読まなくてもいい長い前置き
「デザインフェスタ」というイベントをご存じだろうか。
東京ビッグサイトで開催されるハンドメイドの大きな祭典だ。
わたし自身、その名前は以前から耳にしていたけれど、土日祝日出勤平日シフトのサービス業社畜の民には正直なところ無縁な世界だと思っていた。
クリエイターさんの作り出すものは一点物が多く、原価+製作費+完成までに投じた時間+技術料。それらの集大成が作品という形を成して販売され、購入者を待ちわびるように並ぶ巨大な祭典。
自分のような平社員には簡単に手も出せないし、ましてや土日に開催されるイベント参加なんて夢のまた夢。
選ばれし者のみがそこにブースを構えることができる知る人ぞ知るイベント、デザフェス。……なんて想像でしかなかった場にまさか自分が東京で、かの有名なビッグサイトで、日曜日に、一般参加すらすっ飛ばし、出展するだなんて数年前の自分に言ったらどんな顔をするだろうか。
多分「何言ってんだお前」という顔をすると思う。
突然だが、わたしは創作が好きだ。
ちいさい頃から絵本が大好きで、この絵本の中にもし自分がいたらどんなだろう。もし乗馬が出来たら自分はどんな風景をこの馬と共に見に行けるのだろう。もし猫と会話が出来たらどんな話をするだろう。なんて空想の世界で生きるのが得意だったわたしは小学校低学年の頃「夏休みの思い出」というありきたりな宿題に対して山で遭難し、洞窟で一晩を過ごし、狐と友達になった。などという夢物語を教室の後ろに貼り出される一枚絵の絵日記に堂々と描いて提出するような生徒だった。
そのため、わたしの母は家庭訪問で担任の先生に「作文で空想の世界の話を書いてしまうんですよね」と度々困惑の言葉をかけられたようだ。
母本人は、少し変わった人というか天然の祖母から生まれた天然の娘のような人なので「あら~そうなんですか~すみません~。うちの子絵本が大好きなもので~」なんて感じで気にも留めていなかったようだが、変な子と思わず育ててくれて、とてもありがたい話である。
そんなわたしは昔から割となんにでも興味を持って「とりあえず気になったら始めてみる」性格だった。
リカちゃん人形の髪を切って美容師さんごっこをしたこともあれば、絵を描くのも好きで漫画の模写もしたし、手芸部に入ってフェルトでぬいぐるみを作ったりもした。
お年玉で買ったエレキギターは早々にリタイアし、なんとなく先輩に教えてもらったドラムが楽しくて学生時代に友人と組んだバンドではドラムを担当していた。三次元の推しバンドの追っかけコスプレイヤーを経て、二次元のアニメゲーム界隈に入り、今度は二次元のコスプレイヤーとして衣装を自作していたこともある。
手を動かして、そこからなにかを生み出すことが好きで、編み物もその数多くある好きなもののひとつだった。
キッカケは小学生の頃にCMでやっていた機織機のオモチャが欲しくて、クリスマスだったか誕生日だったか……記憶はあいまいなのだがプレゼントで買ってもらったその機織機で、父の車の肘置きにかけるマットを編んだ。
祖母や母に教わりながら、棒編み、カギ編みの基礎を学んでマフラーを編んだりしていたのが中学生。
そこからしばらく先にあげたような「やりたいこと」「興味を引いたもの」に手当たり次第に手を出して、本格的に編み物を再開したのが2019年頃のことだったと思う。
オタ活のフィギュア趣味が昂じて稼働するフィギュア「ねんどろいど」に出会ってしまったわたしは、そこからドール沼という罪深くお金のかかる沼に落ちた。(余談だが、これから当沼に落ちそうな人は財布の紐をしっかり結んで離さない覚悟をした方がいい。ご利用は計画的にしないと破産する)
ある時、ふらりと立ち寄った100円ショップの手芸コーナーに並んだ手触りの良さそうなグラデーションの毛糸を見て「久しぶりに編み物でもしてみようかな」と思い立った。
ドール用のマフラーを編むには1玉で十分で、それでも綺麗な配色につられていくつか毛糸を購入した。
道具は随分と前に処分してしまったので、棒針とかぎ針もついでに100円ショップで購入して自宅に帰り、うろ覚えな記憶と編み物動画を頼りに久しぶりに作ったマフラーは今思うとガタガタだったけれどとても綺麗なグラデーションだった。面白い。そして無心に自宅で出来るのもいい。
