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泉鏡花『春昼』『春昼後刻』概要
{小説概要}
『春昼』(しゅんちゅう)
『春昼後刻』(しゅんちゅうごこく)
泉鏡花の続きものの中編小説。
明治三十九年(1906)11月に『春昼』、12月に『春昼後刻』をそれぞれ「新小説」に発表。
この小説には妖怪や幽霊が登場しない(明示されない)ものの、全編に満ちる異界の気配はやはり鏡花作品特有のもの。
また、ドッペルゲンガー、水辺、儚い美女、生い茂る植物、気味の悪い動物(今作では蛇)といったモチーフも鏡花作品の常連。
小野小町の和歌
「うたゝ寐に恋しき人を見てしより夢てふものは頼みそめてき」
(読み:うたたねにこいしきひとをみてしよりゆめちょうものはたのみそめてき)
(意味:うたた寝をして恋しい人を見て以来、わたしは夢というあてにならないものを頼りにしてしまっています。)
この和歌にはじまり『春昼』『春昼後刻』には夢という言葉が執拗に繰り返される。
主人公の「散策子」は、
「もしかしたらいま自分の見ている現実も夢かもしれない。けれどこのままずっと覚めなければ夢ではなくなるのでは。」
といった内容を話している。
作中に出てくる逗子の岩殿寺やまんだら堂やぐら群といった実在の場所には鏡花のイマジネーションを刺激したであろう夢うつつの気配が今も漂っている。