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【マカシリーズ】・ケータイ電話の都市伝説2

【解放】前

 マカは振り返り、ミナの眼を真っ直ぐに見つめた。

「ミナ、昼休み。教室飛び出した後、何していたんだ?」

「何って…」

 ミナの顔色はすでに白かった。

 そのままミナの家の前まで来たので、話しは中断した。



「…何って…」

 ミナはぼんやりと言葉を繰り返した。

 今はもう夜。そろそろ寝る時間だ。

 しかし眠気が無い。

 マカの言葉が頭から離れないのだ。

 このサイトの悪いウワサはある程度知っていた。

 でも今更止めるワケにはいかなかった。

「マカにやっと近くなったのにっ…!」

 ギリッと唇を咬んだ。

 マカは成績優秀者として、そしてあの人離れした雰囲気によって、一目置かれた存在だった。

 それが口数少なく、取っ付きにくい性格でもだ。

 そんなマカが、自分と親しくしてくれる理由が分からなかった。



 出会いは入学式の時。

 クラスに入って、マカと眼が合った。

 それだけでマカの方から近づいて来てくれた。

 それ以来、親友と呼べるぐらいまで仲良くなったつもりだった。

 しかし不安は募るばかり。

 マカに一度、何故『自分』だったのか尋ねてみた。

「一緒にいるのが楽だから。ミナは純粋だから」

 …と、的をえない返答だった。

【解放】後

 マカは『自分』に『何』も求めていない。

 そう思うと悲しくて、情けなかった。

 だから望んだ。

―情けない『自分』からの【解放】を―

 なのにマカは認めてくれない。

 勉強もスポーツも、成績が上がった。

 意見をはっきり言うようになって、周囲の評判も良くなった。

 なのにマカは喜んでくれない。

「足りない…のかな?」

 まだ【解放】が足りない。だからマカは満足してくれない。

「…なら」

 手に持っていたケータイを手慣れた操作で例のサイトを開いた。

 パスワードを入力すると、画面が変わった。

 真っ黒の画面に浮かぶ、青白い魔法陣。

 サイトに登録すると、質問メールが日に一度届いた。

 他愛のない質問だった。 

 だがある日、自分は選ばれたというメールが届いた。

 そのメールにあったパスワードは、【解放】する為の魔法のパスワード。

 サイトにアクセスし、パスワードを入力すると見れるこの魔法陣。

 この魔法陣を見ていると、自分の中から何かが溢れ出してくる。

 すると何にでも自信を持てるようになった。

 不思議なことに、見れば見るほど気分が良くなる。

―あたしは選ばれた。【解放】するにふさわしい者として…―


【解放】終了

 その時、マカはミナの家の前にいた。

 無表情ながらも、その心境は複雑だった。

「杞憂ならいいが…」

 クラスメート達から聞いた【解放】後のこと。

 ミナはすでに中毒症状が出ていた。

 忠告はしていたが、ミナには届いたのか…。


ガシャーンッ!


