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会社の子とマッチした。(前編)

この夏、会社の子とマッチした。


レモンサワーのおいしい居酒屋で仕事の話をするうちに、そうだとわかった。しかも、僕の勤めるビルのフロアに会議で来ることもあるらしい。

マッチングアプリで、同じ会社の人と出会うのはまぁ気まずい。とくに女の子はそうだと思う。深い仲になったら何かとリスクだ。

このままだったら、ただの同じ会社の飲み仲間で終わるような気がした。


「俺は異性として見ちゃってるけど、大丈夫?」


正直に伝えた。

相手にも僕をそう見てほしかった。



アプリで会った人の中でいちばん知的で、言葉の表現がきれいな女の子だった。

例えば、同棲の話題になり、僕が同棲はしたくない派だと話すと、彼女はこんなふうに返した。

「いっしょに暮らすと嫌なところもお互い見えてくるけど、いっぱい同じ時間を共有することで、私はその人の深淵が見たいんだよね」


もしかしたら、ちゃんと好きになるかもって思った。こんなふうに物事を深いところから捉え、豊かな言葉を用いて表現する人とTinderで会えるなんて思ってなかった。



だから、今後どういう仲になるにせよ、ただの飲み仲間では終わらせなくなかった。

僕が「俺はもう異性として見てる」と伝えると、彼女は口元を押さえて「嬉しい」と照れた。眼鏡のせいで知的でクールな印象が強かったから、どきっとした。



二軒目のバーを出て、23時。

歩きながら相手の手の甲に、自分の手の甲を軽く当ててみる。

するとわかりやすく距離を取られた。

その日は大人しく駅まで見送った。


駅からの帰り道、二軒目のバーのマスターが、最後まで残っていた女性と手を繋いで帰るところを見た。

やるなー、と心の中で思った。



会社がいっしょだった例の女の子と、今度は日本酒のおいしい居酒屋へ。

日本酒は詳しくないから、いつも響きだけで注文する。


「アプリはいつから?」


僕が聞いたら、


「今月からです」

「じゃあ、俺の方が先輩だね」

「先輩(笑)」

「なんでアプリ始めたの?」

「忘れたい人がいて」


彼女の忘れたい人は、別れてしばらく経つ、元恋人のことだった。

彼女はその元恋人にフラれ、しばらく仕事も手につかなかったらしい。でも、時間が経つにつれて、思い出さなくなっていった。

それが、少し前に元恋人が夢に出てきてしまい、また気になり始めた。


「まだあの人のこと、私、好きだったんじゃないかなって」

「そっか」


少し考えて、僕は続けた。


「執着してるだけってことはない? 実際、夢に出てくるまではずっと忘れてたわけだし。フラれた方は誰しも執着が少しは残るよ」

「そうかも」

「辛いかもしれないけど、今は俺と飲んでるんだし、俺と向き合ってよ。うん、俺が忘れさせられるように頑張る」

「ありがとう。なんか、細貝さんって、すごいね」

「すごい?」

「ほかの男性が言葉にしないようなことを、言葉にしてる」


僕自身、べつに王道のイケメンでもなければ、ピッチピチに若いわけでもない。ただ、僕は素直に思ったことは伝えている。多くの男性はそれができなかったり、くだらない嘘をついて自分の価値を下げているんだと思う。

素直にその子に対して、僕は好意を持っていた。それを伝えたかったのだ。



お店を出て、細い路地を歩いている間、僕たちは手を繋いでいた。



大通りに出て、左に行けば駅、右に行けば僕の家の方面だった。


「今日はうち寄ってかない?」


僕が誘うと、彼女は「はい」と照れながら返す。



彼女の深淵を少しだけ見れると思ったら、夜の街がきらきらして見えた。



言葉の一つひとつを丁寧に選び、自分の気持ちを繊細に表現する。そんな真面目な彼女が、僕が体を動かすたびに自分から腰を動かし、合わせてくる。僕も彼女の気持ちいいところに当たるように、彼女の腰を持って少し浮かし、腹側の壁を擦るように何度も中を突いた。

彼女はイキそうになると、僕の胸に手をやって遠ざけようとする。僕は逃がさないようにその手をベットに押しつける。果てる瞬間の顔を何度も見てやった。

控えめに言って、相性がすごく良かった。


「ごめん、シーツ汚しちゃった」


と照れる彼女が可愛かった。



それから僕は彼女と何度かデートをして、お互いの価値観をよく話した。仕事のことも、もちろん恋愛のことも。

このままさらに付き合うイメージが湧いたら、きっと僕たちは恋人になるのかもしれない。


そんなふうに思っていた矢先のことだったーー。


【後編に続く】

ーー

後編は明日アップします。

実体験を書いているので、予想以上に長くなってしまわれた……ごめんなさい😂

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細貝祐天
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