタによって書かれているのだなと。この熱量、執拗な執念深さ、特有の気持ち悪さ(誉め言葉)。これは間違いなく百合ヲタによって書かれた記事だと。
当アニメはリアルタイムで追っていたのだが、二人の描写にここまで踏み込んで意味を見出してみたことはなかった。百合ヲタはたった数秒の描写からここまで妄想を膨らませるのかと奇妙な感動を覚えた。
そこで私は、彼らの思考を追体験したくなったのである。
早速DVDを借りた。百科事典の記事を参考にして、百合ヲタの視点から13話×2期を見直してみる。できるだけ彼らの感情を想像し、百合ヲタを憑依させる。
画面上で二人が横に並ぶ――来た。
数言の会話――これか。
二人すれ違う――うぐぐ。
二人仲直り――そうだ。
二人抱きつく――これだ。
なんというか、画面上に二人が並ぶだけでちょっと感情が高ぶるのである。それまで何も感じなかったワンシーンが、急に色鮮やかで、愛おしい瞬間へと変っていく。これが百合ヲタの視点、なんと幸せな人種だろうかと、羨ましいような、呆れたような。
2期が始まるころには最早、自分の百合ポイントを自分で見つけられるようになっていた。得てして、私は百合ヲタの視点を獲得した。楽しい憑依体験であった。
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私は本が好きだ。自分が直面することはないだろう特殊な状況で人は何を思うのか。逆に誰もが体験するだろう状況に、他の人はどこから切り込むのか。読んでいる間は、まるでその人が憑依したような、或いは隣で思考を覗いているような、他に形容しがたいなんとも不思議な気分になれるのである。
これはある種の 疑似体験 といえよう。
十把一絡げの凡庸な人間である私に憑依して、何者にでもしてくれる。
私にとって本、いや、文章というのは、「人格の憑依装置」とでも呼ぶべきものなのである。
これからもずっと、色々な人格を憑依させて楽しく遊んでいきたい。