4.29「コントのコ」デザイナーズノート
4.29にヲルガン座で行われた「コントのコ」無事、終了しました。デザイナーズノートみたいな大層なお題目ですが、こういったものは、往々にして蛇足です。完成したものがすべてという感覚もあるのですが、自分の記録用の意味も込めて、書き留めておきます。ご興味のある方だけお付き合いくださいませ。
1:わたしは高城もえ(作・演出:村山タイソン)
高城もえ/ムカイダーメイ
ヲタ/中川綾子
舞台挨拶進行役/相原大樹
今回のコントは「4月から台本着手し、1か月以内で作る」という、これまでの中でも、最短の準備期間(顔合わせも3月末)、突貫工事中の最たるものだったのですが、その中で、最初に書いたのがこの「わたしは高城もえ」です。ムカイダーがアイドル好きなのを昔から知っていて、そこから連想しました。
アイドル=萌えなのと、なんか大仰な名前がいいなと思って、高木ではなく高城としたんですが、台本読みの際に、相原さんが「高城(たかしろ)」と読んでいて、あ、いいなと思って「たかしろ」にしました。まぁ名前なんてそんなもんです。
ヲタ役の人を中川さんにしたことは、何人かから「男性じゃないんだ?」みたいなことを言われました。そこは、譲らなかったポイントです。中川さんに演じてほしかった。コントって、見た目だけで笑えるのが説明を端折れるのでラクなんですが、それってともすると、無意識の偏見を助長するものになってしまう。アイドルヲタ=男性ってステレオタイプだなと。近頃は坂道系の人気から、アイドルの推しに熱をあげる女性というのも、超一般的ですからね。
最初の台本はがっつり高城はヲタに半目する感じにしてたんですが、途中から、素直にヲタの話を聞いて、関係値を築いてから決意の下で本番に臨む、という生真面目なタイプに変更しました。最初はツンケンしてる雰囲気だったんですが、素直な子みたいなキャラに修正されていきました。ムカイダーさんは飲み込みが早いので、役への落とし込みも早かったです。書いた段階では、あまり舞台挨拶進行役の相原さんが目立たないかな、と不安だったのですが、夜の部では相原さんからアドリブもあったりして、キャラが立ちましたね。
テーマは「推し」でした。
テレビでも「推し活」をカジュアルに扱うようになり、推すことで自己承認欲求を高めるような風潮は強まっています。その最たるものがアイドルですよね。アイドル戦国時代をくぐり抜けて、アイドルグループは時代と共に一般化にまで及んでいますが、「アイドルにどこまでを背負わせるのか」というのは、傍目に思ってます。歌も踊りもお笑いも一手に背負わされ、家に帰ればShowroomを配信している。日常的にカメラを向けられ、プライベートもままなりません。どこまで僕らはアイドルに期待するのか、そして活動を終え卒業したあと、本人はどこへ向かえば良いのでしょうか。アニメ主題歌を歌うアーティストにも思うことなのですが、アニメはモノであり、主題歌を歌うのは人です。アイドルを卒業しても、主題歌を降りても、変わらぬ無償の愛を献身的に注ぐことが、真の美しい「推し」の姿だと思うのですが、いかがでしょうか。
2:「でっかい」(作・演出:村山タイソン)
先輩/村山タイソン
久保/久保ユーリ
梶田/梶田真悟
居酒屋の店長/サトシコンドウサトシ
誰も間違ったこと言ってないコントが面白い、と最近サトシがよく口にしていて、何本か見せてもらった時に、なるほどと思って書いてみました。理解しようとする先輩と、諭すような後輩という構図を作りたくて、会社員を3人にしました。3人にしたのは僕の好きな「東京03」の影響もあるかもしれません。いわゆる、はっきりとズレたキャラが出てくるわけでもないので、台本を書いているうちは「これでいいのか・・・」と、ちょっと心配になってました。
特にキャラの書き分けがなく、当初は平坦なコントでした。津田さんが「久保くんにお酒を飲んでちょっと酔ってる感じ」を、サトシは「会話が先輩と後輩2人になりすぎている。もう少し久保と梶田の会話を増やそう」など、要素を足してくれたおかげで、物語に深みが出ました。