そこから夢中になるのはあっという間で、昔の感覚やYouTubeの配信動画を頼りに基本的な編み方の感覚を取り戻した。
友人に巾着を作ってプレゼントしたり、祖母にアクリルタワシを作ってプレゼントした。
ふとした時。
マフラーにも帽子にも飾りのポンポンにもならないけれど捨てるには長すぎる中途半端に残った毛糸の残骸と出会う。
捨てるには勿体なさ過ぎる量。けれど短すぎて何も作れない。
なんとなく取っておいた毛糸たちだが、さてどうしたものか。
しばらく眺めたのち、この半端に残った毛糸たちを丸く編みながらつなげて行って目を付けてみたらどうだろうか。という考えにたどり着く。
所謂「あみぐるみ」というやつだ。
完全に感覚と自分が持っている知識だけで、気まぐれに、思うがままに手を動かした。
顔になりそうな部分を編む。ただの丸ではつまらないので触覚のような耳を生やした。途中で糸がなくなったのでボディの部分は違う色になった。
マフラーの余り糸は短いので最終的にコロンとした小さな4cm程の球体が出来上がった。
さし目と呼ばれるぬいぐるみ作りで目になるパーツが無かったのでとりあえず手縫い糸で刺繍をしてみる。
クマのような、虫のような形だ。
折角だから、リボンとかスタッズとか装飾を付けてみたい。
そんなこんなで出来上がったのが「星ツムリ 1号」である。
結局その日生まれた星ツムリは3匹。
さし目とリボンを買いに行く間にもこもこした毛糸を見つけてうっかりそれも購入し、増えた毛糸でひつじのようなものも出来た。
ひつじにはリボンを付けたいから長めの尻尾を生やした。
・・・・・・割とカワイイではないか。
眺めているとなんだか愛しくて、虫みたいなサイズだからわたしの好きな本「星の王子様」のように空からやってきたお星さまの虫にしようか。
名前は星蟲。あまり可愛くない。
星虫、星むし、カタツムリみたいな形だから、星ツムリ。
星ツムリにしよう!!
そんな感じで生まれた彼らを眺めながら、生み出したことに満足したわたしはフォロワーさんに向けて「欲しい人いる?」とツイートを発信した。
こう言っては何だけれど、わたしは作る過程が好きで完成品にはあまり執着がない。貰ってくれて、可愛がってくれる人がいるならそっちの方が俄然嬉しい。軽い気持ちで募集をかけたら思いのほか、反応をもらえた。
結局その日、ノーマル、ひつじ属、ウミウシ属の3種類を誕生させてフォロワーさんの家に送り出した。
募集の過程で「わたしも欲しい」と声をかけてくださる方が増えた。
ならば、作ろう。なんか楽しいし!
そんな偶然と気まぐれと適当さが重なって生まれたのが星ツムリ研究所の原型となる星ツムリである。
まさかあの頃は「星ツムリ」がこんなに多種多様に進化していくなんてわたしは夢にも思っていなかった。
気付けば最初の1号が生まれてから3年。
なぜかわたしは「デザインフェスタ」の会場で、星ツムリのオーナー探しをしていたのだから世の中、何があるかわからないものである。
長くて何の身にもならない前置きを読んでいただいた稀有な方にはもうお察しかと思うが、「なんとなく」。
わたしはただその感覚だけで割と適当に生きている。
自分に誇れるものがあるとしたら後先あまり考えない行動力だと思う。
長所であって短所であるそれをわたし自身は結構気に入っている。
なんとなく勢いで創作を始め、なんとなく勢いでどうせ出展するならたくさんの人に見てもらいたいという理由でデザインフェスタに参加し、その結果今までコロナ渦の影響もあり通販対応だけだった研究所の「星ツムリ」たちに対し「星ツムリってなに?」という素朴で尤もな質問をいただくことが増えた。
口頭やツイートで紹介はしているものの、140文字という文字の制限や時間の流れで、TLという膨大な数のツイートに流されていってしまう作品の世界観を、ここで改めて知ってもらうのもいいのではないかなと思い、それこそ「なんとなく」この記事を書いている。
はよ本題に入れや、と思った人も多いかもしれない。
すみません、お待たせしました。
研究所の所長として、ここからは「星ツムリの世界」をご紹介していこうと思います。
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