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能楽、海を越える⑤-1【武田伊左 先生】公演編🇩🇰デンマーク🇸🇪スウェーデン

🌏能楽、海を越える✈️

海外公演を経験された先生方に
海外で能はどのように受け入れられているか、
公演から学んだことや気づき、苦労したことなどをお話いただきます。

また、観光編として、能楽師がおすすめする観光情報も掲載していきますので、
ぜひ今後の旅のご参考にどうぞ!

第5回目は
武田伊左(たけだ いさ)先生です。
デンマークやスウェーデンでの公演についてお話を伺いました。🇩🇰🇸🇪

■武田伊左 Takeda Isa
シテ方宝生流能楽師
平成2(1990)年、東京都文京区生まれ。武田孝史(シテ方宝生流)の長女。2000年入門。19代宗家宝生英照、20代宗家宝生和英に師事。初舞台「草紙洗」子方(2000年)。初シテ「吉野静」(2013年)。


──デンマークとスウェーデンでの公演を定期的にされているとのことですが、公演することになった経緯を教えてください。
デンマークから美学の勉強をしに日本に来ていた留学生シモン・ロイ・クリステンセン氏との出会いがきっかけでした。彼は日本での留学中、父(武田孝史)と私の教室に熱心に通い謡と舞の稽古を受けていました。
デンマークでの能楽プロジェクトの夢を一緒に語るようになり、彼とそのパートナーである中山由希子氏と共にNOH+DENMARKを設立しました。

私が初めてデンマークに行ったのは2017年の5月でした。初めての1人での海外渡航で緊張していたものの、デンマークの街並みや景色の美しさがとても印象的でした。9月に公演やワークショップを企画するための視察で参りました。
この2017年のプロジェクトが私にとって自分で一から作る初めての海外イベントで、コペンハーゲンオーフスという2都市で3つの公演と3つのワークショップを開催しました。

2017年9月22日 
オーフス大学にて
装束付き舞囃子「羽衣」
美学学科向けワークショップ内での能の動き体験
日本語学科向けワークショップ内での面体験


──海外公演のときに意識されていることは何ですか。
国内外で企画をする中で私がとても大切にしていることは「交流」です。一方的にこちらの文化を披露するのではなく、それぞれのお客様に心を通してお伝えし、体感していただけるような企画作りを目指しております。


──これまでの公演について教えてください。
2017年のコペンハーゲンでの公演の1つではデンマーク在住の現代音楽家の方々ともコラボレーションをする取組みをしました。

2017年9月24日 
KonsertKirken 教会ホールにて公演
デンマーク現代音楽家とのコラボ作品
四季をイメージして

この2017年の企画でスカンジナビア・日本ササカワ財団様より日本・デンマーク外交樹立150周年記念奨学金をいただきました。授賞式ではデンマーク王国フレデリック皇太子殿下より授与していただきました。

次の2018年にも同じ2都市にて3つの公演と3つのワークショップを、2019年は1人でコペンハーゲンへ行き、ワークショップと教室事業を実施しました。


2020年、2021年は海外渡航が難しくお休みをしましたが、2022年には大学の同期である飯田有佳子氏と共にコペンハーゲンとスウェーデンのマルメへ行き、室町時代の文化をテーマにした能とお茶とお香のワークショップを3カ所にて開催しました。

スウェーデンでのワークショップのチラシ
コペンハーゲンビジネススクールでの和文化体験講座
コペンハーゲン日本人補習学校にてワークショップ
面の工作&体験


2023年には再度コペンハーゲンにて公演をできる規模の団体で渡航し、美術館、大学、日本の企業のコペンハーゲン支社のホールにて公演、及びワークショップを実施しました。

アルケン美術館にて 公演&ワークショップ

来春にはデンマークとスウェーデンでのワークショップ、2026年には公演を計画中です。


──デンマークやスウェーデンでの公演で苦労されたことは何ですか。

基本的には企画から交渉、事務処理、経理等を全部自分でしているため、色々な壁にぶつかることがあります。
もちろん上手く行くことばかりではなく、予期せぬ事態にみまわれたことも何度もありました。その対処を英語でしなければならなかったり苦労したこともありますが、様々な経験をしたことで鍛えてもらい勉強になりました。

7年続ける中で色々な方々との出会いがあり、一緒に企画段階から協力してくださる方がいたり、つながりが増え、皆様に助けていただいてます。

──公演の際にはどのような曲を選ばれていますか。
デンマークの文化で有名なものと言えば、家具デザインや文学、建築などが思い浮かびますが、私の中ではデンマークの家具のデザインを見ると装飾で凝ったデザインよりもそぎ落とされたシンプルなデザインが多いというイメージでした。

