
台北プライベートアイ
台湾ハードボイルドと聞いて読み始めた。アジア系のバイオレンスはなかなかにエグいのでドキドキしていたが、確かに殺人事件は起きるけれど主人公の博覧強記に基づくウィット/ユーモア満載の語り口調が面白く、クスクス笑ってしまう作品だ。
この作品の魅力を挙げてみる。
☆深い造詣、軽妙な比喩表現
作者の知識を無駄にひけらかして悦に入っている作品というのは読むに耐えないが、この作品は違う。主人公の身にいろいろ起き、思考する。大変な場面も多いのにユーモアが満ちていて、しかも比喩表現の元ネタが台湾、日本、アメリカ、イギリス、中国など多岐に渡っている。その部分だけでも相当に面白い。
☆台湾人、台湾社会論
私は香港映画が好きだったので香港人についてのイメージはあるのだが、台湾人も似たところが多いなと興味深かった。
特に友情と親子関係。昨日まで見知らぬ人だった相手と兄弟のように親しくなる速度と深度は、我々日本人に比べるとかなりのものだ。
かと言って自分に不都合なことがあったりすると光速で裏切ったりもする。命懸けの情があるのに計算も忘れない強かさ、かっこつけず自分に正直に生きる精神は香港、台湾両方に共通している。逞しい。
そして母親の存在が大変強い。平均的日本男児より母親にコンタクトを取る(取られる)回数と干渉が桁違いに多い。未成年だけではなくおっさんになっても。そして社会的にもそれを良しとされている。
韓国ドラマを見た時も思ったが、日本を除く儒教が流行った国では、社会人男性も頻繁になんでもかーちゃんに電話している。私だったら鬱陶しい……イタリアもそうなので儒教は関係ないのか…
☆人生哲学
中華系の作品に触れると、人生哲学が日本と似ているようで全然違うのだなと思う。仏教、儒教は日本にも浸透しているけれど、日本お得意のオリジナル化、ガラパゴス化で独自の形になっているのだろう。