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【マカシリーズ】・ケータイ電話の都市伝説1

ケータイ電話の都市伝説。あなたは知っている?
【解放】されたもの逹の末路を…。


始まる

プロローグ


ねぇ、知ってる?

ケータイ電話の都市伝説。

何でも【解放】してくれるサイトがあって、そこに登録すると、選ばれた人にしか送られないメールがあるんだって。

そのメールを見たものは、【解放】されるんだって。



―自分を取り巻く全てのものから―



「どっかで聞いたことのある話だね」

 女子高校生のお昼休みは、大抵噂話で盛り上がる。

 3つめのパンを食べながら、マカはシラケた顔でそう言った。

「何よぉ。信じてないワケ?」

 対して、マカの向かいで紙パックのミルクティーをすすりながら話すミナは不満そうだ。

「ありがちな都市伝説だと言ったまでだよ。『ケータイに送られてくる呪いのメールを見たものは、呪われる』。マンガ、ゲーム、小説、映画、ドラマ、何にでも取り上げられる」

「そっそれはそうだけどぉ…。でも今回はマジだって! 実際、あたしの友達が…」

「ミナ、近しい友達じゃないなら、それは噂に過ぎない」

 そう言われ、ミナは言葉に詰まった。

 事実、今から言おうとしていたことは友達が友達から聞いた話しで…つまり出所の分からない話しなのだ。

「なっなら、こんな話しはどお? あたし逹、女子高校生の中に、オバケが紛れこんでいるっていう噂話」

三つめのパンを食べ終えたマカは、ゴミを袋に入れた。

 興味の無さそうなその態度に、ミナはガックリうなだれた。

「ほぅ。それはどんな話しだ?」

 視線をこちらに向けないまま、マカがそう言ったので顔を上げて話し始めた。

もう一つのウワサ

「あっあのね」

そのウワサはこうだった。


女子高校生の中に、人成らざるものがまじっている。

その存在は若い子の生気を吸って生きているらしい。

吸われたものは、1日は寝込んだままになる。


「…それはただ単に、学校を休みたい生徒が、口実にしているだけでは?」

「……かもね」

言っているうちに、自分でもそう思えてきた。

「まあ都市伝説なんてそんなものだろう」

「でっでも、ケータイの方は本当だと思うよ」

「しかし【解放】って何?キレるって意味?」

「…かな?」

自信無さげに答えると、マカはため息をついた。

「まっ、あんまり深入りするな。受験に必要無い話しなら尚更だ」

「分かっているわよぉ。いーじゃない、たまの息抜きぐらい」

「ミナは気が抜けている。もう少ししっかりしろ」

そう言ってマカはゴミ捨てに立ち上がった。

ミナは深く息を吐いた。

すると近くにいた友人逹に声をかけられた。

「マカは相変わらずそっけないわね」

「ミナ、友達してて疲れない?」

「そっそんなことないよぉ。マカ、面倒見てくれるしあたしの話し、ちゃんと最後まで聞いてくれるもん」

深入り

しかし友人逹は複雑な顔をするばかり。

やがてマカが戻ってくるのと同時に教師も教室に来たので、話しは中断された。

クラスメートの中で、二人はこういうイメージを持たれている。

ミナは育ちの良い娘。基本的に人を強く憎むことがない。だがそれは優柔不断とも言える。可愛らしい容姿が、子供っぽさを出す。

マカは常に冷静沈着。だが冷めているところがある。ミステリアスで美しい容姿から、近寄りがたい雰囲気がある。

全く正反対の二人が、この後、今しがた話していたウワサに巻き込まれることを、誰も予想だにできなかった。


―そう。非現実は何時だって扉を開けて待っている。現実から逃げ出したいと言う、願いを持つものに―




それから数日後。

ミナはむくれた表情でケータイをいじっていた。

別に見たいサイトがあるワケではないが、インターネットを適当に見回っていた。

むくれている原因は、今日行われた三者面談。

しかしミナのところは両親揃って来た。

当人逹が行きたいと言うので、担任に無理を言って、来てもらったのだが…。

結果は大失敗。

一応、大学受験を希望していたが、緊張感が無いと3人から怒られた。

いや、マカを含めると4人だ。

登録

 緊張感が無いワケじゃない。

 ただヤル気が無いだけなのだと言ったら、もっと怒られた。

 …いや、マカは呆れていた。

 マカは成績優秀者として、表彰されたこともある。

 なので担任と両親は彼女から勉強を教われと言った。

 マカからも教えてやるとは言われたものの、ヤル気が無いので、頼め無い。

 何にも出来ずに、ただ時間を過ごしてばかりではいけないとは感じている。

