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主人公はだれだ?─かえるの王さま

潜る本〜 『昔話 その美学と人間像』

『昔話 その美学と人間像』(マックス・リュティ著、小澤俊夫訳、岩波書店)>
第五章人間像 >  1節 メルヒェンの主人公(p.297〜)を読み、
そこに例として出てきた物語を読んで、学びを深めよう! 


装備本〜 『かえるの王さま』

グリム童話『かえるの王さま』(KHM1)
*語るためのグリム童話1より(監訳:小澤俊夫、再話:小澤昔ばなし研究所、絵:オットー・ウベローデ)


いざ、物語の海へ・・・

何にも知らない私がナビゲーターに!

知識も技量もない私ですが、この章のこのおはなしなら!とナビゲーターに立候補。なぜなら、本書(『昔話 その美学と人間像』)にこんな言葉があったから。

メルヒェンの主人公は、本質的に、いわば空(くう)のなかへ出発していく人間、さまよい出る人間である。彼は自分が出かけていく世間を知らないし、自分に課された難題を解く方法も、はじめのうちは知らない。ときには、自分の目的地さえ知らないことがある。

『昔話 その美学と人間像』(マックス・リュティ著、小澤俊夫訳、岩波書店)

この言葉に背中を押されるようにして参加を決意。

 1)潜る本の該当箇所(潜る章、潜る節)を読む。
 2)装備本を再読する。
 3)再び潜る本へ戻り、装備本に言及している箇所や気になった箇所、メンバーの意見がききたい箇所などをチェックする。
 4)要点をまとめる。

知識豊富で技量満々のメンバーの方だと、ものすごい装備で深海まで行って、お宝ザクザク持って戻ってこられる!すごいのです。(私は残念ながら素潜りレベルだけれど)

さて、グリム童話の『かえるの王さま』。ご存知ない方もおられますかね? 
私は何となくしか知りませんでした。いろんな方の訳がある思いますが、私が読んだのは、小澤俊夫先生の『語るためのグリム童話1』に収録されていたバージョン。前に一度読んだときは、正直あんまり好きじゃないな〜と思いました。
カエルが図々しい気がしたし、おひめさまも乱暴で・・・。

▼読んだことない人はここで読めます(ただし、良い訳かどうかは・・・)
グリムストーリーズ
https://www.grimmstories.com/ja/grimm_dowa/kaeru_no_osama

この物語の主人公はだれ?という疑問

以前は好きじゃないと感じた『かえるの王さま』を、落ち着いた環境でちゃんと読んでみました。最後までしっかり読んでみたら疑問が・・・!
──この物語の主人公って、だれなんだろう??
おはなしの内容的には、「おひめさま」が主人公。でも、タイトルは『かえるの王さま』(しかも本当は副題に《忠実なハインリヒ》と付くらしい)。王子さまかハインリヒの気もしてきたぞ。しっかり読んでると、ラストに出てくる忠実なハインリヒにグッとくるなあ!
ということで、個人的には、これはハインリヒが主人公の物語だ!と思いました。

そんなこんなでこの疑問を胸に、潜る本を再読してみると、こんな文章に出会いました。

忍耐する男、忍耐する女のみが、力を自らの内にためることができ、その力によってこそ、他人に向かっては援助者、救助者、救済者たりうるのである。他でもない魔法によって呪われた姿にされているあいだに超自然的な力を獲得できる、ということは特記すべきことである。

『昔話 その美学と人間像』(マックス・リュティ著、小澤俊夫訳、岩波書店)

《忍耐する男》それは『かえるの王さま』でいえば、王子さまとハインリヒ。
呪われた姿(つまり、カエル)にされているあいだに超自然的な力を獲得できていたのかもと思うと、王子が主人公のストーリーがあるのを想像しちゃいます。
反対に、おひめさまはまったくもって《忍耐する女》ではなかった印象。でも、潜る本にはこんな言葉も。

主人公は深く考えずに行動するし、今何をするのが正しいかを知らずに行動することもしばしばである。どうしていいかわからずに、腰をおろして泣くばあいでさえ、その行動は正しい。(中略)あの反抗的な王女は、腹を立てて蛙を壁に投げつけるが、その行為によって王女は、自分では知らなかった救済の条件をみたしたことになるのである。

『昔話 その美学と人間像』(マックス・リュティ著、小澤俊夫訳、岩波書店)

う〜ん。やっぱりおひめさまも主人公なのですね!

そんなわけで、皆さんはこの辺りをどう思われるだろうかとメンバーにお尋ねしたところ、こんなことが分かりました。

このおはなしには冒頭にこんな一文がついていた!
「昔むかし、まだ人の願いがみんな叶ったころ…」
なんて素敵な一文!(でも、整えられていくうちに取れてしまったらしい)
最初はこの一文がついていたことから、
「この物語は《救済の物語》なんじゃないか?」という話に。
《みんなの願いが叶う》物語なんじゃないかと。
そういわれて読んでみると、本当にその通りです!
おひめさまは金のまりを取り戻し→王子さまは人間の姿に戻り→ハインリヒの心は解放される。
グリムの1番目のこのおはなしは、《救済のはじまりの物語》なんじゃないか? という話に。なんとも素敵な潜水(深掘り)です。
そしてメンバーの方がおっしゃった一言。
「グリムの1番目のおはなしが、みんなが主人公みたいで、みんなが救われる、救いの物語だなんんて、なんだかグリム全体を象徴するようで感動しちゃうなあ」

人は勝手に救われる──見知らぬ誰かが、見知らぬ誰かを救っている






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