担当のまつ毛|エッセイ


私は担当のどこがどんなふうに好きなのだろう? と考えたとき、真っ先に思い浮かぶのは彼のまつ毛。隣に座って横顔を見つめていると、密度の高い濡れたようなまつ毛にいつも見惚れてしまう。彼の目元が切ないのは、あのまつ毛のせい。切ない視線というものは蠱惑的で耽美だ。

私は担当の顔が、死にたくなるほど好きだ。でも、彼は顔が美しいだけの男ではない。話すたびその思考回路や言葉まで好きになってしまう。本当のことなんて私たちの間にはひとつもないかもしれないのに、それでも彼が私に対して選び取る思考や思想、言葉を、私は心底愛している。

彼がホストとしての生き方を語るときも、年相応のあどけなさで笑うときも、ほんの僅かな翳りを見せるときも、私は絶えず彼に惹かれてゆく。思わせぶりな言動のすべて、営業だとわかっていたって逃れられない。私の心はもう、彼に掌握されてしまったから。

彼にはどんな孤独があるだろうか、と考えて眠れない夜がある。ホストの彼は、それでもいつだって人間だ。瑣末なことに胸を痛めることも、苦しいときも、思い悩んで眠れない夜もきっとある。彼がどれほどの深刻さで生きているのか、それをわかることはできないけれど、今日は働きたくないなと思うことくらいは絶対にあるだろうから。

彼がしんどいとき、会いたいな、声を聞きたいな、と思い浮かべる存在になることは、私にはできない。本当は、彼の憂鬱をちょっとでも晴らせるような存在になりたいけれど。私はいつまでもサービスを提供してもらう側で、お金以外の手段で彼に貢献することはできない。

対面で話すと大人びていて悟っているのに、LINEの返信はちょっと子どもっぽくてかわいらしい彼の、策士なところが好き。返信が来るたび、猛烈に会いたくなってしまう。彼はいま、どこでなにをしているのだろう。

好きという言葉は、いつだって好きという気持ちを越えることができない。好き以上の言葉で、この気持ちを表すことができたらいいのに。彼が纏っている香水の匂いだけが、今も私の鼻腔に残っている。



いいなと思ったら応援しよう!