賑やかな曲よりは静かな曲を観て、抽象的なものから想像を膨らませてそれぞれの世界観で舞台をご覧いただきたいなと思いました。
ですのでデンマーク公演では序之舞(非常に静かな品位ある舞)のある曲を上演する機会が多かったです。

はじめの2017年には静かな動きの「羽衣」と、それと対比して動きのある「八島」の後半を上演しました。

また、「井筒」や「杜若」などをするときは、日本の文学作品の説明をデンマークの女優さんに朗読していただいたこともあります。今、宝生能楽堂でやっている夜能のようなスタイルですね。
デンマークでの公演ではまずデンマーク語で朗読劇を観ていただき、能のそれぞれの曲の世界観を少しでも身近に感じていただいてからご覧いただけるように工夫しました。

2018年9月22日 
NationalMuseetにての公演
デンマーク人女優による労働劇「井筒」と
装束付き舞囃子「井筒」の上演


──お客様の反応はいかがでしたか。
初めて能をご覧になるお客様からの感想も曲のストーリーや目に見えている部分だけでなく、奥の部分を見てくださっているなと感じるコメントが多かったです。美学的で哲学的な感想もいただきました。
序之舞はあまり動きがなくて、それぞれの動きが本当に抽象的ですが、「15分、20分、ずっと見続けられる」という風におっしゃっていた方もいました。

聞いた話では、北欧の人は暖炉の火を静かに見ながら休日を静かに過ごす方もいらっしゃるらしいです。彼らにとって能を観ると、その暖炉の火を見て過ごすことと似た時間の過ごし方ができ、その世界に没頭したり、自分と向き合う時間にもなるようです。装束を付けた上演方法だけでなく、舞囃子や仕舞、一調などの能に比べるとシンプルな上演形式も人気でした。

──デンマークやスウェーデンの会場はどのような場所ですか。
コンサートホール、教会、美術館、大学や会社内の講義室、体育館・武道場など様々な場所でさせていただきました。

2017年9月23日 
DESIGN MUSEUM DANMARK
デザインミュージアムデンマークにて
装束付き舞囃子「羽衣」
2018年9月23日
KonsertKirken 教会ホールにて公演
同ホールにて公演前ワークショップ

家元が昔、「能を観る時は、美術作品を見るようなイメージで能を観てほしい」とおっしゃっていたことがあります。(詳細はこちら✨)

絵や彫刻などの作品を鑑賞するのと同じように、能の見どころとなる部分だけを切り取って上演する上演形態がお客様からもご好評のお声をいただいております。

最低限舞台を囲む4本の柱は持って行くようにし ていますが、舞台設備などはできる限り会場にあるものやそのままの状態で使っています。
特にデンマークやスウェーデンでの公演では大がかりな舞台設営をせずにシンプルに気軽に能を楽しんでいただくことを意識して企画を組んでいます。

「距離感をつかむために柱が大事なんです。」
と語る伊左先生
宝生能楽堂の稽古舞台にて


──昨年2023年に宝生能楽堂で能とスウェーデン・ジャズのコラボレーションの催しがあり、伊左先生もご出演されていましたが、どのような内容でしたか。
こちらはスウェーデン大使館の呼びかけで佐々智樹氏と共にプロデュースをさせていただいた企画でした。「能楽堂にて能とスウェーデン・ジャズの邂逅」、このテーマで一から企画に携わらせていただきました。(詳細はこちら✨)

第1部では「天鼓」のシテを私が勤め、第2部ではスウェーデンジャズを、第3部ではスウェーデン のジャズミュージシャンと父(武田孝史)が共演しました。会場には今まで能を観たことがないお客様にも多くお越しいただき、再演を熱望される多数のお声をいただきました。

能の魅力を新たなお客様に発信できたこと、他分野との共演で新たな可能性を見出せたこと、そしてスウェーデンとの文化交流に携われたことなどたくさんの成果がありました。


──公演情報を教えてください。
・「能へのトビラ 夏」
令和6年9月14日(土)14:00開演(13:00開場)
於:青葉の森公園芸術文化ホール
入場料:一般1,000円/学生無料
→能「天鼓」の一部上映       シテとして出演。
※別途体験ワークショップあり(HP参照)
チケット発売中!!
🌻こちらをクリック🌻


・「九月宝生会定期公演 午後の部」
令和6年9月21日(土)15:30開演(14:30開場)
於:宝生能楽堂
入場料:一般5,500円/学生2,750円
→能「殺生石」のシテとして出演。

▼チケット発売中✨



インタビューにご協力いただきありがとうございました!


こちらの記事も併せてどうぞ!!

▪️能楽、海を越える【観光編】
デンマークのおすすめの場所について🇩🇰


▪️伊左先生の稽古舞台について

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