 突如響いた音に、マカは顔を上げた。

 ミナの家の窓ガラスが割れた音だ。

 マカはミナの家に入った。

 そしてミナは…。


―ぐるるるぅっ…―


 理性の失った眼をして、リビングで暴れていた。

「チッ、予想通りか」

 マカは舌打ちし、素早くリビング内を見回した。

 リビングの隅に、ミナの両親がお互いを抱き締め合いながら小さくなっていた。

「ミナのご両親、そこにいろよ」

 ミナの両親はいきなり現れたマカの言葉に、首を縦に振って答えた。

「ミナっ!」

 マカが呼びかけると、ミナは手に持っていたイスを落とし、こちらを向いた。

「今度は理性から【解放】されることを望んだか…。いや、自分を抑える者達からか? どちらにしろ、そんな強さは偽物だ」


―ぐうっ…―


「言いたいことがあるなら、聞こう。ただし、場所を変えてな!」

都市伝説の真実

 そう言うとマカは踵を返し、家から飛び出した。

 続いてミナも追って来る。

 マカはケータイ電話を取り出し、素早く操作をし、例のサイトから魔方陣の画面を出した。

 黒い画面に浮かぶ青白い魔方陣。

「私は【解放】を望む。限界からの【解放】をっ!」

 マカがそう呟くと、魔方陣が赤く光輝いた。

 マカはその光を眼に受けると、地面を思いっきり強く蹴った。

 マカの体は二階建ての家の屋根の上に上がった。


―ぐるっ!―


 するとミナも同じように飛んで来た。

 マカはケータイを握り締めながら、屋根に飛び移る。

 しばらくミナと走り、二人は学校の屋上までやって来た。

「ここなら誰の邪魔も入らないだろう」

 そう言って、マカはミナと向き合った。

「さて、ミナ。人間としての理性を失ってまで得た【解放】の力はどうだ? 今のその姿が、お前の望んだものなのか」


―ぐっ…!―


「お前が何を思い、【解放】の力を求めたのかは私は知らないし、知らない方が良いのだろう。だが…」

 マカは真っ直ぐにミナを見た。

「今のお前は私の親友じゃない」

 ミナの眼が揺らいだ。

 そんなミナの様子を見て、マカは苦笑した。

「今のミナは好きじゃないよ」

都市伝説の正体

 ミナの眼が大きく見開かれた。

―ぐっおおおおおっ!―

 空に向かってほえたミナの体から、青白い光が飛び出てきた。

 その光が全て抜けた時、ミナの体から力が抜けた。

「ミナっ!」

  駆け寄ったマカは、ミナの体を受け止めた。

「マ…カ」

 虚ろな表情だが、ミナは理性を戻していた。

 やつれた顔で、マカの顔を見る。

「ゴメン、ね」

「…いや、いい。迷惑を掛け合うのも、親友の醍醐味だろ?」

「ふふっ…。ありが…と、う」

 柔らかく笑うと、ミナはそのまま気を失った。

 ミナの体を一度強く抱き締めると、静かに横たえた。

 そしてマカはケータイ電話を見た。

「―さて、ミナは失敗したぞ? 諦めることだな」

 赤く浮かぶ魔法陣に向かって声をかける。

―フフッ…。残念だなぁ―

 しかしケータイ電話から、少年の声が聞こえてくる。

「雑魚食いは悪食が過ぎるぞ? そんなに空腹なワケではあるまい」

―まあね。ちょっとおもしろそうなゲームを考えたから、やってみただけ。ちょうど良い具合に腹も膨れたし、ここいらで引き上げるよ―

「人間の持つ、本能の力を食らうとはお前らしいが、選ぶ相手はあまりよくないみたいだな」

【解放】の意味

 【解放】後、病院に入院する者達が絶えないらしい。

 クラスメート達はそれを心配していた。

 【解放】とはいろいろな仕方があるそうだが、最終的には理性を失い、暴れ出す。

 そうなれば、病院へ行くしかない。

 しかし入院しても理性は戻らず、まるで動物のようになってしまう。

 あるいは最悪、廃人状態にもなりうる。


―う~ん。そこら辺は相手次第なんだよ。どれだけの【解放】を望むか、だね―


「ウソをつくな。ある程度抑えられるのも、お前の力加減次第だろう?」


―ボクはキミのように力加減が上手くないんだよ―


「ならしばらくはおとなしくしていることだな。力加減を覚えるまで、お前の好き勝手にはさせない」

 マカの真剣さに、声の主は深くため息をついた。


―…分かったよ。しばらくは自重する。しばらくは、ね―

 

 含み笑いをし、ケータイ電話の画面は元の待ち受け画面に戻った。

「ったく…。イタズラが過ぎるぞ」

 グチりながら、マカはケータイをしまった。

 そしてぐったりとしているミナの体を抱き上げた。

「…まったく。お前が関わらなければ、私も動くことはなかったのに」

 苦笑しながら、ミナの額に口付ける。

都市伝説よりも不思議な…


「…どーもバカな子には甘いらしい。年は取りたくないものだな」

 そう言って地面を蹴り、屋上から地面へ飛び降りた。


―【開放】の力を使わずに。


「おっと。人目があるかもしれなかったな。いかんせん、癖は直りにくい。…言葉遣いも気を付けねばな」

 ため息をついたマカの眼は、鈍く赤く光っていた。

「ウワサにもなっているみたいだしな。都市伝説とはあなどりにくい。…まっ、それが私だと気付いた者はいないだろうが。…同属以外は、な」




 ―数日後。

 ミナは不思議そうに首を傾げた。

「何で無くなっちゃったんだろう? 例のサイト」

「サイトなんていつ消えてもおかしくないでしょう? それより集中! 試験近いんだから」

「あっ、はいはい」

 昼休み、ミナはマカに勉強を教わっていた。

 例のサイトが消えたことにより、【解放】の力が無くなったミナ。

 しかし考え方が変わったのか、マカに勉強を教わるようになった。

「不思議なのはあの夜もそうなんだよねぇ。例のサイトの画面を見てから記憶は無いし、リビングは散らかってたしぃ。両親も何で散らかってるのか分からないみたいだったし」

「局地的な地震でもあったんでしょ?」

都市伝説はすぐ側に

「そっかなぁ」

「そうそう。それより早く問題解いて。昼休み、終わっちゃう」

「うっうん」

 慌ててノートに向かうミナを見て、マカは微笑みながら頭を撫でた。

「まったく。ミナは可愛いわね」

「えへへ」

 嬉しそうに笑うミナを見て、マカは思った。


―ああ…。この子の気は本当に美味しい―


 マカは若い人間の生気を喰う。

 しかしその食欲以外、普通の女子高校生と何ら変わらない。

 本当の年齢も学年と合っているし、見た目も変わることはない。


―ただ、力を使う時に眼が赤くなる以外は…―


 そして若い人間の生気を喰うこと以外は。

 マカの好物はミナみたいな純粋な心を持っている者。

 【解放】する力を持つ者のように雑多喰いはしない。

 普段は普通の食事で間に合わせているが、時々どうしてもたまらなく喰らいたくなる。

 けれど喰らい過ぎると、喰われた人間は倒れてしまう。

 一晩眠れば元に戻るが、都市伝説にまでなっているのなら控えた方が良いだろう。

 しかし今はもう大丈夫。

 ミナが側にいるから。

 側にいるだけで、食欲は落ち着く。

 だから平気。

「ん? マカ、どうかしたの? にこにこしてる」

「うん。ミナが側にいてくれて嬉しい」

日常の中にある非日常

「うん! あたしも嬉しい。ところでマカの進学先、あたしと同じ大学だけど、大丈夫なの?」

「もちろん。推薦でも良いけど、ミナと一緒に試験受けたいから、受験するよ」

「そっそうじゃなくてぇ。マカならもっと上の大学目指せるんじゃないの?」

「ああ、そんなこと。いーの。私はミナといたいから」

「マカ…。んっ、じゃああたし、頑張らなきゃ!」

「うん。一緒にいられるよう、頑張って」




 ―そう。頑張って。

 ずっと一緒にいられるように。

 その為なら、私は何だってやるから。

 私からあなたを奪うものは決して許さない。

 誰にもあなたを譲らないから…―

【終わり】


#ジャンププラス原作大賞

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