 しかしヤル気が全く無い。

 なのでふてくされて、ケータイをガチャガチャいじっていたのだ。

 しばらくして、友人からメールが届いた。

 中学時代の友人で、高校は別になったので今は滅多に会わない。

 そんな友人がくれたメールの内容を見て驚いた。


『ケータイの都市伝説、知ってる? そのサイト、見つけたんだ!』


 メール内容はその文章と、一件のHPアドレス。

 ミナは深呼吸して、アドレスを押した。




 それから一ヶ月後。

 ミナは変わった。

 自ら勉強をするようになり積極的になった。

 そのおかげか、成績は上がり、周囲の評判もよくなった。

 マカに迫るほどの成績の上がり具合に、マカが難色を表した。

「ミナ、自分自身に何をした?」

 ある昼休み。マカはいつになく厳しい顔をしていた。

サイトの力

「ふぇっ?!」

 あまりにまとを得た質問に、思わず声がひっくり返った。

「多少の成績の上げ下げはまあ良い。精神的なものが絡んでいるからな。しかし上がりっぱなしと言うのはいただけない」

 そう言って、2つめの弁当に手を付ける。

「特にお前みたいな優柔不断タイプには、あり得ないことだ」

「…はっきり言ってくれるわね?」

「事実をのべたまでさ。ーで? 何をしたんだ?」

「例のサイトを見つけたの」

 ミナはあっさり言った。

「中学時代の友達に教えてもらったんだ。ヤッパ本当だった!」

「ほぅ。それでお前は【解放】したのか?」

「したように見えない? あたし変わったよ?」

 マカは弁当を半分食べたところで、ペットボトルのお茶を飲んだ。

「今のミナはサイトの力を借りて、自信がついただけに過ぎない。実力で得てないものはいずれ消え去る。その後も今のミナが保てるなら、変わったことを認めよう」

「借りてって…。いずれは消え去るって…」

「あり得ないことではなかろう? 突然得たのだから突然消えてもおかしくない」

 濁りの無いマカの眼に見つめられ、ミナは思わずその場から走り去った。

あり得ない力

「つーかさ。ミナ、大丈夫なの?」

 近くにいたクラスメートが恐る恐る声をかけてきた。

 いつもならミナがいる時にしか話しかけてこないのだが、ミナの変化に少なからず戸惑っているようだ。

「ミナ、最近ずっとケータイばっか見てるでしょ?」

「それってさ、例のサイトのヤツなんでしょう?」

「ヤバくない? だってあのサイトってさ…」

 マカはクラスメート逹が語る都市伝説を黙って聞いていた。

 昼休みが終わるギリギリになって、ミナは戻ってきた。

 だがその顔色は真っ青だった。



 ―そして放課後。

「ミナ、例のサイト教えて」

「え?」

 マカはケータイ片手に、ミナに話しかけた。

「私も見てみる。効果を調べてみたい」

「でっでも、マカに【解放】するところなんて…」

「無いことは無いんだ。だから試してみたい」

 はっきりと言われ、真っ直ぐに見つめられてはイヤとは言えない。

「…分かった」

 ミナは自分のケータイを取り出し、例のサイトを画面に出して、マカに渡した。

「ありがと」

 マカは両手で二つのケータイを操作した。

 一分も経たないうちに、ミナのケータイを差し出した。

「今日はどうする? 一緒に帰るか?」

求める【解放】の力

「う…うん」

 その帰り道、二人の間には沈黙しかなかった。

 いつもならミナが話しかけて、マカが淡々と答える光景が繰り広げられるはずだったが…。

「ねぇ、マカ」

「何?」

「怒ってる?」

「何を?」

「…サイトのこと」

「別に。ミナがやりたかったことなら、黙ってやってても文句は言えまい」

「でも…怒っているように見える」

「気のせいだろ」

 しかしどことなく暗雲が漂っているように見えるのは気のせいではないだろう。

 マカが自覚しているのかどうか分からないが、結構ヤキモチをやく。

 ミナが他の友達と仲良くしたり、マカに黙って何かするとかなり不機嫌になる。

「ねっねえ、マカが【解放】したいことって何?」

「ミナは?」

「あっあたしは…」

 言い詰まっているミナを横目に、マカは黙々と歩く。

「…ああ、そうだ。ミナ、例のサイトの噂、最後まで知っているのか?」

「最後?」

「例のサイト、【解放】するものを制限しないらしいな。だから【解放】されたものは中毒症状が出るらしい。【解放】されたくてたまらなくなるらしい」

「中毒って…」

「症状としては、ずっとサイトを見てしまうらしい」


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