居酒屋のサトシはどちらかといえば、キャラ先行。というのも、サトシが「ヒゲを剃りたくない」とのことで、役回りどうしようかなと考えた結果、居酒屋の店主にしました。まぁ自分も白髪なので上司にするしかないんですよね。話が盛り上がってる時に、店員に話の流れを切られる気まずさって、なんだかあるあるで、そんな感じで出そうと。稽古を重ねるうちに、だんだんサトシはキャラが濃くなっていって、想定していたものよりだいぶ中身のないキャラになりましたが笑、お客さんの反応も上々でした。
多分見た人には気づかれていると思うのですが、ぼくなりのドラマ「不適切にもほどがある」です笑。コンプライアンスが語られるようになり、主に昭和世代が対処に悩んでいるようですが、その葛藤は、道理の違いではないかと思います。愚直でもいいから時間をかけて1を学んだ昭和世代と、その1を学ぶ間に、どうにかして3を学びたいZ世代、この溝をどう埋めるかは、個々人同士の対話にあると考えています。分かり合うためには、なかなか高い壁だとは思うのですが、昭和世代が開き直るものではなく、新たな時代にもがき苦しむ姿をやりたかったです。
昭和生まれのぼくとしては、新人には先達たちが、「任せる」「譲る」ことができれば、社会はうまくまわると思っています。終演後の感想として、「太一さんぽいですね」と結構言われました。自分的にはこのコントは新基軸で「高城もえ」がぼくっぽいと思っていただけに、けっこう驚きました。
3:肉の幸せ 肉は幸せ(作・演出:梶田真悟)
牛原/相原大樹
鶏田/ムカイダーメイ
豚座/梶田真悟
3月の打ち合わせの際に、梶田さんと相原さんの共通点が、食肉関係のお仕事の経験があるということがわかりました。そこで、「業界あるあるで1本作ったらいいじゃん!」となり、出来上がったのがこれです。ぼくのコントは会話劇が主なんですが、梶田さんは動きのあるものが好きで、その典型みたいな作品です。
最初の第一稿は、もっと走る量も多くて、広島の地名も出まくっていて15分近くあったので、その分量を減らしてブラッシュアップした感じです。イスの角度を変えて、車がどこに向かっているかを示すのは、舞台ならではで面白いですよね。最後のシーンで、牛原が豚座を抱えて車で走る様子は、映画のエンディングのようで好きでした。
広島の地名で位置関係を示しながらドタバタ走り回る、というコントを、梶田さんは以前も書いているんですよね。得意技なのかもしれません。肉の幸せとタイトルにある通り、この言葉が表すような「偏愛」がテーマにあるように思います。その部分では、1本目の「高城もえ」とも通ずるかな。動きを間違えたら即展開がズレる演出に加えて、食肉業界ネタの台本を知識ゼロで覚えたムカイダーは、特に大変だったと思います。練習量もほかのコントよりは緻密にやっていて、3人の労作といった印象の残る1本です。
4:澄み渡る君の笑顔、その向こうにボクが見たもの。(作・演出:梶田真悟)
CMスタア/クボユーリ
CMディレクター/サトシコンドウサトシ
妖精こっこ/中川綾子
CM制作を軸に、3人がエクストリームな展開をみせる作品です。中川さんの妖精がハマリ役で、アンケートの人気も高かったです。ストーリーテリングに荒っぽさのある作品ではありますが、構成はとてもわかりやすいし、推進力と勢いで魅せる方が、コントはぐっと良くなることがあります。その典型例といったところではないでしょうか。
ただ、制作までが順調だったかというとそうでもありません。稽古の途中で、津田さんから「これはスベると思う」との発言も飛び出し、演者と演出の梶田さんには、相当な焦りもあったのではないでしょうか。その言葉を受けて、クボくんが浮き沈みをはっきりさせて、エモーショナルな演技を加えたり、中川さんのかわいげも必死さも伝わるセリフが挟まったり、サトシがツッコミとして進行役を担ったり、キャラクターの役割が明確に定まって、俄然面白くなっていきました。稽古を重ねていく中で最も型が変わったコントとも言えるかもしれません。ヒロポ〜ン!は、昼も夜も爆笑がとれていました。
こっこさんの妖精を「かわいい」と楽しんでくれた人がいましたが、こういうのは「イタイ」と紙一重なんですよね。コントでは「イタかわいい」を目指さないといけない。その塩梅が非常にバランス難しいと思うのですが、
中川さんが上手に乗りこなして下さったのではないでしょうか。サトシの切れ味のいいツッコミはあまり見たことなかったので、けっこう新鮮でした。荒唐無稽さの中に、小さく道理を入れていって、感情移入をしやすくしたのが、面白くなった理由かなと思います。
