【桃の花】 (泉鏡花文学ことば図鑑『春昼』)

”親仁はのそりと向直って、皺だらけの顔に一杯の日当り、桃の花に影がさしたその色に対して、打向かうその方の屋根の甍は、白昼青麦を烘る(あぶる)空に高い。”
泉鏡花『春昼』より

小説『春昼』の主人公、散策子が道端で声をかけたお爺さんの顔色はうっとりと酔ったようであったという。春の日が差す畑で鍬(くわ)を振るい汗ばむ老爺(ろうや)の赤い頬が思い浮かぶ。

桃の花は作中の季節を表しつつお爺さんの赤い顔に同系のピンク色を重ねるために書き添えられたようにも思われる。
春ののどかな日を連想させる暖かい色で場面が埋められている。
色の取り合わせに注目して読むと鏡花の想像がより身近で立体的なものになり、意図的な配色にも気づく。

他の作品で言えば『外科室』の前半は病室の白、後半は植物園の色鮮やかな場面への変化が分かりやすい。

(また『高野聖』の嬢様が桃の花に例えられていたことも思い出したのでメモ。
桃の花には誘いこまれる桃源郷のようなイメージがあるのかも。うつらうつらと夢の中に入っていくような。)

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