このコントは、どう考えても僕は作れないです。勢いのあるコントって、ぼく作れなくてですね。どうしても展開に理由を求めてしまう。梶田さんの狂気的な荒っぽさは、ほんと武器ですね。このコントのほとばしるパワーは、「まちのらいと」屈指の出来ではないでしょうか。
5:横顔 (作・演出:村山太一)
パンデミック相原/相原大樹
ディレクター梶田/梶田真悟
女ブルースリー/ムカイダーメイ
リスナー(15歳の屍)/中川綾子
ラジオ局長/村山太一
居酒屋の店長/サトシコンドウサトシ
リクエスト曲の歌手/クボユーリ
最後はぼくの仕事だった、ラジオのコントをやりました。3月の顔合わせの時、相原さんが、20代のころのぼくにそっくりに見えてですね笑。彼を軸にした話にしました。ラジオの現場は仕事柄、イメージの解像度も高く、書くまでにはさほど手間は割いておりません。
とりあえず言いたいことばーっと書いてみたら、第1稿は、まさかの笑いなしになってしまいまして笑。さすがに真面目なのはちょっと・・・と、笑いを後から足していった感じです。相原さんには2週間ぐらいでセリフを入れてもらったので、ほんと大変だったと思います。
このコントの着想についてお話しするのは照れくさいですが、さくっとお伝えすると、パンデミック相原のことを、ディレクターの梶田くんは「パンデさん」、大阪の向田は「パンちゃん」ラジオ局長は「相原さん」そしてリスナーの中川さんは「相原様」と、みんな呼び方が違うんです。人というのは、他人のどの姿を見て評価するか異なる、だから、どの人が見たパンデミック相原も、彼そのものであり、彼のプロフィールの一面、横顔なわけです。他人の目線によって自分が構成されている。他人が自分を定めることもある、また逆も然りなんですよね。
3月の中旬ぐらいにサトシに電話をし、最後にコントをやりたいと言って企画が動き出し、津田さんが方々にメンバーの声かけをしてくれて、今回のメンバーが集まりました。4月から1ヶ月弱で仕上げないといけないにも関わらず、さそった演者は、みなさん快諾してくれて、タイミングがうまくいったのかもしれません。
ぼくは一時、コロナで塞ぎ込んで創作意欲が一切なくなり、人間関係を一度大幅に断捨離したもので、演劇に興味のある方々と、誰一人接する機会もありませんでした。退職というトピックがなければ、もう一度コントをやることはなかったでしょう。仕事、辞めてみるものですね笑。
出演者の中川さん、ムカイダーさん、相原さん、クボさんはもちろん、
さまざまな厄介ゴトを引き受け、自発的に助監督のような伴走を買って出てくれたサトシと、度重なる台本の変更にもイヤな顔せず対応してくれた梶田さん、そして、演出面でのサポートをしてくれた津田マイクさんには改めての感謝を。そしてヲルガン座のスタッフの皆様、店主、ゴトウイズミさんに関しては、今まで通り目をかけてくださり、最後には演劇の話もできてうれしかったです。(芝居もほめてもらった!)
なお、広島の演劇界のみなさん!ヲルガン座で芝居してソールドアウトしたら、些少ではございますが、メンバー分のギャラが出せました!!!イズミさんは芸事に取り組む人を応援してくれるので、ぜひ広島のみんな、お芝居をヲルガン座でやろう!!!そしてもちろん見てくれたお客さん、ありがとうございました。
わたしは6月より広島を離れ、新天地で新たな職に就きます。何かしらの創作物はやりたい気持ちもありますが、向こうでは当分、やらないかな…。広島では、本当にステキな座組に恵まれました。
時代は日々進み、お笑いの世界もどんどんと形を変えていきます。松本人志の退場は、「笑えるもの」を変えるターニングポイントでしょう。今回のコントで何が表現できるか分からなかったのですが、結果的には言いたいことがいえました。いずれか、自分も時代からズレていくのかな。一応、お客さんからいただいた反応を見る限り、まだ間違えてはいないようです。
暮らしにスプーン一杯のユーモアを携えていきましょう。
それではみなさん、お元気で。
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